幼い頃、雑誌の付録にワクワクした経験はないだろうか。厚紙を組み立てて作る戦隊モノのお面や、キャラクターのレターセットなど、今思い出すだけで懐かしい気分になれそうだ。
そんな懐かしい雑誌付録だが、「なんでこんなものが付録に……」と度々Twitterをざわつかせる雑誌がある。小学館が発行する幼稚園児向け雑誌『幼稚園』だ。
先日は、11月16日に発売される『幼稚園』の付録に伝説のクイズ番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」でお馴染みの「ウルトラハット」が付いてくることが話題になった。以前より「子ども向けとは思えない」と言われることが多い『幼稚園』の付録、その制作意図を『幼稚園』編集部の大泉高志さんに聞いた。
「幼稚園児に伝わるネタなのか!?」のツッコミ多数
今年の9月下旬、小学館『幼稚園』編集部の投稿がTwitterで話題になった。
次号はこちらです。 pic.twitter.com/LXCTvyox2f
— 小学館『幼稚園』編集部 (@youchien_hensyu) September 28, 2021
このツイートに、「親世代しか分からん奴やないか」「孫より祖父母が喜ぶ付録」「昭和生まれの『幼稚園児』がいっぱい買いそう(笑)」と、令和の幼稚園児に伝わるネタなのか!? と疑問とツッコミが多数寄せられた。
日本テレビの「アメリカ横断ウルトラクイズ」は、クイズに答えながらアメリカ大陸を横断してニューヨークを目指すという視聴者参加型のクイズ番組だ。1977年から1992年に放送され、1998年には日本テレビ開局45年を記念した特別番組も行われた。のちのクイズ番組にも大きな影響を与えた「伝説のクイズ番組」と言えるだろう。
しかしマイナビニュース編集部の20・30代に聞いても「名前は知ってるけど番組を見たことはない」「高校生クイズやバラエティ番組でパロディを見たことはある」とピンと来ない一方、40代の編集部員は「面白かったですよね!! ニューヨークに行きたいかーっ!!!(以下熱弁)」と食い気味の反応だった。これは幼稚園児どころか、親世代もリアルタイムで見ていない人もいるネタなのでは……ますます付録にした謎が深まる。
その謎に迫るべく、小学館『幼稚園』編集部で付録を担当する大泉高志さんに制作の背景を伺った
どうして「ウルトラハット」を付録に?
――SNSでも大変話題になり、小さなお子さんはこの番組を知らないだろうというツッコミや、「懐かしい!」という声がたくさん寄せられていました。
大泉さん:「『ウルトラハット』がわかるのは、ヤングなおじいちゃんおばあちゃんでようやくでは? どこ狙ってんねん」とSNSでも相当言われました(笑)。
――幼稚園のお子さんを持つ親世代でもリアルタイムで見ていない方は多そうですよね。今回、なぜこの付録を企画されたのでしょうか。
大泉さん:『幼稚園』の付録には共通したコンセプトがあります。それは「世の中でよく見るもので、お子さんが触りたいけど触らせてもらえないもの」です。外では触れないけれど、付録なら家で自由に触って遊べますよね。これまでも、銀行のATMやスーパーのセルフレジ、回転寿司などを付録にしてきました。
――今回の「ウルトラハット」もそのコンセプトに基づいているのでしょうか?
大泉さん:今、クイズがブームになっていて、テレビでも多くのクイズ番組が放送されています。『幼稚園』の読者であるお子さんも、家族と一緒に見て盛り上がる機会はありますよね。そしてクイズは問題や解答こそわからなくても、早押しボタンを押すアクションだったりプリミティブに訴えかける面白さがあるんです。今回の付録は、そこから着想しました。
――クイズ番組の早押しボタン、子どもの頃も大人になった今でも、見ると押したくなります。
大泉さん:押すという"ひとつの動作"に対して、動いたり音が出たり"ふたつのリアクション"が返ってくる面白さがありますよね。
付録を企画するにあたり、モチーフとなるものを探しました。最近は解答を書いて一斉に出すタイプや、早押しすると座席が光るタイプなど様々なパターンがあるものの、クイズ番組を象徴するモチーフがなかなか見つからなかったんです。
――現在、「アメリカ横断ウルトラクイズ」を放送していた日本テレビでは「クイズ! あなたは小学5年生より賢いの?」を放送していますし、「東大王」(TBS)、「ネプリーグ」(フジテレビ)など沢山のクイズ番組があります。それでもあえて20年以上前の番組をモチーフにしたんですね。
大泉さん:僕は現在45歳なのですが、子どもの頃に観た「アメリカ横断ウルトラクイズ」が本当に好きでした。今でもあの番組を超えるクイズ番組はないんじゃないかなと思います……。
――リアルタイムで番組を見ていた40代のマイナビニュース編集部員も全く同じことを言っていました……。
大泉さん:最初に「アメリカ横断ウルトラクイズ」とのコラボ企画を考えたときは、「懐古主義ではないか」と自問自答もしました。ただ数年前に再放送で見た時、大人になって見直してもやっぱり面白い、思い出補正がされていない面白さを感じたんです。「これはもうそのままやろう!」と、日本テレビさんにコラボ企画の相談をしました。
――日本テレビさんの反応はいかがでしたか?
大泉さん:驚かれていましたね。なんせ20年以上前の番組とコラボしませんか? という相談で、しかも幼児雑誌の『幼稚園』(笑)。発表したときもツッコミが来るだろうな~と予想していました。実際とても大きな反響があり、クイズ専門誌や「QuizKnock(クイズノック)」の伊沢拓司さんから問い合わせをいただいたりと、クイズ界隈の方々からも反応がありました。
――大きな反響が寄せられたこの付録、こだわったポイントはありますか?
大泉さん:「ウルトラハット」は、押した時の動作と「ポーン!」という効果音が印象的ですよね。この音は日本テレビさんから音声データをお借りしました。
幼稚園12・1月号ふろくは「ウルトラハット」。伝説の番組「アメリカ横断ウルトラクイズ」の早押しボタンです。ボタンを押すと、ポーン!とハテナマークが立ち上がります。しかもポーン!の音は本物。早押しテーブルも付いています。(注 ハットはかぶれません)11月16日ごろ発売。1280円です。 pic.twitter.com/ovOFIgKuMT
— 小学館『幼稚園』編集部 (@youchien_hensyu) November 12, 2021
――あ~! 番組をリアルタイムで見ていなくても、どこか聞き馴染みのある音です!(笑)
大泉さん:当時番組の美術を担当していた方から協力を受け、現物も残っていたので写真を撮って作りました。
――20年前の番組とのコラボならではのエピソードですね。苦労した点はありますか?
大泉さん:本物の「ウルトラハット」と早押しボタンは有線で繋がっていて、手元のボタンを押すとハットのハテナマークが立ち上がるギミックですが、今回の付録は立ち上がる部分とボタンを同一のユニットに収める都合上、有線で繋げることができませんでした。また、実際に頭にはかぶれない仕様です。ただ、本物の台と同じ位置に早押しボタンを描いたイラストを入れています。
――大人の方にとっては懐かしく、子どもにとってはクイズ番組の早押しが楽しめる付録ですね。でも幼稚園児向け雑誌の付録にしては、紙で帽子の形を作ったり、電動のボタンユニットが付属していたりと少し難しくありませんか?
大泉さん:『幼稚園』の付録は、前提として子どもがひとりで作るには難しい仕様にしています。企業とコラボする付録を作るにあたり「付録は子どもがひとりで作れるもの」という概念を取り払いました。お子さんはパーツを切り離すなど手伝いをして、組み立ては親御さんがすることで、自然と親子間のコミュニケーションが生まれますよね。その体験をしてほしいという想いがあります。そして何より、親が作るとクオリティがグッと上がるんです。確かに難しいのですが、『幼稚園』編集部のYouTubeに作り方動画もアップしているので、それを見ながらぜひチャレンジしてください。
番組を楽しんだ世代は親世代だけでなく、おじいちゃん・おばあちゃん世代かもしれません。お子さんやお孫さんと一緒に付録を作って、できあがったらクイズ問題で遊んでもらいたいですね。
――お子さんとのコミュニケーションのきっかけにもなりますね。
大泉さん:クイズやなぞなぞを64問詰め込んだオリジナルのクイズ問題集や、日本テレビさんの「クイズ! あなたは小学5年生より賢いの?」のクイズも付けています。クイズ問題集は、幼稚園児のお子さんがいる小学館の社員に協力してもらって作った力作です! 「ウルトラハット」の造形は見た目もかわいらしく、音や動きもあるので、番組を知らないお子さんにもきっと喜んで遊んでもらえると考えています。
大人も欲しくなる!? リアルな企業コラボを始めた理由
――『幼稚園』の付録と言えば、過去には「セブン銀行ATM」「江崎グリコ セブンティーンアイスじはんき」など、企業とコラボした本格的な付録がTwitterで話題になりました。いつ頃からこのような付録を始められたのでしょうか。
幼稚園9月号ふろくは「セブン銀行ATM」。モーターユニット内蔵で、お札の出し入れが楽しめます。お札を入れるときは、なるべくまっすぐ入れてください。本物と同じサイズのお札が12枚付き。8月1日ごろ発売です。 pic.twitter.com/9uVRXkV6LN
— 小学館『幼稚園』編集部 (@youchien_hensyu) July 29, 2019
大泉さん:企業とのコラボ付録は、2018年にくら寿司とコラボした「かいてんずしつかみゲーム」から始まりました。お皿の下にあるモーターボックスのスイッチを入れると、本格的な回転ずしのようにお皿が回るというものです。それまでは人気キャラクターをモチーフにした付録が中心だったのですが、『幼稚園』の部数がだんだん落ちてきてこのままではヤバい……と見直した結果、お子さんにとって身近で大好きな企業のモチーフを付録にできないだろうか、と考えたのがきっかけです。
――自販機や回転ずし、お子さんにとっていずれも親しいものばかりですね。企業コラボの付録はどのように作られているのでしょうか。
大泉さん:やりたい企画が決まったら、コラボしたい企業に連絡を取って相談しています。OKが出たら、アイデアをまとめて設計図や写真を元にペーパークラフト作家さんにテスト版を作ってもらいます。ペーパークラフト作家さん、本当に凄いんですよね。そこからデザイナーさんにイラストを描いてもらったり、企業の担当者さんにチェックをしてもらったり、微調整をして完成です。制作期間は半年程度ですね。
――半年近くかけて作られているのですね。本物の設計図や写真を参考にしているということで、相当リアルです。
大泉さん:子ども用のおもちゃ、例えばおままごとのレジなどはデフォルメされているものが多いですよね。でも、子ども向けだとしても本物の方が嬉しくない? と考え、本物と同じデザインや動きにこだわってます。
大泉さん:2021年4月に発売した『幼稚園 5月号』付録の「東芝テック セルフレジ」もヒットしました。お子さんはセルフレジで「ピッ」とやりたいものですが、コロナ禍の状況ではレジもササっと済ませたい。お家で思う存分遊べるリアルなレジは、時世的にもマッチしました。
大泉さん:それから街でよく見るもののミニチュアって、理由なくかわいらしいですよね。これを手元に置けるのは、大人も子どもも問わず嬉しいものだと思います。
――毎月このクオリティの付録を作ることは、かなり大変ではないでしょうか?
大泉さん:大変ですけど、反響をいただくことは多いのでやりがいがあります。もうひとつ嬉しいこととして、『幼稚園』は4~6歳のお子さんと親御さんへアプローチできる媒体なので、企業側から逆オファーをいただくパターンもあります。ただし声をかけていただくパターンでも、遊びとして子どもが楽しめる付録が作れるかはしっかりと考えています。
――意外な付録も多い『幼稚園』、今後の展開はありますか?
大泉さん:来春ごろ、誰もが知っている巨大企業と、誰もが見たことのあるもののコラボを予定しています。ほかにも毎月驚くような付録を準備しており、『幼稚園』編集部のTwitterで随時情報をお知らせしていきます。ぜひ楽しみに待っていてください!