コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場する中、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。
今回は、ニッポン放送のラジオアナウンサーであり、バーチャルYouTuber「一翔 剣」、「マンガ大賞」の発起人、アニメ・アイドルイベントの企画や司会を年に100本ほど務め、『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)を始めとした書籍を上梓するなど、多彩な顔を持つ吉田尚記氏に話を伺った。後編では、吉田氏自身の活動、そしてコロナ禍のコミュニケーションに悩みを抱える人に向けた吉田氏からの意見を伺っていきたい。
■前編はこちら「コミュニケーションは『本当はお前何考えてんだよ!』のぶつけ合い - ニッポン放送 吉田氏に聞くIT×コミュニケーション(前編)」
"テキストのラジオ"だったTwitterのいま
吉田氏は、Twitterがサービスを開始した当初から利用しているユーザーのひとりだ。Twitterの公式サイト「ツイナビ」が公認した「日本初のツイナビ公認アナウンサー」としても知られている。同氏はどのようなきっかけでTwitterを始めたのだろうか。
「一言でいえば面白そうだからですよね、それでしかない。やった瞬間に『あ、これ"テキストのラジオ"だ!』と思いました。ラジオはコミュニケーションに向いているサービスであり、Twitterはコミュニケーションを見せるサービスだなと思って始めました」
だが、最近はTwitterで人とコミュニケーションを取ることはなく、主に告知のために使っているという。
「いまのTwitterは、テレビのようにオフィシャルな空間です。そしてテレビ同様、揚げ足を取られる場に変わっちゃったなと感じます。Twitterを取り巻く文化は一気に不寛容に変わってしまいました。でもコミュニケーションを取るためには、発言に寛容じゃないとダメなんですよ」
その具体例として、吉田氏は次のような話をする。
「例えば『たばこが吸いたい』といった話をテレビやTwitterですると、そこだけ切り取られてクソリプの嵐が吹き荒れることは確実です。でもラジオなら、その『たばこが吸いたい』だけ切り取られることはまずないんです。『なんで?』と話を聞いてくれる人がいて、5~10分話をして、『まぁそれはそれで一理あるな』と思ってくれたりもする。なので、本当に自由な話はラジオのほうができるだろうなと感じますね」
実際、近年はTwitterからラジオやポッドキャストなどに流れてくる人は多いという。それがポッドキャストの視聴者数の急激な伸びに繋がっていると吉田氏は推察する。そして、Web上で行われる"批判"について言及を続ける。
「批判にも価値があるものとないものがあります。罵倒の言葉ひとつで済んでしまう、Twitterや5ちゃんねるでの短い批判は価値がないと思うんです。一方同じ批判でも、ブログで書かれたものは価値があるはず。その人の事実誤認や思想を明らかにせずに2000文字も書くことはできないからです」
「快・不快に対応するだけのSNSには価値がない、そして建設的な批判をしようと思ったら文章は長くなる」と吉田氏。「むしろ、『吉田が間違っている5つの理由』みたいなBlogがあったらそれはすごくためになるので、ぜひ書いてほしい」と笑って話した。
VRは現実の代替物ではなく拡張物
ラジオアナウンサーだけではなく、バーチャルYouTuber(VTuber)やVRを利用した落語などの活動も積極的に行っている吉田氏。面白いと思ったメディアやテクノロジーを率先して使っていく同氏は、これからどのような活動を行いたいと考えているのだろうか。
「コロナ禍の影響でライブができない替わりに配信ライブが行われることもありますが、それはあくまで現実の劣化代替物だと思うんです。でもVRでのライブやイベントは、代替物ではなく全く新しいものだと感じています。以前やったVRイベントでは『バーチャルなら、客席でやってもよくない?』って、タレントさんたちと一緒に客席に降り立ちました。当然もみくちゃにされましたが、リアルじゃないから誰も危なくないし、お客さん側は『目の前でしゃべってる』という距離感の近さを得られたようです」
さらに、VRは演出面でも現実を越える表現が可能だと話す。
「特殊効果も何回使ったっていい。花火だって何千発上げてもノーコストだしなんなら流れ星も流せる。音楽にはDJが、映像にはVJがいますが、VR上の世界を演出する方は『WJ(ワールド・ジョッキー)』と呼べるかもしれません。VRライブはいま現実の代替物を超えて、現実の拡張物になっています」
『話しかける勇気』と『へこまない体力』
コロナ禍の影響を受け、相手と直接対面しにくい状況は続いている。バーチャルな交流をする方もいるだろうが、コミュニケーションの変化や不足に悩む社会人も少なくないだろう。そんな時代にコミュニケーション能力を上げるためにはどうしたら良いのだろうか。
「世の中のコミュニケーション本のなかには、「自信を持ってみる」なんて書かれているものもあります。自信を持てなんていうのも、自分で意識すればできることではないじゃないですか。精神論ですよね。でも気持ちで乗り越えなくちゃいけないことがふたつだけあります。それは『話しかける勇気』と『へこまない体力』。精神力という言葉は個人的に嫌いなんだけど、このふたつは精神力で乗り越えるしかないです」
リモートワークは、このふたつを損なわせるそうだ。例えば、エレベーターでたまたま会った上司に話しかけるのと、Zoomで会話を求めるのでは、求められる『話しかける勇気』がまるで違う。また、傷つくことを言われたときに『へこまない体力』を持たなくては場数が踏めないが、リモートワークではその機会も減っている。
「コミュニケーションをなぜ取るかを聞くと、お金持ちになりたいとか人脈を作りたいみたいに『to Be』が挙がりがちですが、『本当はお前何考えてんだよ』に対する正しい答えは『to Do』なんです。自分は本当は何をしたいかがわかっていれば、『to Be』は隅に置いておけるはずなんです」、吉田氏はこのように伝え、最後に自身の体験を話す。
「私は年上の人がうらやましいと思ったことがほとんどないんですよ、みんな楽しくなさそうだし。でもミュージシャンの甲本ヒロトさんと真島昌利さんとお会いしたときは、うらやましかったんです。だって心底楽しそうじゃないですか。甲本さんは『好きなことをずっとやり続けていたら、気づいたらだれかが立っている』と言っていて、そうだよな~と思いました。やりたいことをやってない、というのがコミュニケーションがうまく取れないことの、本質的な問題じゃないですかね」
■前編はこちら「コミュニケーションは『本当はお前何考えてんだよ!』のぶつけ合い - ニッポン放送 吉田氏に聞くIT×コミュニケーション(前編)」