ワコムは11月16日~17日の2日間、東京・新宿住友ビル三角広場にて展示会「コネクテッド・インク2021」を開催。さまざまな企業がブースを出展したほか、世界4都市の会場とはオンラインでつながりました。
2021年秋にスタートした「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト2021」も、2日目(17日)午後のセッションで進捗状況を報告しています。
海洋研究と3Dモデリングの気になる関係
海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト2021は、最新の3D技術を活用した海洋生物の研究を通じて多様な分野で活躍できる人材を輩出することを目的に、今年(2021年)9月に開校しました。
参加するのは中学1~3年生の9名。プロジェクトの事務局長で常勤講師も務める吉本大輝氏は、「授業は順調に進んでいます。昨夜は23時頃に生徒から『ここが分からないんですけど』と電話がかかってきたので教えました」と明かしました。
本プロジェクトは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として生まれたもの。日本財団の常務理事である海野光行氏も、「近年、海や海洋生物に対する知識や興味が卓越したスーパーキッズが出てきています。彼ら彼女らに海洋研究の第一線で活躍してもらうために、こちらも全力でサポートしていければ」と話し、海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト2021の進展に期待を寄せます。
ところで、まだ「ワコム主催のイベントで、なぜ海洋研究のプロジェクトがセッションを?」と疑問が解決しない読者もいることでしょう。その背景について吉本氏が「実は、生き物について『研究すること』は『作ること』と親和性が高いんです。例えば…」と話しながら取り出したのが、最新フルカラー3Dプリンタで作成した「マッコウクジラの玉骨標本」でした。
見れば、リアルな骨の構造が細部まで再現されています。「国立科学博物館などでマッコウクジラの骨格を調べ尽くした後に、粘土を作るようにして3Dモデリングしていきました」(吉本氏)。
また「新種が発見されたときにはタイプ標本(ホロタイプ)が作製されます。それがアメリカにしかない、ということであればアメリカまで行かないと見ることができない。でも3Dデータ化すれば、世界中の研究者が助かります」とも説明。
そのうえで、いま海洋研究の分野で活用されているデータには「写真」「動画」「魚拓」があるけれど、精度の高い「3Dデータ」を残すことができれば研究の発展に貢献できると吉本氏。ここで「3Dモデリングのためには、パソコン、ワコムのペンタブレット、ソフトウェアが三種の神器になります」と紹介します。
「いま日本でもプログラミング教育が盛んになってきましたが、その次に来るのが3Dプリンティング技術の教育と言われています。そのため、このプロジェクトでは、海洋研究を通じて3D技術に早くから慣れ親しんでもらいます」(吉本氏)
このあと「(将来的には)あらゆる海洋生物の3Dデータを集めてアーカイブスを作ってみたい」と広大な構想も明かしました。
意欲的な生徒たちに期待すること
いま、プロジェクトではどんな生徒が頑張っているのでしょうか。気になる進捗についても報告しました。
まずは、生徒がつけている魚研究ノートを披露。漁獲量が減っている「黒潮漁業」を知ってもらおうと、認知拡大のために漁業がモチーフのボードゲームを作成した子もいました。
東京都の生徒は、新種のクラゲを育てるために専用の水槽まで作製。このほか、すでにワコムのペンタブレットを使って、飼育しているサザナミフグを3Dモデリングした生徒もいるそうです。
この報告を受けて、海野氏は「海のことが大好きな子どもたちには、授業が楽しくて仕方ないでしょう。プロジェクトでは、学校教育ではできないところまで踏み込めています。この“突き抜けた子たち”が今後どう成長していくか、これからも楽しみですね」と笑顔を浮かべます。
そして、「子どもたちには、生き物に対して固定化されたイメージを壊していってもらいたい。例えば、闘牛と言えば赤いものを目指して突き進むイメージですが、そもそも牛は色を認識していません。ヒラヒラ動いているものに突っ込んでいるんですね。そして、海の生物に対して、人類はまだ10%しか把握できていないとされています。プロジェクトに参加中の子どもたちには、図鑑を書き換えるような発見も期待したいですね」と話していました。