スバルが新型電気自動車(EV)の「ソルテラ」を発表した。トヨタ自動車と共同開発したクルマで、プラットフォームも一緒という1台だが、トヨタの「bZ4X」とは何が違うのか。ソルテラ独自の機能や装備はあるのか。スバルの開発責任者を務めた小野大輔さんに話を聞いた。
共同開発は「勝ち負けではない」
ソルテラはスバルが初めてグローバルに展開するEVだ。SUVタイプの新型車で、トヨタ「bZ4X」とは兄弟の関係となる。ボディサイズは全長4,690mm、全幅1,860mm、全高1,650mmでbZ4Xと全く一緒。フル充電での走行距離(WLTCモード)はソルテラの前輪駆動(FWD)が530km前後、4輪駆動(AWD)が460km前後、bZ4XはFWDが500km前後、AWDが460km前後とのことだ。
共同開発はどちらが主導したのか。小野さんによると、「両社が半分くらいずつ人を出して、ワンチームで進めた」感じだったという。電動車を作る体制が整っていることもあり、クルマづくりの現場こそトヨタのZEVファクトリーになったのだが、現場では両社の技術者が入り混じって開発を進めたそう。途中からは「誰がトヨタで誰がスバルなのか、もはやわからないくらい」(小野さん)の状態にまで仲が深まったという。まずは「ひとつのいい答え」を出すことに注力し、その先で行きたい方向が両社で違う場合には各社でクルマを作りわける。こんな具合に開発を進めたそうだ。
2台の違いとして、小野さんが最初に上げたのが「意匠」だ。なるほど、デザインを見るとソルテラとbZ4Xはキャラクターが違うように感じる。スバルがオフローダー志向であるのに対し、トヨタは全体的にダークな色味を使って都会派に仕上げている。
走りの違いとしては、足回りの味付けが両社で異なるそうだ。具体的には、ソルテラはショックアブソーバーの伸び縮みに関するセッティングを変え、段差の乗り越えや振動の吸収で違いを出したとのこと。
ソルテラだけに付いているものとしては「シフトパドル」がある。回生ブレーキの効き具合をハンドルの裏側にあるパドルで調整できる機構だ。パドルでは、1段階だけだが回生ブレーキを弱めることもできるとのこと。回生の弱い「セーリングモード」では、いわゆるコースティングのような走りが楽しめるようだ。
ちなみに、ソルテラには「ワンペダル」のような走行モードを選べるボタンもついているそうだが、アクセルオフでクルマを完全停止させる仕組みは入れなかったそうだ。「議論はしたんですが、クルマを止めるのはアクセル(ペダル)ではないだろう、ということで」というのが、その理由だ。つまり、ソルテラで選べるワンペダル走行とは、最も強い回生ブレーキが働く走行モードと理解すればいいだろう。
モードでいうとソルテラでは「パワーモード」が選べるが、bZ4Xでは選べないとのこと。パワーモードは加速力が強くなるモードだ。
意外だったのは、ソルテラが「アイサイト」を採用していないこと。アイサイトはスバル独自の安全運転支援システムで、「安心と愉しさ」を掲げるスバルを象徴する装備のひとつなのだが、今回は電子プラットフォームとアイサイトをつなげるための時間が足りないと判断し、トヨタの安全運転支援システム「Toyota Safety Sense」(トヨタセーフティセンス)を導入することに決めたという。
スバルはプライドを持ってアイサイトを開発してきたはずだから、ソルテラにトヨタの安全装備を採用することに、ちょっと引っかかる部分はなかったのだろうか。共同開発の中で、相手側の技術を採用することについて小野さんは、「相手の技術が選ばれたといっても、それは負けたということではありません。そう感じるのは、個人が先に立っているからです。商品が先に立っていれば、そうはなりません」との考えを示した。
市場規模を見ると、EVはまだまだ黎明期にある。この時点で各社が独自にEV専用モデルを作るのは、経営的に厳しいはず。そういう意味では、今回のソルテラ/bZ4Xのように、アライアンスによる共同開発EVというのは今後も増えていくだろう。共同開発したクルマを最終的にどう作りわけるかは、これからも重要な課題になりそうだ。