多くの人とかかわりながら仕事を進めなければならないわたしたちにとって、「周囲の人から好印象を持たれる」ことは大きな課題のひとつです。人間関係において「第一印象が大事」とはよくいわれることですが、果たしてそれは心理学的にも正しいのでしょうか。

  • “初対面で好印象”を持たれる人が、やっている3つのこと /心理カウンセラー・中島輝

心理カウンセラーの中島輝さんが、初対面で好印象を持たれるためにやるべきことと併せて教えてくれました。

■身だしなみを整えることが好印象を持たれる第一歩

「初頭効果」という言葉を知っていますか? これは、ポーランド出身の心理学者であるソロモン・アッシュが自身の研究から提唱したもので、「複数の情報から『記憶する・印象をつくる・判断を下す』とき、最初に受けた情報がとくに大きな影響を与える」という心理現象のことです。まさに、「第一印象が大事だ」というわけです。

しかも、その第一印象の影響が及ぶのはその瞬間だけではありません。最初に好印象を持たれれば、相手からもう一度会いたいとか話したいと思ってもらえますから、その後のコミュニケーションが取りやすくなります。その結果、相手とよい関係をつくれるのです。一方、最初によくない印象を持たれると、その後のコミュニケーションを取りにくくなるため、よい関係を築くことが難しくなります。

では、その第一印象はなにで決まるのでしょうか? その大半は、「見た目」です。このことについては、アメリカの心理学者であるアルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」がエビデンスとなります。

この法則は、話す言葉、話し方、表情が矛盾していた場合、人がその情報を解釈する判断基準になにがもっとも影響を与えるかを調べた研究によって導かれました。つまり、「口では好意的なことをいっているのに、怒った口調や表情だった場合に、いちばん印象を左右するものはなにか」を調べたわけです。

その結果は次のとおりでした。
・言語情報(言葉の意味や話の内容):7%
・聴覚情報(口調や声の大きさ・質):38%
・視覚情報(見た目、表情、身振り):55%

なんと、話の内容や口調などよりはるかに大きい影響を、視覚情報、つまり見た目が及ぼしていたのです。そう考えると、社会人にとって身だしなみが重要だということがよくわかります。ビジネスにおいて初対面の人と会うときには、なにはともあれ身だしなみをきっちり整えておくことが、好印象を持たれるための第一歩となります。

もちろん、見た目以外にも好印象を持たれるためのポイントはあります。わたしからは、3つのポイントを紹介しましょう。ひとつ目は「5つのYESを使う」というものです。

初対面のときには、自分も相手も緊張しています。つまり、無意識のうちにも「この人はどういう人だろうか…」というふうに警戒している状態にあるということです。好印象を持たれるためには、この警戒心を解いてやる必要があります。そのために、相手が「YES」と肯定してくれる言葉を投げかけましょう。

たとえば、「急に寒くなってきましたね」「今日は人出が多かったですね」といったとりとめのない内容で、相手が「そうですね」としかいいようがない言葉の投げかけです。すると、相手はこちらを肯定することになりますから、自然と警戒心や緊張が解けて、「この人はいい人かもしれないな」というふうに思ってもらえるのです。逆にいうと、相手に「NO」といわせてしまうような言葉を投げかけるのはNGです。

ただ、こういった言葉は、最初に緊張をほぐすためのものですから、とくにビジネスの場では3〜5つほどにとどめておきましょう。ひとつだけだと少ないかもしれませんが、6つ以上となると本来話すべき重要な内容について話すことができなくなります。そうなると、「この人はなにをしにきたんだ…」というふうに逆に不信感を抱かせかねませんから、その点にも注意してください。

■ほどこされたらほどこし返す、「返報性の原理」を活かす

ふたつ目のポイントは、「『返報性の原理』を活かす」というものです。返報性の原理とは、「人は他人からなんらかのほどこしを受けた場合、お返しをしなければならないという感情を抱く」という心理現象を示すもので、ビジネスシーンに広く活用されています。

その代表格というと、試食が挙げられます。本来、試食は客が商品の味をたしかめて購買するかどうかを判断するためのものですが、試食した客は「せっかく食べさせてもらったのだから」と、味がどうだったかにかかわらず「買わなければならない」という気持ちになります。

これを初対面の人と会う場にも活かすのです。みなさんが好印象を持つ初対面の人はどういう人ですか? 無礼で不親切で傲慢な人に好印象を持つ人などいないでしょう。ならばその反対に、丁寧で親切で謙虚な言動を心がけましょう。

そうすれば、相手は「この人は丁寧で親切で謙虚だな」と好印象を抱くだけでなく、「わたしも丁寧に親切に謙虚に接しよう」と思ってくれます。そうして、その後の関係がよりよいものになっていく可能性が高まります。

また、返報性の原理を活かすという意味では、「オウム返し」を心がけるのもおすすめです。相手がなにかをいったとき、ただうなずいたり肯定したりするのではなく、相手の言葉をそのまま返すのです。たとえば、相手が「またガソリン代が上がりますね」といったなら、「え? またガソリン代が上がるんですね」というといった具合です。

そうすると、ただうなずいたり肯定したりした場合と比べて、相手は「この人はきちんと話を聞いてくれる人だ」というふうに好印象を持ち、さらに「わたしもきちんとこの人の話を聞こう」と傾聴の姿勢を持ってくれます。

■互いの共通点を見つけて心理的距離を一気に縮める

最後にお伝えするポイントは、「希少性を探す」というもの。みなさんにも、初対面の人と話していたら偶然にも共通の知り合いがいて話が盛り上がったという経験はないですか? しかもそういうときは、「どうしてこの人と接点があるのだろう」と思えるような意外な人が共通の知り合いだったときほど、会話は盛り上がります。それこそ、希少性です。

そのような希少な互いの共通点を見つけることができれば、相手との心理的距離は一気に縮まり、親密度や安心感、信頼感が高まります。

もちろん、このことは偶然にも左右されます。しかし、そんななかでもなるべく共通点を見つけることを意識しましょう。その共通点は、それこそ先の例ではありませんが、「こんなことってある?」と思える希少なものほどいいのですが、希少とまでいえなくとも共通点が見つかれば人は自然と打ち解けていくものです。

そうするためには、偶然に任せるだけでなく多くの人と共通点になりそうな引き出しを増やしておくことも大切です。男性の場合ならゴルフや野球、サッカー、釣りなど多くの人が好む趣味を持ったり、それについての知識を蓄えたりするようなことですね。

あるいは、ファッションについての知識を持っておくことも大切だと思います。ちょっとした会話の取っ掛かりかもしれませんが、「そのネクタイピン、〇〇というブランドのものですよね? わたしも持ってるんですよ」なんて言葉をかけることができたら、間違いなく好印象を持ってもらえるはずです。

みなさんのまわりにも「不思議と好印象を持たれる人」がいるはずです。でも、本当は「不思議」ではないのかもしれません。その人の言動をよく観察してみると、わたしが紹介したポイントをしっかり押さえているということもあるでしょう。

しかも、そのポイントは難しいことでも特別なことでもありませんから、ぜひあなたも少しずつ取り入れてみてください。きっと「初対面で好印象を持たれる人」になれるはずです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ