自社の商品・サービスを購入してもらうためには、市場自体を大きくしたり市場を開拓したりすることが必要です。そこで重要なのが「イノベーター理論」となります。

本記事では、「イノベーター理論」について解説します。また、「イノベーター理論」と同じく理解しておきたい「普及率16%の論理」や「キャズム理論」についても説明するので、ぜひご一読ください。

  • 「イノベーター理論」とは?

    「イノベーター理論」や「普及率16%の論理」、「キャズム理論」を解説する記事です

イノベーター理論とは?

「イノベーター理論」は、1962年に『イノベーション普及学』(エベレット・M・ロジャーズ著)の中で、提唱された理論です。ここでは、「イノベーター理論」について詳しく解説します。

古くからあるマーケティング理論  

「イノベーター理論」は、商品・サービスが普及・浸透する過程を5つのグループに分類したマーケティング理論となります。

■イノベーター:革新者・革新的採用者(2.5%)

■アーリー・アダプター:初期少数採用者(13.5%)

■アーリー・マジョリティ:前期追随者・初期多数採用者(34%)

■レイト・マジョリティ:後期追随者・後期多数採用者(34%)

■ラガード:遅滞者・伝統主義者(16%)

商品・サービスが普及するときの流れは、矢印(↓)の方向です。パーセンテージは商品・サービスを採用するユーザーの割合となります。

ユーザー数は商品・サービスによって多少変わることもありますが、上記の数値が 理論上の割合です。

では、次の項目から各グループの特徴を解説します。

イノベーター

市場全体の2.5%を占めるのがイノベーターです。最も早い段階で商品・サービスを採用する層になります。イノベーターは情報に対する感度が高く、目新しさや最先端技術など新しいことに価値を感じるため、コストが高い商品・サービスでも自分の価値観に合えば支持してくれます。

一方で、商品のメリットやベネフィット(利益)などはそれほど気にしません。

アーリー・アダプター

市場全体の13.5%を占めるのがアーリー・アダプターです。イノベーターほどではないものの、今後普及する可能性がある商品・サービスにいち早く目をつけ、購入してくれます。

アーリー・アダプターは、商品・サービスのメリットやベネフィットに着目し、いいと判断したあとに購入するのが特徴です。オピニオンリーダーやインフルエンサーとも呼ばれる層で、5つのグループの中でも攻略が重要だといわれています。

アーリー・マジョリティ

市場全体の34%を占めるのがアーリー・マジョリティです。情報感度は高いですが、新しい商品・サービスの採用に慎重といえます。また、世間で話題になっている商品や芸能人が使う商品を欲しがるなど、流行に敏感な面もあります。

商品・サービスが市場全体に普及する橋渡し役を担うことから、ブリッジピープルと呼ばれることもあります。

レイト・マジョリティ

レイト・マジョリティも市場全体の34%を占める層です。新しい商品・サービスの採用に消極的で周りの動向をうかがってから採用します。商品・サービスを使用する人が半数を超えたり多数を占めたりすると採用を検討します。

フォロワーズとも呼ばれるユーザーで、攻略のためには商品・サービスの普及率を上げておく必要があります。

ラガード

市場全体の16%を占めるのがラガードです。市場の中で最も保守的なユーザーで新しいものに関心がありません。むしろ、「新しいものは受け入れたくない」と考える層といえます。

ラガードを攻略するためには、商品・サービスを普及させるだけではなく、伝統的・文化的レベルまで浸透させる必要があります。また、次のトレンドとなる商品・サービスよりも安心できることをアピールするのがポイントです。

  • 「イノベーター理論」とは?

    ユーザーを5つのグループに分ける考え方が「イノベーター理論」です

商品普及率を上げるならアーリー・アダプターを狙う

「イノベーター理論」を提唱したスタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授は、「普及率16%の論理」も提唱しています。これは、商品・サービスを普及させるなら、ユーザー数16%を占める、イノベーターとアーリー・アダプターを攻略することが鍵だとする意見です。

アーリー・アダプターの役割

最も急進的なイノベーターは、目新しさを重視し、商品・サービスのメリットやベネフィットに注目しません。一方、アーリー・アダプターは新しさだけではなく従来の商品・サービスにはないメリットやベネフィットにも注目します。

アーリー・アダプターは、発見したメリットやベネフィットを自分たちのネットワークを通じて拡散してくれるため、その動向は後に続くグループに大きく影響を与えます。

  • 商品普及率を上げるならアーリー・アダプターを狙う

    イノベーターとアーリー・アダプターを攻略する大切さを説いているのが「普及率16%の論理」です

イノベーター理論とキャズム理論

「キャズム理論」はアメリカのマーケティングコンサルタントであるジェフリー・A・ムーアが提唱した理論です。1991年に発表した『キャズム』(ジェフリー・A・ムーア著)の中で述べています。

キャズム=大きな溝

先に紹介した「普及率16%の論理」は、イノベーターとアーリー・アダプターの攻略が商品普及の鍵であると説明しました。

一方の「キャズム理論」は5つのグループの中で、イノベーターとアーリー・アダプターを初期市場に、アーリー・マジョリティとレイト・マジョリティ、ラガードをメインストリーム市場に分類。初期市場とメインストリーム市場には大きく深い溝(キャズム)があり、このキャズムを越えることが市場開拓に必要だと説いています。

キャズムの原因と越え方

キャズムの原因といわれるのが、初期市場とメインストリーム市場の価値観の違いです。初期市場は新しいことに価値を感じる傾向があります。しかし、メインストリーム市場は「多くの人が採用している」「商品の品質が安定している」など、安心感の大きさが商品・サービスの購入理由になります。

また、初期市場のアーリー・アダプターは市場全体の13.5%ですが、アーリー・マジョリティは34%を占めます。そのため、キャズムを越えるためには、アーリー・アダプターの攻略だけではなく、アーリー・マジョリティを一気に攻略する戦略を練ることが重要なポイントです。

キャズムを越えられなかったビジネスは市場拡大に失敗し、事業をたたむことになるケースもあります。

  • 「キャズム理論」にも注目する

    アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティの間には大きな溝があります

イノベーター理論を活かすコツ

自社の商品・サービスの顧客が「イノベーター理論」のどのグループに属しているのかを見極め、グループにフィットした戦略を策定することが大切です。

そのためには、「イノベーター理論」だけではなくSTP分析を行い、市場を細分類した上でターゲットを決定し、競合や同業他社との差別化をはかる必要があります。

STP分析とは、「Segmentation」「Targeting」「Positioning」の頭文字をそれぞれ取って名付けられた分析法です。 「マーケティング理論」で知られるフィリップ・コトラーが提唱したフレームワークで、業種や商材などを問わず活用できます。

すなわち、新たにビジネスを展開するにあたってはまず市場を細分化し(Segmentation)、その中から狙う市場を決め(Targeting)、市場内における自社の立ち位置を明確化させる(Positioning)ことが重要になるという概念です。

  • 「イノベーター理論」を活かすコツ

    他のマーケティング戦略とあわせて「イノベーター理論」を活用しましょう

イノベーター理論の理解を深めましょう

「イノベーター理論」とはスタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授が自身の著者の中で提唱したものです。商品・サービスが普及する過程のユーザーを、イノベーター、アーリー・アダプター、アーリー・マジョリティ、レイト・マジョリティ、ラガードという5つのグループに分類したマーケティング理論となります。

エベレット・M・ロジャーズは「商品普及にはイノベーターとアーリー・アダプターを攻略するべき」という「普及率16%の論理」も提唱しています。また、「イノベーター理論」を受けて、アメリカのマーケティングコンサルタントのジェフリー・A・ムーアは、初期市場とメインストリーム市場の間にある深い溝(キャズム)を越えることが、市場開拓を考える上で重要だと説いています。

この機会に「イノベーター理論」について理解を深め、ビジネスに活かしてみてはいかがでしょうか。