楽天は11月11日、2021年度の第3四半期決算を発表し、オンラインで決算説明会を開催した。グループ全体の連結売上収益は第3四半期として過去最高の4,069億300万円の黒字で、前年同期比12.6%の増収を達成。モバイル領域では先行投資により減益が続いているものの、基地局建設が進んで顧客基盤が拡大している現状に自信を見せました。
国内ECは、巣ごもり需要の一段落後も好調が続く
国内ECについてはショッピングEC流通総額が前年同期比で8.7%増加。コロナ禍の巣ごもり需要を背景に前年同期比29.3%増と大幅成長した昨年第3四半期から1年がたった今四半期においても、巣ごもり需要で増加した顧客の定着、Rakuten Fashion/楽天西友ネットスーパーなどとのクロスユース拡大が、流通総額の拡大に寄与しているそうです。
また6月に日本郵便と共同出資で設立したJP楽天ロジスティクス株式会社において、業務効率化と利便性向上に努めているとのこと。なお、このJP楽天ロジスティクスで物流事業の権利義務を承継したことに伴い、この第3四半期より物流事業の損益の一部を持分法による投資損益として計上するようになりました。
その他インターネットサービスの領域においては、営業損失を前年同期比で56億8,800万円縮小し、大幅に収支を改善。「Rakuten Rewards」等の海外インターネットサービスにおける継続的な業務効率化や、スポーツ事業等コロナ禍で影響を受けた事業の回復がその要因だとしています。
ローミング費用の削減効果が出てくるのは2022年第2四半期以降、
モバイル領域では、先日開催された記者説明会でも発表されたとおり、4G基地局の人口カバー率が94.3%となり、半導体不足による部材の納品の遅れにより作業が未完了となっている約1万局が完工となる2022年春には96%に達する見通しです。「2021年夏ごろ」としていた予定からは先送りになりましたが、総務省に提出した開設計画よりも約5年前倒しの早いペースとなっています。
ローミングサービスについても、2021年10月1日以降、カバー率が基準に達していない8県を除く39都道府県ので自社回線への切り替えを進めています。これによりRAKUTEN UN-LIMIT VIのデータ無制限を有効に利用できるようになっており、申し込みの拡大にもつながることを期待しています。2022年4月には、もう一段階の切り替えが予定されています。
顧客数は、MNOサービスの契約が「1年無料キャンペーン」の終了後も堅調に推移しており、直近でMNO/MVNO合わせて510万契約を超えました。
売上収支については加入当初の3カ月がプラン料金無料となるRAKUTEN UN-LIMIT VIへの移行という減収要因がありながらも、課金対象のMNOユーザーが増加したという増収要因がそれを上回り、売上収益が前年同期比で21.1%増となっています。
とはいえ引き続き先行投資のため、営業収支では損失の拡大が続いている状況です。ただ、前述のとおりローミングから自社回線への切り替えが進むことにより、キャリア(KDDI)に支払っているローミング費用負担が軽くなるはずで、課金対象ユーザー数も拡大していることから、損失の拡大は限定的だと予測。自社回線切り替えによる費用削減の効果が出てくる2022年第2四半期以降は収益の改善を見込んでいるとのことでした。
楽天モバイル運用の実績が楽天シンフォニーのビジネスにつながる
説明会冒頭の三木谷氏によるオーバービューでは、楽天モバイルの3つのミッションが示されました。すなわち、モバイル事業の収益化、楽天エコシステムへの貢献、そしてモバイルプラットフォームのグローバル販売です。
このうちモバイルプラットフォームのグローバル販売を担うのが通信プラットフォーム事業を集約した組織である楽天シンフォニーです。楽天モバイルが500万を超えるユーザーを仮想化ソリューションで安定して処理しているという実績を持つことが楽天シンフォニーにとってのアドバンテージになるとして、三木谷氏は仮想化モバイルプラットフォームについて、「2025年時点で15兆円くらいのマーケット。我々が契約を終えて実行に移しているプロジェクトも数千億円になってきています。たんにソフトを売るという話ではなく、日本発で世界のネットワークの根幹を取りに行くという話」と語り、今後は人員規模もかなりのものになるとしています。
8月にはドイツの通信事業者1&1との長期的なパートナーシップを発表していますが、これに続く案件も検証段階に入っているものがあるそうです。
なぜ楽天シンフォニーが競争力を持つのか。それは楽天モバイルがあるから
質疑応答には、三木谷氏と各領域のトップが対応しました。
KDDIが決算発表の際に「楽天への流出を阻止するためにpovo2.0をはじめた」という趣旨のコメントをしていること、NTTドコモが「ゼロ円プランはやらない」と発言していることについての楽天モバイルとしての受け止めを問われると、山田氏は「確かにpovo2.0の影響が数字に反映されているというのは感じていますが、全体としては純増であり、それほど大きな影響という感じではない」(山田氏)とし、三木谷氏も「昨年の今頃にくらべて2倍くらいの新規申し込みがあって、povo2.0についてはほぼ影響ないかなと思っています。MNPの数が増えているという実感もあります」と回答しました。
ユーザー増加については、自社エリアの拡大によって顧客満足度が上がっていくことがその原動力になるという認識を示し、エリア拡大のペースにあわせてマーケティングの施策も展開していくものの、「大規模なマーケティングキャンペーンを打とうとは思っていない。継続的で自然な増加を重視しており、ユーザー分析を行って利益につながるパーソナルなキャンペーンに注力したい」としました。
モバイル事業の黒字化については、自社ネットワークでユーザーエクスペリエンスが向上し、ユーザー増加が現在のペースで続いていけば、ローミング費用の削減/楽天シンフォニーの事業進捗とあわせて、2023年の単月黒字は十分可能という見通しを示しました。
また、iPhoneシリーズの価格設定を他キャリアよりも低く設定している理由を問われると、端末の販売よりも回線契約で利益をあげていくという戦略に加え、楽天エコシステム全体で売上・利益をあげられるためにアグレッシブな設定が可能であると説明しました。
楽天のビジネスのグローバル展開の全体像をあらためて示してほしいという質問に対しては、Eコマース、ファイナンス、ソフトウェアという3つの軸があるとし、そのソフトウェア軸の中心となる楽天シンフォニーについて、「なぜ楽天シンフォニーが競争力を持つのかというと、それは楽天モバイルがあるから。世界で初めて、不可能と言われていたソフトウェア技術でのネットワーク構築を行った。それが実現可能であり、爆発的なコスト面のアドバンテージがあることを世界が認識しだして、世界のトップ中のトップの通信会社が我々と話をしはじめている。これは日本の会社が世界のプラットフォームをとれる数少ないチャンス」と位置付けます。コンシューマー側のエコシステムについては「我々が楽天市場を作ったときとは状況も変わってきているので、組織化をもっと進めて、ポイントシステムを世界に拡げていく」というビジョンを語りました。