ソニーからハイエンドスマートフォン「Xperia PRO-I」が発表されました。Xperia PROシリーズの2モデル目として、カメラ機能を重視した製品で、最大の特徴は1型という大型センサーを搭載した点。実際は、少し特殊な設計を採用していますが、コンパクトなスマートフォンスタイルを実現しています。
今回、注目の「カメラスマートフォン」であるXperia PRO-Iを検証してみたいと思います。
最新世代の1型センサーを搭載
Xperia PROシリーズは、通常のスマートフォンとは異なり、プロフェッショナルの現場での利用を想定したモデルとして、今年2月に1モデル目の「Xperia PRO」が登場しました。
Xperia PROは、映像制作の現場に向けたモデルとして、HDMI入力によってカメラの外部モニターとして使ってワークフローをサポートするモデルとして登場しました。Xperiaとして初めて5Gミリ波に対応した点も含めて、ハイエンドなSIMフリーXperiaとしても注目されました。
第2弾となるのが今回のXperia PRO-Iです。Xperia PROとは異なるプロフェッショナルに向けた製品として、「Imaging」の「I」を名称に冠しました。つまり、写真を重視したPROシリーズということになります。
ベースとなっているのは最新のXperia 1 III。ベース機から大きく変わっているのが、大型の1型センサーを搭載した、という点です。高級コンパクトデジカメクラスのセンサーを搭載したことで、写真の品質向上を狙っています。
1型センサー搭載スマートフォンといえば、2014年にグローバルで発売されたパナソニックの「LUMIX DMC-CM1」が思い起こされます。この製品は正確には「コミニュケーションカメラ」と銘打ったカメラで、スマートフォンとは位置づけられていなかったのですが、Android OSを搭載し、通信機能も備えたスマートフォンの使い方もできる製品でした。
時代は流れて2021年。シャープが「AQUOS R6」で1型センサーを搭載。明確にスマートフォンとして位置づけられており、まさかの登場という感じでした。続いて、そのシャープやソフトバンクと協業してあのドイツ・ライカがスマートフォン事業に参入。AQUOS R6をベースに1型センサーを搭載した「LEITZ PHONE 1」を投入しました。
そして今回、Xperia PRO-Iも1型センサー搭載スマートフォンの仲間入りしたわけです。開発期間を考えれば、「AQUOS R6」と同時期に開発が進行していたことになりますが、いずれにしても、1型センサー搭載スマートフォンが2021年になって一気に3モデル増え、選択肢が広がりました。
PRO-Iに搭載されたセンサーは、2019年発売の「サイバーショット RX100VII」に搭載されたもの。世代としては最新世代となり、メモリー一体型積層型CMOSセンサーを採用しています。AQUOS R6やLEITZ PHONE 1に搭載されているのは、世代としてはRX100IIIと同世代のセンサーでしょう。
RX100シリーズは、RX100IVでメモリー一体型積層型CMOSセンサーを搭載し、センサーの高速処理によるアンチディストーションシャッターによってローリングシャッター歪みの抑制を実現しました。その次のRX100Vでは像面位相差AFを搭載。そうした高速処理、高速AFを実現したセンサーを採用したことで、従来の弱点を解消しています。
1型イメージセンサー搭載でも実態は1型にあらず?
センサーが大型化すると、それに合わせてAF用のアクチュエーターを含むレンズユニットも大型化し、カメラ部全体が大型化します。AQUOS R6やLEITZ PHONE 1はカメラ部の大型化が見た目でもわかりますが、PRO-Iのカメラはそこまで大型化しているようには見えません。
これは、Xperia PRO-Iが1型センサーの全体を使わず、一部だけを利用するという仕組みを採用したからです。搭載されているセンサーの総画素数は2,100万画素ですが、記録に使っている有効画素数は1,220万画素。約6割しか使われていません。
その結果、レンズ設計は1,220万画素をカバーすればよく、レンズユニットの小型化が実現。小型化したことで処理も高速化ができ、AFのカバーエリアも、RX100VIIの約68%から約90%に拡大しました。
こうしたメリットはあるものの、仮に1型センサーで1,220万画素だとかなり大型になるはずのピクセルピッチも、センサーサイズが1/1.31型相当のサイズとなるため、2.4μm止まり。1/1.31型で1,220万画素というセンサーは存在せず、ピクセルピッチをここまで大きくできるのは1型センサーを搭載したからなので、その恩恵はあるのですが、釈然としない面はあります。
実際、画素数が違うものであれば、1/1.31型のセンサーも存在しています。Samsungの「ISOCELL GN1」がまさにこのサイズ。このセンサーはPixel 6/Pixel 6 Proに搭載されているデバイスとされており、画素数は5,000万画素。ピクセルピッチは1.2μmと小型になっていますが、4画素を結合して1画素として使う「テトラピクセル」技術によって1,250万画素/2.4μmとほぼ同等のスペックを実現しています。
ますます釈然としませんが、新たにセンサーを作るコスト、カメラユニットが大型化する弊害などといった点を考慮して、今回の仕組みを採用したのでしょう。RX100VII世代のセンサーは十分な性能を備えており、高速AFや20コマ/秒のAF/AE追従連写、リアルタイムトラッキングなど、優れた性能の1/1.31型1,220万画素センサーと言えます。逆に言えば、1型センサーを搭載しながらXperia 1 IIIと同等の性能を実現できたとも言えます。
問題は「1型センサーを搭載」とアピールされている点ですが、事実としてセンサーは1型なので間違いではありません。隣接した画素を結合して1画素とする仕組みは、わずかであれ画質に影響するという意見もありますが、1型センサーの一部を使うことで画質への影響はなく、このセンサーに限って言えば画質は変わりません。
もともと、ソニーはサイバーショット RX0で同様の仕組みを使っていました。その時は1インチセンサーの1,530万画素だけを使うことでカメラユニットの小型化を実現していたのですが、今回はそれよりさらにセンサーの使用エリアを狭めています。
ただ、1,220万画素というのは静止画撮影時の記録に使っている画素数です。動画の場合は、この1,220万画素分から16:9のアスペクト比を切り出しているのではなく、さらに広い範囲から切り出しているそうです。また、電子式手ブレ補正用に、これも1,220万画素より外の範囲を使っているということです。
いずれにしても1型センサーを切り出すことでこうした余裕のある設計も可能になった、と言えます。
総画素数と有効画素数の間に相違があるのは普通のことですが、4割も減っているというのは、今まであまりなかったことです。単純にピクセルピッチだけで画質は語れませんし、コンパクトさと軽快動作を実現しつつ1型センサーのピクセルピッチを利用するうまい方法だとは思いますが、プロモーション時の表現に議論の余地はありそうです。
Xperia 1 IIIとの違いは可変絞りに注目
さて、そんなPRO-I。その他のスペックはおおむねXperia 1 IIIと同等で、違いはざっくりと5Gミリ波に対応しない点とワイヤレス充電に非対応な点です。必要な人には残念なポイントですが、逆にSIMフリーのデュアルSIMである点、そしてシャッター音が消せる点は大きなメリットです。
ハードウェアとしては、カメラ以外にシャッターボタンが大きくなった点、Googleアシスタントボタンが機能割り当て可能なカスタマイズキーになってシャッターボタン付近に移動した点が違いです。
最大の違いとなるのがカメラ。前述の通り(表現に議論はありますが)1型1,220万画素のセンサーを搭載。レンズはXperiaとして初めてZEISSのレンズ銘を備えたレンズをメインカメラに搭載しました。
搭載されているのはTessar T*レンズ。35mm判換算24mmという焦点距離でレンズ構成を含めてRX0のレンズにも似ていますが、新規開発とされています。可変絞りを搭載しており、F2.0とF4.0で切り替えられる(RX0はF4.0の固定)のも新しい点です。
可変絞りは、2018年にGalaxy S9+でも採用されていましたが、その後はめっきり見なくなりました。DMC-CM1はもちろん絞り羽根による物理絞りを搭載していますが、PRO-Iでは2段階の可変絞りを採用。Galaxy S9+とはアプローチが異なり、F2.0とF4.0という2段階です。
Galaxy S9+の可変絞りはF1.5とF2.4という2段階で、メインのF2.4に対して暗所でより明るく撮れるF1.8という設計でした。PRO-Iは逆にメインのF2.0に対して、背景がボケすぎないように被写界深度を深くするためにF4.0を採用した形です。
実際に試してみても、24mmという広角レンズながらF2.0だと適度にボケるのに対し、F4.0にすると被写界深度が深くなり、ボケが少なくなります。スマホカメラが大口径化してF値がどんどん小さくなって、背景がボケすぎる問題もありましたが、F4.0ですと近接撮影でも適度に背景にもピントが合います。
特に料理を撮る場合などにはボケすぎないF4.0は有効です。逆に背景をぼかしたい場合はF2.0と使い分けるといいでしょう。24mm相当の焦点距離なのでボケ量は多くはありませんが、近接ではそれなりにボケるので、絞りでコントロールできるのは撮影の幅が広がります。
ピント面の描写に関しては同等といっても良さそうです。F5.6ぐらいの方が差があって良かったのかもしれませんが、そうなると今度は回折の影響で画質が低下する可能性があります。多少シャープネスが失われてもパンフォーカス気味に撮影したいという場合もあるので選択できると良かったのですが、そうなると複数段階の絞りが必要になり、さすがにスペースやコストの問題が出てきそうです。
なお、DMC-CM1でテストしたところ、F5.6だとわずかに回折の影響が出始め、F8.0では小絞りボケと思われる解像感の低下が出ていました。その意味では、画質とのバランスがいいのがF4.0とは言えそうです。
いずれにしても、シーンによって絞りを使い分けることで、今まで以上に自分の感性に応じた写真が撮れるようになります。絞ることで背景のボケをコントロールする以外にも、シャッタースピードのコントロールもでき、撮影の幅が広がります。
テッサーレンズ搭載で周辺まで高解像
純粋なカメラの画質に関しては問題は感じません。出力された画質は、センサー、レンズ、画像処理の全てが組み合わされているので、センサーだけの実力ではありません。
搭載しているレンズはツァイスのテッサーレンズ。35mm判換算24mmの焦点距離で、開放F値はF2.0。T*コーティングも施されています。Xperiaとしてツァイスのレンズ銘が与えられたのは初めてで、「PRO-I」の名称にふさわしいレンズでしょう。
1型センサーの切り出しによって撮像エリアが狭くなったことから、他の1型センサー搭載スマートフォンに比べて、レンズ周りがコンパクトになっています。一見すると普通のスマホカメラにも見えますし、メインレンズの周囲が強調されているデザインは特別感もあります。
描写に関しても、周辺までよく解像し、クリアな描写。シャープネスも手頃で細部もきっちり描写しています。1,220万画素という画素数がやや物足りない感もありますが、逆に言えば余裕があるとも言えます。レンズの実力としてはもっと高画素でも耐えられるでしょう。
T*コーティングの効果も十分で、フレアやゴーストはよく抑えられています。ほかのスマートフォンだと発生するようなシーンでも、きちんと悪影響を抑えて描写してくれます。
背景によっては二線ボケが出る点は気になるところですが、F4.0に絞ると良くなります。この「絞る」というのができるのは、PRO-Iの特徴の1つです。F4.0に絞るとボケ量は少なくなりますが、ピントの合う範囲が広がって、特に近接撮影だと効果的になります。
絞りの変更は、Photography Proの左側にあるレンズ切替ボタンの下に切替ボタンが用意されています。レンズにまつわる操作だからまとめられたのでしょう。個人的には、ライブビュー画面下に現在のカメラ設定が表示されていて、ここをタッチするとダイレクトに変更できると分かりやすかった気がします(実際、新アプリVideography ProはそうしたUIになっています)。
切り替えの考え方は単純明快。Galaxy S9+の時は、標準の絞りに対して暗いシーンで明るく撮影するために絞りを開くという使い方でしたが、PRO-Iは開放絞りがメインで、ボケをコントロールしたいときに絞るという使い方です。必要に応じて切り替えるといいでしょう。
センサーの切り出しによるメリットはスピードもあります。センサーが大きくなり、レンズが大型化するとAF駆動も遅くなりますが、切り出しによって大型化せずにスピードアップが図れます。実際、PRO-Iはセンサーの実力を遺憾なく発揮した「AF/AE追従の20コマ/秒」という高速連写をサポート。演算性能も秒60回と高速。動く被写体も連写で追尾できます。
瞳AFやリアルタイムトラッキングによる追尾性能も、コントラストAFの1型センサーでは難しいでしょう。レンズ交換式カメラと比較すると精度は劣る印象ですが、1,220万画素と抑えめな点も含めて、よく追尾してくれます。
前述のとおり、PRO-Iにおける「1型センサー搭載」という表現は判断の分かれるところですが、周辺まで解像する画質や高速性能、コンパクトなボディという点を考えれば、納得できる面もあります。2.4μmという大型のピクセルピッチでありながら、小サイズのセンサーと同じ性能を実現したのは、センサーの切り出しをしたから、と言えるでしょう。
今回、新たなアプリ「Videography Pro」が搭載され、アクセサリーとして「Vlog Monitor」も用意されましたが、せっかくの高画質カメラなを自分撮りにもつかえるいいアイデア。ケーブルを使うため、使い方も簡単。操作は本体から行うことになりますが、ソニーのカメラ用のシューティンググリップも使えるので、有効活用できそう。ただ、静止画と異なり動画は、もう少し派手目の画質設定でもよかったかもしれません。
「1型センサー」というスペックが前に出ますが、「最大クラスのピクセルピッチを持つスマホカメラ」と考えれば、レンズ交換式カメラのサブ機として利用することもできるでしょう。特に、スマートフォンライクなコンピュテーショナルフォトグラフィーは抑えめで、素直な描写をするため、カメラとの併用で相性も良いと感じます。
個人的には、サイズや防水防塵性能を犠牲にしてより徹底的にカメラにこだわってもよかったようにも感じます。私のような「CM1難民」にとっては、5G搭載のスマートフォン的に操作できる1型センサー搭載カメラを、今後も待ち望みたいと思います。