ファンの応援が後押しした9期目のタイトル

里見香奈清麗に加藤桃子女流三段が挑戦する、第3期大成建設杯清麗戦(主催:大成建設)五番勝負第5局が11月17日に東京・将棋会館で行われました。結果は134手で加藤女流三段が勝利、五番勝負のスコアを3勝2敗として清麗のタイトルを奪取しました。加藤新清麗のタイトル獲得は2017年の第10期マイナビ女子オープン以来で、通算では9期目のタイトルとなります。

本局は第5局なので改めて振り駒が行われます。記録係の竹部さゆり女流四段が大きく振った結果は、歩が4枚で里見清麗の先手となりました。戦型はこれまでの4局と変わらず、里見清麗の中飛車です。序盤の▲7五歩がいきなりの決戦を挑む新手で、まだ美濃囲いの急所とも言える▲3八銀すら上がっていない状況での仕掛けですが、考慮時間はわずか1分。最終決戦に向けて入念に準備してきたことがうかがえます。

■会心の構想

中央でチャンバラが行われた結果、駒割は先手の角に対して後手の銀桂、二枚換えのため、後手の駒得です。しかしその代償として先手は飛車の働きがまさっています。次に竜を作られたらどうするのかと思われた局面で、敢えて飛車成りを防がずに突いた△3五歩が好手でした。双方の飛車を比べると、縦の利きは先手がまさっていますが、この歩を突いたことで横の利きは後手の飛車に分があります。そしてこの△3五歩は先手玉の急所であるコビンを狙っています。

里見清麗は成れる飛車を成らずに、持ち駒の銀を自陣に投入して狙われたコビンを補強しますが、後手玉を攻める順がなくなってしまったのがつらいところ。対して加藤女流三段は盤上の飛角角桂を縦横無尽に駆使してリードを広げていきます。94手目の△4八歩~△6九飛が美濃崩しのお手本ともいうべき手筋で、後手の勝勢がはっきりしました。以下も里見清麗は頑張りますが、美濃崩しのもう一つの手筋とも言える端攻めが入っては粘りようがありません。端攻めからほどなくして加藤新清麗が誕生しました。

■女流棋士転向後初のタイトル獲得

加藤清麗にとって、女流棋士に転向してからは初のタイトルとなります。里見女流四冠と西山朋佳女流三冠を合わせて2強時代と呼ばれていたのが現在の女流棋界ですが、そこに風穴を空ける大きな勝利です。局後に行われた記者会見、その最後にファンへのコメントを求められた時は「みなさんが応援してくださったので、(タイトルを)取ることができて本当にうれしいです」と声を詰まらせていました。

しかし両者の戦いはこれで終わりではありません。11月20日には倉敷藤花戦第2局が控えています。ここで加藤清麗が勝ち、タイに持ち込むと翌日に行われる第3局が決戦の舞台となります。勢いに乗った新清麗が逆転で二冠奪取となるか。里見倉敷藤花が底力を見せて防衛を果たすか。まだまだ目が離せません。

相崎修司(将棋情報局)

悲願のタイトル獲得に笑顔がこぼれる(提供:日本将棋連盟)
悲願のタイトル獲得に笑顔がこぼれる(提供:日本将棋連盟)