企業が学歴による一定の採用基準を設けたりすることを「学歴フィルター」と呼ぶが、実際企業はどの程度「学歴」を重視しているのだろうか。
年間約60万人以上の大学生のキャリア支援サービスを行っている『dodaキャンパス』編集長 桜井貴史さんに伺った。
学歴重視の傾向は弱まっている
同社の調査によると、学生の80%以上は「就職活動において、企業は学歴を重視している」と感じているようだ。しかし、桜井さんは「学歴を重視するケースは一定数ありますが、その傾向は弱まっている」と言う。
実際、企業の新卒採用を行っている人事担当者300人への調査では、企業が学歴を重視するのは20%ほどで「人柄」や「志望動機」のほうが「学歴」よりも重視ポイントは高い傾向にある。
では、企業が「学歴」を重視するのはなぜだろうか。桜井さんによると2つ理由があるという。
「1つ目は、企業が引き続き思考力を求めるようになってきた点です。AIの台頭により定型業務ではなく非定型業務のウェイトが高まり、時代の変化が速い昨今においてはスキルの陳腐化が激しく、『課題を解決する力』よりも『問いを立てる力』がより必要になってきました。思考力(地頭力)は、偏差値によってある程度測定可能なため、企業はその点を学歴で見ています。
2つ目は、企業の採用体制や予算が限られるため、採用実績の多い大学に絞れば「効率のよい採用活動」ができる点です。過去に採用したなかで、一定数活躍している社員が出身の大学にはオンラインで会社説明会を行うなど、効率性を重視せざるを得ない側面があります」
思考力(地頭力)以外の要素を重視し始めている
一方で、「以前よりも学歴重視の傾向が弱まっている」点については、どういった背景があるのだろうか。桜井さんによると3つの理由が考えられるという。
「まずは以前ほど『偏差値があてにならなくなってきた』点です。AO入試など入試形態が多様化し、さらに同じ大学でも人気の学部とそうでない学部で偏差値の差が大きくなり、学歴を大学名で一括りできない、というのが背景としてあります。
次に『売り手市場のなかで、企業が採用ターゲットを広げるようになってきた』点です。特に、中堅や小規模企業は大手企業のように大学を固定化していては、内定辞退などで思うような採用が実現できません。そのため、学歴にこだわらずターゲットとする大学を広げている企業が少なくありません」
最後が『思考力以外の要素が見直されてきた』点。今後増えてくる要因であり、就活生にとっては注目のポイントである。
「例えば、いま多くの企業が取り組んでいるDX。それに合わせて新卒採用では、デジタルをテーマにしたインターンシップなどを設けたりしています。実際、中途採用では難易度が高く、社内でもITに取り組みたいという意欲のある社員がいないため、DX推進人材を確保できないという声をよく聞きます。そこで、学歴というより、新たな知識を自ら学ぼうという志向を持った学生をインターンで集めようとしています」
この他にも、グローバル戦略を推進する企業では、語学力以上に、さまざまな国の人とコミュニケーションが図れる勇気や多様性を受け入れる力などの素養を重視していたりする例もあると話す。
時代や産業構造などの変化とともに、思考力(学歴)以外を求める企業が増えている。
入学後の大学生活の過ごし方など、学修歴に企業の注目が集まる中で、より早いタイミングから自分の将来を考える機会を作ったり、早期から積極的に興味のある企業のインターンシップに参加したりすることが大事になってくるだろう。
取材協力:桜井貴史(さくらい・たかふみ)
大手人材サービス会社にて、新卒採用サービスや日本初の大規模Web説明会サービスの立ち上げ、グローバル新卒採用事業等を推進。2016年にパーソルキャリアに入社し、ベネッセコーポレーションとの合弁企業であるベネッセi-キャリアにて『dodaキャンパス』を立ち上げ。現在は、大学向けキャリア支援サービスも含め、同社の商品サービス全般を統括。