「篆刻」とは印鑑の材料となる石などの底面に、好きな漢字を刻むことです。文字を彫る面積が小さく高度な技術を要しますが、篆刻は必要な道具とやり方さえわかれば誰でも楽しめます。

本記事では篆刻の基礎知識から篆刻に必要な道具まで、篆刻に関する詳細をまとめました。併せて篆刻印の作り方と使用後のお手入れ方法もご紹介します。

篆刻を学んで、オリジナルの篆刻印を作ってみましょう。

  • 「篆刻」とは

    新しい趣味として篆刻を始めたい方は必見です

篆刻とは?

まずは篆刻とは何なのか、定義について見ていきましょう。

篆刻(てんこく)の意味は、印材に篆書体などで文字を刻みはんこを作ること

「篆刻」の読み方は「てんこく」で、落款印(らっかんいん)や遊印(ゆういん)の別名もあります。元々は印材に篆書体で文字を刻むことを表していましたが、現在でははんこを作る行為そのものを指すのが一般的。篆刻印は作品に押印する目的で彫刻されたはんこのことです。

ほかにも押印した朱肉の跡(印影)と、本体のデザインを眺めて楽しむことも篆刻に含まれます。篆刻は芸術的な面が強いといえるでしょう。

篆刻印は書道や絵画など、自身の作品のサインとして使われる

篆刻印は書道や絵画など自身の作品に押印されます。年賀状や手紙に押すのも風情が出ておすすめです。名刺の端にワンポイントとして篆刻印を押せば、オリジナル感が増して相手の方の印象に残りやすくなるでしょう。

文字は好きな書体で

本来、篆刻に用いられていた書体は篆書体でしたが、現在はひらがなやカタカナ、行書体、隷書体など好きな書体で構いません。お気に入りの書体で、好きな文字を刻印してみてください。

デザインは自由

篆刻印のデザインに決まりはなく、文字である必要もありません。刻印する際に文字などが多少削れた場合でも、ひとつの味としてとらえましょう。

サイズにも決まりなし

篆刻印のサイズも明確な規定はなく、押印対象となる作品や紙の大きさとのバランスで判断します。目安としてハガキなら3~10mm角、色紙なら6~12mm角程度が適切なサイズです。篆刻印の長さは基本的に50mm程度にします。

  • 「篆刻」とは

    篆刻印は自由度が高いので好きなようにデザインしてみてください

篆刻の関連用語

篆刻および篆刻印の作成過程では聞きなれない言葉も数多く存在します。

印面

篆刻印の下部、文字を彫り入れる面のこと。篆刻印を含めて印鑑全体に用いられる用語です。

印章

石や木などに文字を彫り入れ、朱肉などをつけて押すもの自体のこと。俗にいう印鑑のことを指します。

印篆(いんてん)

篆書体に含まれる書体のひとつ。同じく篆書体に含まれる書体である小篆を、篆刻印に適した形に変形させたものです。縦横比は小篆と変わりません。

印影

朱肉などをつけた印面を紙面に押し当てた際、紙に残る跡のこと。

鈕(ちゅう)

篆刻印の持ち手のこと。手になじんで持ちやすい形状から、生きものをデザインしたものまでさまざまな形があります。

朱文印

刻印するとき、文字の周りを彫って作る印鑑のこと。印影は文字自体に色がつきます。別名、陽刻印。

白文印

刻印するとき、文字の部分を彫って作る印鑑のこと。印影は文字の周囲に色がつき、文字の部分は白くなります。別名、陰刻印。

  • 「篆刻」関連用語

    知識として頭に入れておいてください

篆刻の道具

篆刻印を作成する前に専用の道具をそろえておきましょう。無理にそろえる必要はないものの、用意しておくと便利な道具もありますよ。

石材

篆刻印の本体となる素材のこと。丈夫で耐久性が高い石材は篆刻に最適です。篆刻印初心者には柔らかさのある巴林(ぱりん)石と新青田(しんせいでん)石などが使いやすいでしょう。

印刀

印面を彫るときに使用する彫刻刀のこと。石材を彫る場合は両端に刃がある両刃タイプを使用することが多いです。刀の幅は数種類ありますが、8~10mm幅が扱いやすいでしょう。彫り入れる面積や線の太さにあわせて選ぶようにします。別名、鉄筆。

印泥(いんでい)

篆刻印を紙面に押す際に印面につける朱肉のこと。適量の朱肉を練り、だんごのようにまとめてから使用する特徴があります。ひらがなは幅広い色の濃さと相性が良いですが、漢字には濃い色の朱肉が合うので参考にしてください。

印床

篆刻するときに石材がズレないよう、あらかじめネジで石材を固定する道具のこと。篆刻しやすいだけでなく、石材が動いてケガをする危険性も減らせます。くさび型もあるので使いやすいタイプを選択しましょう。別名、篆刻台。

印矩(いんく)

押印する場所を定めるために使用する定規のような道具のこと。作品が大きいと空白部分の面積が広くなり、押印場所が決めづらくなります。バランスよく篆刻印を押したいなら用意しておくと便利です。

印箋(いんせん)

印影をきれいに保存または鑑賞目的で管理する用紙のこと。大きさはまちまちで、柄入りの印箋も販売されています。印箋をまとめた印譜帳(いんふちょう)も用途は同じなので、使いたい枚数にあわせて購入してください。

印辱(いんじょく)

篆刻印を押す紙や作品を載せる台のこと。テーブルなど平らで硬いものの上に直接紙を乗せて押印するよりも印影がきれいになります。捺印マットやはんこシート、印台として販売されている商品もありますが、バレンでも代用可能です。

耐水ペーパー

印面を削って平らにする際に使用する道具のこと。仕上げ段階のほか、篆刻前に石材の表面に付着している油膜を取り除くときにも使用されます。

  • 「篆刻」の道具

    実際の商品はインターネットで検索してみてください

篆刻印の作り方 - 作業工程を解説

はじめに印面となる部分の外枠を白い紙に写し取り、彫りたい文字またはデザインを書きます。印面に転写できるよう、鉛筆で濃くはっきり書くようにしてください。転写の際に反転させるので、デザインの段階で鏡文字にする必要はありません。

印面の表面を平らに削る

実際に彫り始める前に耐水ペーパーなどで印面をやすりがけしましょう。表面に付着した油膜を取るための大切な工程です。はじめに鉛筆などで軽く色付けしておくと削れ具合がわかりやすくなります。平らにすると印影がきれいになるので、丁寧に行ってください。

デザインを転写する

印面を油性のペンや朱色の墨で塗りつぶし、あらかじめデザインを書いておいた紙を貼り付けます。鉛筆で書いた部分が印面と直に接するようにしてください。

紙の端をテープで留めたら印面を紙の上から指などでしっかりこすり転写します。ある程度デザインが写ったら紙を外し、黒の油性ペンなどで濃くなぞって完了です。

印面を彫る

石材を印床に固定してから朱肉がつかない部分、つまり印影に反映したくない部分を彫ります。朱文印なら文字の周り、白文印なら文字の部分を掘ります。

印刀の柄を握るように持ち、刃先全体を印面に当てながら少しずつ丁寧に彫ってください。印影に反映したくない部分と残したい部分の境目を彫った後に、内側を彫ると彫りすぎ防止になります。

試し押しで確認

印面を彫り終わったら実際に朱肉をつけて押印してみましょう。印影を確認して彫りが浅い部分や彫り残しがあれば、再度印面を彫ります。完成したら耐水ペーパーなどで軽くこすると表面が整って完成度がアップしますよ。

鈕のデザイン

鈕も好きな形状に彫りたいなら、まず油性ペンなどで完成イメージを石材に直接下書きしましょう。好きな紙に6面の枠を写し取り、スケッチしてから石材に書き込むと失敗しにくいのでおすすめです。

鈕を彫る

石材を印床に固定し、彫りたい部分を鬼目やすりと呼ばれる細かめで硬いやすりで大まかに削ります。ある程度削ったら紙やすりに変更し、細かい部分を整えましょう。

削り終わった後は耐水ペーパーを水でぬらし、石材の表面を磨けばツルツルとした滑らかな仕上がりに。より光沢を出すなら石材ワックスで仕上げ磨きすれば完成です。

  • 篆刻印の作り方

    丁寧に作業することがクオリティの高い篆刻印の完成につながります

篆刻印はお手入れも忘れずに

篆刻印は作成して終わり、ではありません。表面をきれいに保つことが篆刻印の寿命を延ばすことにつながります。

使用後は箱に収納

篆刻印の表面に傷がつかないよう、柔らかな質感の布で軽く拭き汚れを取り除いてください。保管は箱および袋に入れるのいいでしょう。

印面の掃除も丁寧に

彫った溝に付着した朱肉を放置すると、溝が徐々に埋まって印影が崩れる恐れがあります。朱肉がついたらブラシで軽くこすって落としましょう。傷ができないよう力加減には十分注意してください。

  • 篆刻印はお手入れも忘れずに

    手間と時間をかけて作る篆刻印だからこそ長く使いたいものですね

唯一無二の篆刻印を作って、書画や絵手紙、年賀状などに押してみよう

「篆刻」は印面に篆書体などで文字を彫ることを指し、サインとして作品に押す印鑑を篆刻印と呼びます。印面のデザインは漢字だけでなくひらがなやイラストも認められており、サイズの規定もありません。

篆刻するときには本体となる石材をはじめ、印刀や印泥などを用意しましょう。道具がそろっていれば初心者でも篆刻印が作れますよ。

完成した篆刻印は箱に収納すると長持ちします。使用後は布で持ち手を含む印鑑全体を拭き、印面に詰まった朱肉を取り除きましょう。