森田まさのり氏による人気漫画を舞台化した、舞台『ROOKIES』が現在上演されている(東京:シアター1010 11月18日~23日、大阪:サンケイホールブリーゼ 11月26日~28日、滋賀:栗東芸術文化会館さきら大ホール 11月30日)。ドラマ・映画も大ヒットした同作の舞台版では、主役の川藤幸一役を根本正勝が務め、個性豊かな球児達がそろう。
今回は、物語でも中心となる高校生・安仁屋恵壹を演じる宇野結也にインタビュー。役者生活5周年を迎え、自身の思い入れもある作品に出られることに、感慨があるという。作品についての思いや、役者として目指す姿など、話を聞いた。
■オーディションの話を聞いて絶対に受かりたかった
――今回、舞台『ROOKIES』に出演が決まった時には、どのような思いでしたか?
ちょうど舞台『盾の勇者の成り上がり』の本番中に、マネージャーから「こういう話があるんだけど、オーディションを受けてみる?」と教えてもらって、もう「ぜひ」という感じでした。僕の世代で知らない人がいないくらいの作品で、絶対に受かりたかった。リアルタイムでドラマ版を見ていたんですが、当時役者をするつもりもなかった自分が、こうやって作品に参加できることになるなんて、本当に「人生ってわからないな」と、決まった時はすごく嬉しい気持ちでした。
今改めて作品に触れると、メッセージ性の受け取り方が違ったりもして、それもすごく楽しいです。自分もそれなりに大人になって、当時はそこまで感情移入しきれなかったキャラにも目が行くようになり、御子柴の葛藤や優しさにすごく感動したり。川藤についても、稽古をしながら「教えるというより、飛び込む勇気を持たせる、余白がある教育をしてるのかな」という話にもなり、そういうところもすごくいい作品だなと思います。
――川藤って、24歳なんですよね。今考えるとすごく若いなと…。
そうなんですよね。だから、ちょっと未熟な部分もあったりする。でも不安定な部分や弱い部分がある方が支えたくなったりもして、そこが川藤、そして『ROOKIES』の魅力なのかもしれません。
――オーディションの話も出てきましたが、積極的に受けられていたりするんですか?
オーディション、好きなんです。この仕事を始めた理由も、自分を試したいというか、怖いもの見たさというところがありました。実は役者になるか海外に行くか悩んでいた時期があって、でも難しいと言われる世界だからこそ自分の目で確かめてみたいと、こちらを選んだんです。だから、オーディションも楽しい。めちゃくちゃ緊張するんですけど、一緒に受けている人の意気込みを見たり、その場で芝居をしたりしていると、自分も頑張ろうと思えるんです。
やっぱり常に攻めの姿勢がいい、守りに入ったらダメだとも思っていて。役者を始めた時にすすめられて、山崎努さんの『俳優のノート』という本を読んだことがあるんですが、当時はちんぷんかんぷんで何が書かれているのかわからなかったのに、最近読み返してみたらちょっとわかるようになっていたんです。今、面白いと思うのは「捨てる勇気」といったことで、「今まで培ってきたものをまた0に戻すという作業が難しい」と書かれていたことが、印象に残りました。常にそういうことの繰り返しで、何か武器を得たとしても、それをまた捨てる勇気も必要だったりするんだと、僕自身が実感しています。
――今回は舞台上で野球を表現するとのことで、そこについてはいかがですか?
ミュージカル『テニスの王子様』、ミュージカル『陰陽師』で共演した武藤賢人君と仲が良いのですが、決まった時に1番に彼に話をして、野球を教えてもらいました。彼はめちゃくちゃ野球に詳しくて、本当にすごいんですよ。僕はあまり野球と触れてこなかったんですが、彼の解説を聞きながら見る野球はすごく面白いんです。舞台の参考になることについても、スローモーションにした投球映像や、「ダルビッシュ有さんのちょっと前のフォームが、美しく見えるんじゃないか」と映像を送ってくれたりして。バットではなく傘を持って、稽古前に一緒に公園で練習もしました(笑)
稽古に入ってからはさらに野球に詳しいメンバーもいて、先日、みんなで野球もやりました。100球くらい投げて、ピッチャーってこんなに疲れるんだなと思いましたけど、途中から制球もできるようになってきて、すごくほめてもらいました。舞台上でも野球をしますが、本当に球を使うわけにはいかないので、どういう球に反応しているのかという表現は、大事にしていきたいと思っています。試合で何が起きているのか、鮮明に伝えていきたいです。ベースを足でならすとか、踏み込む位置を確認するような所作もきちんと表したいので、実際に野球の試合をやったことが、僕たちにとっても財産になりました。1点が入ることの嬉しさも、実感しました。
――それこそ『テニミュ』での経験が活かせそうな気もしますね。
その経験も活きてくると思います。どういう球が飛んできて、どういう球で返しているのか。テニスだったらスライスなのか、ドライブなのか、フラットなのかとかもありましたし。
■役者生活を振り返って、濃い5年間
――役者生活5周年ということですが、改めて振り返ってみるとどのように感じますか?
役者をやろうと思って東京に出てきて、気づいたら事務所に入れて、人生で初めて受けたオーディションの1発目がミュージカル『テニスの王子様』でした。順風満帆だと言っていただけるかもしれませんが、僕としては不安なことも多かったです。『テニミュ』を卒業して数年経ってみて、自分が伝統や部長役の重みを背負っていたことも、改めて感じました。当時はとにかくガムシャラにテニスボールを追いかけ、作品を良くしたいという気持ちだけで演じていて、それが僕という人間を成長させてくれたのだと思いますし、『テニミュ』が終わってからは、役者として何ができるかを突き詰めていった期間だったのかもしれないです。
そこからコロナ禍になって、初主演の舞台が中止となってしまったことで、言葉で表せないくらいの悔しさに包まれて、でも切り替えてやろうと思って。今出ている役者の本を調べて、今までお世話になった演出家の方にも聞いて片っ端から読んだり、自分の体が資本だということに気がついたり、自分を振り返った時期でした。でも、こういうことを全部表に出したいとは思わなくて。やっぱり夢を与える仕事ですし、お客さんに楽しかった、幸せだったと思ってもらえる空間や時間を提供し続けたいと、さらに感じるようになりました。やってきたことが、遅れてでも自分に返ってくると信じて動いていたし、少しずつ返って来ているのも実感しています。人にもすごく恵まれていると感じるので、周りの方に感謝して大事にしていきたいとも思っています。
――まだ5年、というのも逆に驚きます。
そうなんです。色々振り返ってみたら、本当にいろんなことがあったなと思います。濃い5年間を過ごさせてもらって、でもこうやって活躍できるのはファンの方や関係者の方のおかげで。僕は、僕が良いと思われることはどうでも良くて、作品が良いと思ってもらえることが1番なんです。だから、そのために自分表現の幅をもっともっと増やしていくことが、ここから先の目標です。色々な棚を持っておいて、作品ごとに適切に出していくようなことが、これからさらに大事になってくると感じています。
――もしかしたら舞台『ROOKIES』は5周年記念の作品にもなるかもしれませんね。
そうかもしれません。やっぱり僕にとってはすごく嬉しい作品で、当時少年だった自分が見ていた作品に携われるというのは、授かりもののように思います。
■宇野結也
1992年5月21日生まれ、岐阜県出身。男劇団 青山表参道Xのメンバー。2016年にミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 手塚国光役でデビューし、その後様々な作品で活躍する。主な出演作にドラマ『ドクターY 外科医・加地秀樹』(18年)、『絶対BLになる世界VS絶対BLになりたくない男』(20年)、舞台『仮面ライダー斬月』-鎧武外伝-、ミュージカル「陰陽師」~大江山編~『あいまいばかりの世界』(主演)、舞台舞台『パタリロ!』~霧のロンドンエアポート~、『盾の勇者の成り上がり』(主演)、『魔界転生』など。2022年3月上演、本能バースト演劇「sweet pool」の出演を控える。