SIPS(シップス)という言葉を聞いたことがありますか。SIPSは電通によって発表された、ソーシャルメディアを介した消費者行動モデルを指します。その内容は共感、確認、参加、共有・拡散のプロセスから成り立っています。
この記事ではSIPSとは具体的にどのようなものなのかを取り上げ、SIPSを活用したビジネスモデルも併せてご紹介します。
SIPSの意味とは
SIPSとは電通によって2011年に提唱された消費者行動モデル。ソーシャルメディア(FacebookやTwitter、Instagramなど)を介して行われるプロセスのことで、具体的には以下の4つのプロセスがあるとされています。
- Sympathize(共感する)
- Identify(確認する)
- Participate(参加する)
- Share & Spread(共有・拡散する)
SIPSはこれらの頭文字をとって名付けられました。それでは1つ1つのプロセスをくわしく見ていきましょう。
■Sympathize(共感)
SIPSのスタート地点となるのは「Sympathize(共感)」です。この共感というキーワードはソーシャルメディアの世界では非常に重要で、商品を知ってもらう以前にまず共感を得るための工夫をすることが必要だとされています。
つまり商品写真ではなく、一見商品とは関係のないように見える写真や動画、メッセージなどを発信することで、「私も参加したい」「私もそう思う」という共感をいかに広められるかが大切です。
ところでソーシャルメディアが普及する前は、消費者行動は「認知」から始まるとされていました。そのためいかに多く広告を打ち、商品名を知ってもらうかの施策が重視されていました。一方、SIPSにおいてこの認知(確認)は、二の次です。ソーシャルメディアの普及がいかに消費者行動に影響を及ぼしているかが分かります。
■Identify(確認)
「Sympathize(共感)」することができた消費者は、次にその情報が信頼できるものなのかを「Identify(確認)」します。具体的には検索をしたり友人にたずねたりしながら、自分の価値観に合うものかを確認していきます。
企業側はここで有識者や専門家の意見などを用意してリンク先を目につきやすいところに貼っておけば、消費者が安心して納得し、次のプロセスへ進みやすくなります。
■Participate(参加)
SIPSを特徴づけるプロセスが、次の「Participate(参加)」です。消費者は購買することがなくても、「いいね」ボタンを押したりコミュニティに参加したりして、無意識のうちに企業の販促活動に参加していきます。
この参加のプロセスは、参加度の強弱によって以下のように分類されます。
エバンジェリスト(伝達者) | 企業・ブランドの応援サイトを個人的に作成する、SNSを通じて他人にすすめるなど |
ロイヤルカスタマー(支援者) | 共感したブランドのSNSが炎上した際にかばうような書き込みをする、商品やサービス改善に関する意見を伝えるなど |
ファン(応援者) | 商品を購入して企業のSNSに投稿する、会員登録をするなど |
パーティシパント(ゆるい参加者) | SNSの「いいね! 」ボタンを押すなど |
■Share & Spread(共有・拡散)
「Participate(参加)」した消費者は、その内容を友人や知人に「Share(共有)」していきます。そしてその友人や知人のもつつながりへと「Spread(拡散)」していきます。SIPSは情報の伝達を「共有」だけにとどまらず、「拡散」という概念まで広げたというところも大きな特徴となっています。
SIPSを活用したマーケティングモデル
SNSを使ったマーケティングは近年、代理店や小売店を通さずに自社ECサイトを使って直接販売を行う「D2C(Direct to Consumer)」ブランドに活用されています。いくつかのモデルをご紹介します。
Mr. CHEESECAKE
チーズケーキを週2回のみ販売しているMr. CHEESECAKE。SNSを活用したマーケティングが注目されています。
・Sympathize: 共感
シンプルでスタイリッシュな写真をSNSに投稿して、ブランドイメージを演出。
・Identify: 確認
消費者が情報を確認しやすいように「#(ハッシュタグ)」を活用。口コミのリツイートで消費者に公式アカウントの存在を知らせる。
・Participate: 参加
参加者が増えることを目指して、Twitterで商品に関わるアンケート企画などを実施。
・Share & Spread: 共有・拡散
公式アカウントにフォローしたり、引用リツイートやハッシュタグをつけたりした投稿者を対象に、プレゼント企画などを実施。
ほかにも個数限定商品で消費者の購買欲を刺激したり、商品と相性のいいドリンクレシピを投稿したりと、「参加」を促す企画をSNS上で展開しています。商品をただ販売するだけにとどまらないコンテンツで、ファンを確実に広げています。
木村石鹸
大正13年創業の老舗石鹸会社。社員がつづるブログや、SNSを通じて寄せられた意見などを商品開発に活かすなど、共感を集める事業を展開しています。
・Sympathize: 共感
Twitterの公式アカウントでは、企業が伝えたいメッセージを固定ツイートとして表示。ブランドへの共感を得やすい環境が作られている。
・Identify: 確認
「#(ハッシュタグ)」の有無を問わず「木村石鹸」に関するツイートには積極的に引用リツイート。消費者が情報を得やすい環境を創出している。
・Participate: 参加
Twitterでメルマガ登録を通じて、ただのゆるい「参加者」から「ファン」へのステップアップをスムーズに促す。
・Share & Spread: 共有・拡散
商品に手紙を添えるなど、購入者がSNSで拡散したくなるような、共感を呼ぶ施策を展開。
GREEN SPOON
食材宅配の定額制のサブスクリプションサービスとして注目を集めている、D2Cブランドです。
・Sympathize: 共感
Instagramなどではスタイリッシュな写真や思わず作ってみたくなるレシピを紹介し、ブランドの世界観に共感を集める。
・Identify: 確認
リアル店舗での販売では管理栄養士を店頭に配置するなどして、消費者が納得できる情報を提供。アレルギー情報も分かりやすく掲載している。
・Participate:参加
「パーソナル」「カラダに合わせて食材を提供」などの表現で、消費者の好奇心をくすぐり参加を促す。
・Share & Spread:共有・拡散
利用者特典など、お得感を感じてもらうための施策も実施。
SIPS以外の消費者行動モデル
SIPSのほかにも、消費者行動モデルはあります。ここではそのなかから3つを紹介しましょう。
AIDMA(アイドマ)
AIDMA(アイドマ)は1920年にサミュエル・ローランド・ホールによって提唱された消費者行動モデル。消費者は以下の心理的変化を経て商品購入に至るとされています。
- Attention(注意・認知)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
消費者はまず認知し、感情を抱き、行動へ移すという段階を経るとし、その段階に適した施策を打つことが効果的だとされています。ただし、現在ではインターネットが普及し、このAIDMAから次に紹介するAISASなどのモデルが主流となっています。
AISAS(アイサス)
AISAS(アイサス)とは電通が2005年に提唱した消費者行動モデルです。消費者の行動を以下のように分析しています。
- Attention(認知)
- Interest(興味・関心)
- Search(検索)
- Action(行動・購買)
- Share(共有)
消費者が商品を認知し関心をもったあと、「Search」によって検索や調査をするという項目ができたことが特徴でしょう。事業者はECサイトの立ち上げや口コミの募集など、消費者が次の「Action」へ移行しやすい環境づくりをすることが求められるようになりました。
Dual AISAS(デュアルアイサス)
Dual AISAS(デュアルアイサス)とは、2014年にAISASをより時代に合うものへ進化させた消費者行動モデル。従来よりも情報を「広めたい」という消費者心理が強まっているとし、その「広めたい」をいかに「買いたい」へつなげるかが重要としています。
SIPSなどの消費者行動モデルを意識したSNS運用が大切
SIPSはソーシャルメディアを活用した消費者行動モデルのひとつ。消費者を購買行動へつなげるには、まずは「共感」を得ることが入り口となるとしています。共感をもち、それをスムーズに「確認」することができれば、その次の「参加」を促すことができ、「共有・拡散」によってファンを広めていくというものです。
消費者行動モデルは初期のものに「AIDMA」と呼ばれるものがありますが、インターネットの普及によって「AISAS」「SIPS」「Dual AISAS」などのモデルへと進化しています。SNSを活用したマーケティングが必須となった今、こうした消費者行動モデルもきちんと頭に入れておくことが大切です。