印影(いんえい)とはハンコを押した際に残る朱肉の跡です。印影をはじめとして、印鑑やハンコ、印章などの言葉は実生活で正確に使い分けされることは少ないですが、本来はそれぞれ異なる意味を持ちます。
この記事では印影の定義や印鑑・印章との違いを解説します。法的効力や印影照合の方法、印鑑登録などについてもまとめました。
印影とは
印影とは朱肉をつけたハンコを紙に押印したあとに残る朱肉の跡のことです。正確には印影、印章、印鑑はそれぞれ異なる意味を持つ言葉となっています。契約書の締結や宅配便の受け取りの際の押印は、押された印影こそが本人が確認した証明となるわけです。
印影は朱肉の跡の意味
印影はハンコを押した印である朱肉の跡を指します。ハンコを押すためには印面に赤い印肉(インク)をつける必要があり、それが朱肉です。
なお朱肉は「スポンジ朱肉」と「練り朱肉」の主に2種類にわけられます。スポンジ朱肉はフェルトやスポンジに朱肉の材料を染み込ませたもので、その印影は事務処理などに使われます。練り朱肉は材料を植物繊維に染み込ませた泥状のもので、印泥(いんでい)と呼ばれることもあります。
朱肉の種類によって印影の厚みや速乾性は変わってきます。また、紙への浸透度が高いものを使用すれば、転写による印影の不正の心配は軽減できます。
印影には法的効力がある?
契約書などの文書に印影や署名を求められることがありますね。印影や署名が本人によってなされていた場合は、その文書は法的な正当性を持つとみなされます。つまり「私はこの文書の契約内容に同意しました」という証拠となり、基本的には法的効力を持つということです。
そもそもハンコとは? 語源も紹介
ハンコとは一般的にハンコ本体を指す俗称です。後述しますが、ハンコ本体は印章とも呼びます。印影はハンコ本体ではなく、押印した朱肉の跡ですから印影とハンコは別の意味の言葉です。
ハンコの語源は「版行・板行(ハンコウ)」という説があります。版画を印刷して発行する工程を版行と呼びます。また、ハンコの漢字である「判子」は当て字となっています。
印鑑とは
一方、印鑑とは役所や銀行などで登録したハンコの印影のことです。個人が役所や銀行などで登録できる印鑑では、例えば実印や銀行印があります。
印鑑は登録されたハンコの意味
印鑑は登録されたハンコの印影であり、ハンコ(印章)や印影を総合的に「印鑑」と呼ぶことはもともとは誤った使い方です。しかし、実情としてはハンコ自体を印鑑と呼ぶケースは日常にあふれています。
個人の印鑑の種類(実印・銀行印)/認印とは
個人の印鑑には主に「実印」と「銀行印」の2種類があります。実印は住民票のある役所で後述の「印鑑登録」を行って、本人だと証明するハンコです。手続きや契約などの重要な場面で自身を証明します。
銀行印は銀行や信用金庫などの金融機関で登録を行うハンコです。預金者本人と証明するため、窓口での引き出しなどでは銀行印の提出が求められます。ただし、ネット銀行では銀行印の届け出が必要ない場合もあるため、銀行によって対応はさまざまといえます。
なお、役所や銀行などで登録を行っていない実印や銀行印以外のハンコは全て「認印」と呼びます。荷物の受け取りや書類の確認など、個人が日常的に使用するハンコです。
法人の印鑑の種類
法人の印鑑には主に「代表者印」「会社銀行印」「角印」の3種類があります。代表者印は会社設立時に法務局に登録するハンコです。個人の実印のような扱いで、代表者印は法的な拘束力を持ち、重要な場面で使われます。
会社銀行印は会社の銀行口座開設の際に登録を行うハンコです。手形や小切手の発行などで使われます。
角印は会社における認印で、役所や銀行などに登録されていないハンコです。請求書や領収書などに押されるように、日常業務で使われる役割を持っています。
印鑑登録・印鑑証明書とは
個人の印鑑登録とは住民票のある役所でハンコを登録することです。登録には実印となるハンコと身分証明証が必要となります。
法人の印鑑登録は会社設立の際に法務局にハンコを登録することで完了します。登録したハンコが代表者印となります。
印鑑登録が完了すると印鑑登録証というカードが付与され、こちらを使用することで印鑑証明書を発行することができます。
使い方
印鑑は本来、ハンコ自体を指すわけではなく、印鑑登録されている印影のことを印鑑と呼ぶため、ハンコの意味合いで印鑑が使われるのは正しい表現とはいえません。
例えば「書類のこの部分に印鑑を押してください」「印鑑を買ってきてほしい」は間違った表現で、正しくは印章またはハンコです。印鑑を正しく使う場合は「印鑑登録のために銀行へ印章を持っていく」などと表現します。
印章とは
印章とはハンコは同じ意味で、ハンコ本体を指す言葉です。書類に使用する印章だけではなく、さまざまな素材の印面に文字や絵を彫ったものを総合的に印章と呼びます。
印章は、ハンコ本体の呼称
印章はハンコ自体を指していて、ハンコとは古来より石や水晶、金属などさまざまな素材に文字や絵を彫り、書面や文章で証明をするために使うものです。印章自体が証明になるのではなく、印章で残した朱肉の跡が証明となります。
印章が歴史に登場した最初は動物や幾何学が彫られたスタンプ型でしたが、次第に文字が彫られた円筒型の印章が現れました。日本で印章が使われ始めたのは、奈良時代の中国の隋や唐の印章を模倣した官印とされています。
印章はハンコ自体を指すため、趣味の分野で作品の証明として使われる印章もあります。例えば、落款印(らっかんいん)は落成款識印(らくせいかんしいん)の通称で、絵画や書道などで作品の完成を示す意味を持つ印章です。全ての作品に落款印は必要ではありませんが、落款印を押すことで、作家性が高まって作品が引き締まる効果があります。
作成する方法
印章(ハンコ)は個人や法人でどのような使い方をするかによって、サイズや種類を選ばなくてはなりません。まずは必要な印章の種類を確認しておきます。
印章はサイズや書体、素材、印影の文字、形状などを作る目的によって設定します。店舗やネット通販サイトなどで購入して作成する方法があります。
誤用が多い
印章を使って紙に印影を残すことで、本人が確認した証明となります。印章を役所や銀行に登録することを印鑑登録と呼ぶため、印章と印鑑は同じような意味で誤用されることがあります。
使い方
印章はハンコそのものを指す場合に使われます。例えば「契約書に押印するから印鑑を持ってきて」は正しくは印章、ハンコとなります。一般的に印鑑と呼ばれるときは印章を指す場合があるので注意しましょう。
印影の使い方
印影は押印した本人が確認したことを証明する意味合いを持ち、印章や印鑑とは区別するものです。印影の使い方について解説します。
使い分け方
ハンコ自体を印鑑と呼ぶケースのように、ハンコに関する言葉の使い分け方は現状は曖昧です。しかし、厳密に言葉を使い分けるならば、まずは文章や作品の証明に使うものを印章(ハンコ)と呼びます。押印した印が印影であり、役所や銀行で印鑑登録を行い、実印や銀行印となった印章で押した印影が印鑑となるわけです。印章、印影、印鑑の3つを使い分けましょう。
印影照合の方法
印鑑が正しいものであることを確認する方法を印影(印鑑)照合と呼びます。印影照合を行うためには、照合したい相手の印鑑証明書を用意する必要があります。書面に押された印鑑と印鑑証明書の印鑑を比べることが、印影照合の基本的な方法です。
肉眼で確認する「平面照合」は適切な方法で行えば、裁判所も認めている方法です。ほかにも残影を確認する「残影照合」、印鑑を重ねて確認する「折り重ね照合」、透かして確認する「透かし照合」があります。
道具を使う場合だと、拡大鏡を使って確認する「拡大鏡による照合」やスキャンした画像を比較する「コンピュータによる照合」などの方法で印影照合が可能です。
電子印による印影も、将来的には実印や銀行印の代わりになる?
電子印とは、クリックすればパソコン内の書類に押印できる、デジタルのハンコのことです。最近ではビジネスシーンにおける契約などに使われることも多くなってきました。
電子印は現時点ではまだ、実印や銀行印の代わりにはなりません。しかし今後よりペーパーレス化が進めば、将来的には代わりとなることもあるかもしれません。
悪用を防ぐためにも、ハンコにまつわる言葉の定義の違いをしっかり理解しよう
印影とは、ハンコの本体である印章を、朱肉をつけ紙に押したときに、紙に残る朱肉の跡を指します。ハンコ本体のことは印章と呼び、役所や銀行などで登録されたハンコの印影のことを印鑑といいます。ハンコ、印鑑、印章、印影は区別されずに日常的に使われているケースがありますが、厳密には前述のように使い分けを行います。
ハンコにまつわる言葉や印鑑の種類は多様です。本人以外に不正利用されないためにも、印影照合の方法やハンコの種類ごとの意味を理解しておきましょう。