「バリュープロポジションキャンバス」という言葉をご存じですか? マーケティングに携わる方であれば聞いたことがあるという方も多いでしょう。しかし、いまいち理解できていないという方や、実際にどのように作成したらいいのかわからないという方もいるのではないでしょうか。
この記事では、バリュープロポジションキャンバスの意味やマーケティングの分野において重要視される背景、バリュープロポジションキャンバスの具体的な作成方法や事例についてまとめました。
バリュープロポジションキャンバスとは
バリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas, VPC)は、自社の製品やサービスと顧客のニーズとのずれを可視化するためのフレームワークです。ずれを可視化することで、製品・サービスの改善や新商品の開発に役立てます。ここからは、より詳しい意味や由来を解説します。
バリュープロポジションの意味
バリュープロポジションキャンバスの「バリュープロポジション」とは、「顧客に提供する価値」を意味します。
顧客は価値を感じた製品やサービスに対し、価値の対価としてお金を支払います。そのため、自社の製品やサービスを開発するにあたり、バリュープロポジションが不明確だったり、自社の満足や利益のためだけだったりすると、顧客に価値を提供できず、販売しても顧客の支持を得られないでしょう。
バリュープロポジションキャンバスが紹介されている本
バリュープロポジションキャンバスは、ビジネス書『バリュー・プロポジション・デザイン』のなかで紹介されているフレームワークです。同書は、Strategyzerの創設者であるアレックス・オスターワルダー氏らが手掛けており、日本では2015年に発売されました。
わかりやすい図式が記載されているのが特徴で、サービスのアイデアを生み出すのに役立つと日本のユーザーからも高く評価されているようです。
同書は前作『ビジネスモデル・ジェネレーション』の続編とされていますが、そちらも8万部を超えるベストセラーとなっています。
バリュープロポジションキャンバスをつくるメリット
バリュープロポジションキャンバスをつくることのメリットは、大きく分けて3つあります。
・自社の製品やサービスが提供できる価値と顧客のニーズとのずれを知る
・自社製品やサービスの強みを明確にできる
・新たな顧客のニーズを知ることができる
バリュープロポジションキャンバスの本来の使用目的は自社の提供する価値と顧客のニーズとのずれを修正することにありますが、その過程で自社製品やサービスの提供できる価値や強み、顧客のプロフィールを明確にする必要があります。
結果として自社の新たな強みを知ることや、これまでは想定していなかった新しい顧客のニーズを知ることにつながるのです。
バリュープロポジションキャンバスとジョブ理論
バリュープロポジションキャンバスを作るには、まず顧客のニーズを知る必要があります。 しかし、顧客のニーズを正確に知るのは決して簡単なことではありません。そこで知っておきたいのがジョブ理論です。ジョブ理論は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授を務めていたクレイトン・クリステンセン氏によって提唱された、顧客のニーズをより正確に捉えるための方法論です。
ジョブ理論における「ジョブ」は、「顧客が特定の状況で成し遂げたい進歩」を意味し、顧客が購買行動に至るのはこのジョブを解決するためと考えます。つまり、顧客がどのような「ジョブ」を解決したくて自社の製品やサービスを購入しているのかを考えることで、より正確なニーズを把握することができるとされています。
バリュープロポジションキャンバスを作る際は、まずジョブ理論を活用して顧客のニーズを明確にしてみましょう。
バリュープロポジションキャンバスが重視される理由
近年は、同じような製品やサービスが複数の企業から販売され、質や価格の差もあまりないということが多くあります。競合と差別化を図るのも簡単ではないでしょう。
このような状況で差別化を図るには「他社より良い製品・サービスを提供する」のではなく「他社より顧客ニーズに合った製品・サービスを提供する」という考えがより大切になってきます。そこで、他社と差別化するための価値を見極めるのに役立つことから、バリュープロポジションキャンバスが重要視されているのです。
バリュープロポジションキャンバスとビジネスモデルキャンバス
バリュープロポジションキャンバスと混同されがちな言葉で、ビジネスモデルキャンバスという言葉があります。ここではビジネスモデルキャンバスについて解説していきます。
ビジネスモデルキャンバスとは
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルの分析に活用できるフレームワークです。 ビジネスモデルを9つの要素に分類し、それぞれの関係性をわかりやすくするため、ビジネスの全体像を可視化できるというメリットがあります。
ビジネスモデルキャンバスの使用例
ビジネスモデルキャンバスは、チームの目標共有に役立ちます。ビジネスモデルの全体像を可視化しているため、自分の立ち位置や役割が明確になり、同じ方向を見て仕事しやすくなるでしょう。
もちろん、ビジネスモデルキャンバスは競合分析にも活用できます。競合他社の事業も自社の事業と同様に9つの要素に分類し可視化することで、自社にはない競合他社の強みや差別化されているポイントを知ることが可能です。
バリュープロポジションの事例
実際にバリュープロポジションを重視したことで成功している企業の事例をご紹介します。自社製品やサービスに置き換えて検討してみるといいでしょう。
Uber
アメリカの配車サービス「Uber」は、2010年のサービス提供開始からわずか5年で50カ国250都市以上に拡大しています。
ここまで急成長したのにはさまざまな理由があるはずですが、そのうちの一つは急増するスマホユーザーに合わせて、スマホアプリから簡単に配車や決済、経路選択をできるようにした点でしょう。タクシーを利用したい顧客の「タクシーを呼ぶのが面倒」「現金が足りなくなるかもしれない」といった不満や不安を解消できるサービスを提供できたことが、多くの顧客の支持を集めたと考えられます。
カーブス
国内店舗数2,000店舗以上を誇る女性専用フィットネスクラブ「カーブス」は、「安い・便利」といった一般的な価値よりさらに深い、「心の声」に答えることで競合他社と差をつけました。
「男性に見られるのが恥ずかしい」「体型を直視するのがツラい」「身だしなみに気を遣うのが面倒」という、女性がフィットネスクラブに通うことをためらう理由を解消するために「No Men(男性なし)」「No Mirror(鏡なし)」「No Makeup(化粧不要)」の「3つのNo」をコンセプトに設定しました。結果として、中高年女性を中心とした顧客に支持されることとなったのです。
動画サブスクリプションサービス
近年、動画サブスクリプションサービスは急増していますが、その要因もバリュープロポジションキャンバスを作成すると見えてきます。
映画好きの顧客のニーズが「映画を好きなときに好きなだけ楽しみたい」「時間と場所の制約をなくしたい」であるのに対し、企業側は「月額制」「ストリーミング」「複数の媒体で同期できる」といった価値を提供しています。
需要と供給がマッチした結果、動画サブスクリプションサービスが順調に成長し続けているのでしょう。
バリュープロポジションキャンバスの作り方
バリュープロポジションキャンバスの作り方を簡単にご紹介しましょう。デザインは自社のデザインに整えて構いませんが、基本的なテンプレートをなぞってつくるとわかりやすくなります。
1.バリュープロポジションキャンバスのテンプレートを用意
はじめに、バリュープロポジションキャンバスのテンプレートを用意します。文章だけでも作成できますが、一目でわかるようにするには図を作成するのがベストです。
2.提供する相手とモノ(サービス)を決める
誰に何を提供するのかを明確に決めましょう。バリュープロポジションキャンバスへの記載は簡潔なもので問題ないですが、提供する相手のことは細かく設定しておくとバリュープロポジションキャンバスを作成しやすくなります。
3.顧客セグメントの欄を埋める
顧客のニーズを分析するために、顧客セグメントの欄を埋めていきます。「顧客が解決したい課題(Customer Jobs)」「顧客の利得(Gains)」「顧客の悩み(Pains)」の3つです。
4.提供できる価値の欄を埋める
企業が顧客に提供できる価値の欄を埋めます。「製品とサービス(Product & Services)」「顧客の利得をもたらすもの(Gain Creators)」「顧客の悩みを取り除くもの(Pain Relievers)」の3つを埋めましょう。
それぞれの項目を表の中でも対象に書くことで、顧客の問題とその解決策を具体的にすることができます。
バリュープロポジションキャンバスを作るときの注意点
バリュープロポジションキャンバスを作成するときの注意点をまとめました。単純に作成方法をなぞるだけでは、顧客にマッチした商品やサービスの提供ができません。
誰が見てもわかりやすい図にする
バリュープロポジションキャンバスは、誰が見てもわかりやすい図にしましょう。社内に共有するかどうかにかかわらず、客観的に見てわかりにくい内容だと実際に市場に出てからも支持を得られないかもしれません。
顧客ニーズを把握する
顧客ニーズを書くには、顧客視点に立って考える必要があります。しかし、製品・サービスの作り手側から顧客のニーズを正確に把握するのは簡単ではありません。企業側の想像だけではニーズとずれたものになってしまう可能性もあります。そうならないためには、前述のようなジョブ理論などを活用し、より正確なニーズを把握することが大切です。
競合他社のリサーチ
顧客ニーズを重視することは大切ですが、差別化を図るためには競合他社をしっかりと分析することも大切です。競合他社も同様の顧客ニーズを満たしている製品・サービスを生み出している可能性はあるので、可能であれば競合他社の類似製品やサービスのバリュープロポジションキャンバスも作成してみるといいでしょう。
バリュープロポジションキャンバスを作って競合に差をつけよう
バリュープロポジションキャンバスの意味や作成方法、事例などについてまとめました。
バリュープロポジションキャンバスは、うまく活用できれば顧客視点に立った商品・サービスを開発し、競合他社との差別化が図れます。新規商品・サービスの作成や、既存事業の見直し・改善にぜひ役立ててみてはいかがでしょうか。