マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の高インフレ状態について解説していただきます。


日本でもガソリン価格の上昇は目立ちますが、それ以外の物価はそれほど上がっているように感じません。9月の消費者物価指数は前年比で0.2%の上昇にとどまっています。それも、プラスになったのは昨年8月以来13カ月ぶりでした。

米国の10月CPI上昇率は一段と加速

しかし、世界的にはインフレ率(=物価上昇率)が高まっており、いわゆる高インフレ状態になっています。米国では、10月CPI(消費者物価指数)が前年比6.2%の上昇と、前月の5.4%から加速しました。変動が大きいとされるエネルギーと食料を除くCPIコアは同4.6%と、前月(4.0%)を上回りました。

  • 米CPI(消費者物価指数)コア

  • 米CPI(消費者物価指数)

比較対象となる1年前がコロナ・ショック等で落ち込んだことによって前年比が押し上げられる、いわゆる「ベース効果」は既に小さくなっているはずです。それでも「ベース効果」を取り除くため、今年10月のCPIコアを7月(3カ月前)、4月(6カ月前)と比較すれば、それぞれ年率で3.8%、5.9%の上昇で、落ち着いてきたとは言えないでしょう。

幅広い項目で価格上昇が加速

CPIの中で上昇が目立つ項目は過去数カ月と同様に、ガソリン、自動車&トラック(中古)、自動車&トラック(レンタル)、住居外宿泊(ホテル・モーテル)などです。それらに航空運賃を加えた5項目は全体の9%程度ですが、平均して前年比34.1%上昇しており、CPIを3.0%押し上げています(=寄与度)。ただし、残る91%も平均すれば3.5%上昇しており、FRBの物価目標である2%を大きく上回っています。

  • 米CPI上昇率の要因分解(21年10月)

今年7月の段階では、上記5項目が平均で前年比38.3%上昇しており、CPIを3.5%押し上げました。一方で、残る91%は平均して2.1%の上昇にとどまっていました。わずか3カ月前と比べても、10月時点でインフレ圧力の表出が一部の項目だけでなく広がりを見せていることが分かります。

  • 米CPI上昇率の要因分解(21年10月)

インフレの落ち着きに自信を失うFRB?

米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の物価に関する表現も変化してきました。今年初めごろまでは、「インフレ率の上振れは一時的だ」と明言していましたが、そこから「高インフレは一時的要因を反映している」へ、そして最近では「高インフレは一時的と見込まれる要因を反映」や「現在の高インフレは恒久的ではない」です。議長は、インフレがやがて落ち着くという判断に徐々に自信を失っているようにみえます。

  • 米10年物国債利回り(%、月足、12年1月-)

利上げは相当に先なのか 11月3日のFOMC(連邦公開市場委員会)でテーパリング(量的緩和の段階的縮小)が決定された後、米国の長期金利(10年物国債利回り)は低下しました。パウエル議長がFOMC後の会見で「(利上げに関して)我々は忍耐強くいられる」と述べ、利上げがまだ相当に先だとの印象を与えたことが一因です。

また、リーマンショック後のQE(量的緩和)第3弾のテーパリング(14年1月~10月)が完了してから、15年12月に最初の利上げ(=「ゼロ金利」解除)が実施されるまで14カ月もかかったという経験則も効いたのでしょう。実際、当時のテーパリングの開始から完了するまでの期間中、長期金利は低下基調でした。

  • 米PCE(個人消費支出)デフレーター

2014年との最大の相違点

もっとも、当時と現在の最大の違いは物価動向です。14年のテーパリング中、そして最初の2回の利上げインフレ率がFRBの目標である2%を下回っていました。一方、冒頭で紹介したように足もとでインフレ率は大きく上振れしています。FRBは早い段階でテーパリングの前倒しや利上げなどでインフレへの対応を迫られるかもしれません。