JR東海は東海道新幹線における大規模災害や不測の事態の発生に備え、毎年、各系統の社員およびグループ会社の社員による総合事故対応訓練を実施している。11月17日、東海道新幹線の三島車両所で訓練が行われ、その様子が報道関係者らに公開された。

  • 総合事故対応訓練で使用されたN700S。カバーが外され、連結器があらわに

報道公開で実施された訓練は、「先頭連結器引出し及び中間連結器装着訓練」「防護装備品を活用した警察との連携訓練」「線路設備復旧訓練・飛来物除去訓練」「大型クレーン使用訓練」の4つ。台風や豪雨による被害を想定した訓練に加え、昨今の社会情勢を踏まえた不審者対策の訓練も行われ、約700名(外部も含む)が訓練に参加した。

「先頭連結器引出し及び中間連結器装着訓練」では、東海道新幹線の車両が大規模災害等で自走できなくなった事態を想定し、保守用車との連結のために先頭連結器を引き出し、中間連結器を装着する訓練が行われた。

  • 今回の訓練では、初めて訓練車両にN700Sが使用された

  • 2回に分けて連結器カバーを取り外す

  • 中間連結器は非常に重いため、2人がかりで装着する

今回、初めて訓練車両にN700Sが使用され、先頭部のカバーを外す場面も見られた。N700Sに搭載された連結器は保守用車の連結器と形が合わないため、中間連結器を取り付ける必要があるという。

続いてN700Sの車内に移動し、防護装備品を活用した警察との連携訓練が行われた。この訓練は昨今の社会情勢を踏まえ、追加で実施が決まった。名古屋駅を発車した「のぞみ6号」が三河安城~豊橋間を走行中、不審者が乗客を刃物で切りつけたとの想定で訓練が行われ、乗務員、パーサー、警備員が業務用携帯電話のグループ通話機能を使って緊密に連携。警察によって不審者が確保されるまでの一連の動作を確認した。

  • サングラスをかけた不審者が乗客に刃物を向ける。乗客の多くは客室外に退避しており、非常通話装置を使用して乗務員と連絡を取る

  • 警備員とパーサーが残存乗客を退避させながら、負傷者の状態を把握し、安全な場所へ移動させる。パーサーは座席の座面を用いて身を護っている

  • 列車を豊橋駅に臨時停車させ、愛知県警が車内に突入。不審者を説得するも抵抗したため、公務執行妨害で確保した

JR東海の担当者によれば、今回は愛知県内を走行中との想定だったため、愛知県警と連携して訓練を行ったが、定期的な現場の訓練では他の都府県の警察とも連携し、訓練を行っているとのこと。

近年激甚化する大雨や台風を念頭に置いた「線路設備復旧訓練・飛来物除去訓練」では、大規模災害により線路内に土砂が流入し、飛来物が付着したほか、防音壁と架線柱に被害が出た状態を想定して訓練を実施。営業運転が困難な状態からの復旧をめざす動作を確認していた。

大型クレーンを使用した重量物の吊上げ訓練も実施された。大型クレーンの訓練はこれまでにも行われてきたが、大型クレーンが「低床トロ」と呼ばれる車輪を用い、線路内で重量物を吊り上げる訓練は初めてだという。

  • 大型のラフタークレーン。クレーン単体では線路内を自走できないため、「低床トロ」を挟んで走行する

  • クレーンで柱を吊り上げ、架線に引っかかった障害物を取り除く

  • 吊り上げた柱を事業用車の荷台に載せる

報道公開された訓練以外にも、架線の復旧やパンタグラフの集電シュー交換作業など、さまざまな訓練が行われた。新幹線の安全の裏には、こうした鉄道会社や関係会社の人々の地道な努力がある。そのことを心に刻まずにはいられない。