利用者の立場から見ると……
では、訓練施設の見学ツアーを一般の利用者の立場から見ると、どういうことになるか。
これまで、間接的にしか伝えられていなかった訓練現場を生で見られるわけだから、「安全運航のために、こんな訓練をしているのか」という理解が進むだろう。それは、飛行機を利用する際の安心感につながるのではないか。
先に述べた時系列の関係でお分かりの通り、実はANA Blue Base Tourと、目下、航空業界を苦しめる原因になっているCOVID-19のパンデミックの間に関連性はない。それより前から、一般公開を前提とした施設として計画が進められていたからだ。
ただし、COVID-19を受けて変化が生じた点がひとつだけある。それが、ツアー起点に新たに設けられた「ANA Care Promise」、つまり機内の衛生管理に関わる展示だ。これもまた、飛行機を利用する際の安心感につながるものだといえる。
何が見られるかはタイミング次第
ただ、ANA Blue Baseは「一般向けの広報施設」として造られたものではなく、あくまで「社員向けの訓練施設」が本分。だから、見学ツアーに参加したときに、どこでどんな訓練をやっているかはタイミングと運次第。見学ツアーに合わせて、訓練の日程を組んでいるわけではないからだ。
そこで、映像コンテンツなどを活用して、まったくの空振りにならないようにフォローする仕組みもある。もしかすると「前回はこれを見られなかったから、今度こそは」といって、リピーターが続発するかもしれない。
また、訓練施設の見学にとどまらず、「航空旅行気分を体験する」という意味合いもある。なにしろ、受付は空港のチェックイン・カウンターみたいな造りになっているし、そこで渡されたチケットを使ってゲートを通る。エントランスにある荷物保管用ロッカーには、ANAが就航している空港のIATA空港コードが書かれている。
そして、「Experience ANA」というコーナーがあり、カウンター、A320のコックピット、777-300ER国際線仕様機のギャレー、スタッガード配置のビジネスクラス用シートなどがしつらえてある。旅客としての立場と、社員としての立場の両方から、エアラインのさまざまな仕事に触れることができるわけだ。
こうした一連の体験を通じて、航空旅行、なかんずくANAに対する信頼感や安心感を持ってもらえれば……それが、ANA Blue Base Tourの最終的な狙いといえるのではないか。もちろん、ANAへの就職を目指す人が増えてくれることへの期待もあるだろう。
なお、受付があるエントランスエリアの一角には、787の模型が置かれていて、旅客機を飛ばすためにどんな仕事が行われているかを映像で見られる仕掛けがある。また、その背後の壁面上方では、ANAの歴史が簡単に分かるアニメーションが流されている。そこで冒頭にヘリコプターが出てくるのは、1952年の創業当初、社名が「日本ヘリコプター輸送株式会社」だったからだ。そんな、ANAグループのヘリテージに触れることもできる。