11月3日、山梨ヌーボーが解禁されました。山梨ヌーボーとは、山梨県内で今年収穫されたぶどうで作られた新酒ワインのこと。ヌーボーといえば11月第3木曜日に解禁されるボジョレー・ヌーヴォーが有名ですが、山梨ヌーボーも近年注目を集めており人気が高まっています。
そんな山梨ヌーボーの試飲会が開催され、4種類の山梨ヌーボーと2種類のヌーボー以外の山梨ワインを飲み比べできました。
今年の山梨ヌーボーはどんな味わいなのか、どこで購入して、どんなふうに楽しむのがおすすめなのかをご紹介します。
2021年の山梨ヌーボー、注目のワインの味わいは?
まず、ヌーボーの知識について詳しく紹介しようかと思ったのですが、それよりも山梨ヌーボーの味わいが気になるという方が多いでしょうから、先に試飲会で飲み比べた山梨ヌーボーと、ヌーボー以外のワインを紹介します。
「まるき葡萄酒 新酒 甲州2021」
まるき葡萄酒というワイナリーから発売されている山梨ヌーボー。「甲州」という日本固有の品種が100%用いられています。
味わいはとにかくフレッシュ! 八朔(はっさく)などの和柑橘のような香りがほのかに漂い、ハーブのようなさわやかな香りもまざっています。ワインだけで飲むよりも、料理に合わせると本領を発揮します。今回、山梨ヌーボーをご紹介いただいた日本ソムリエ協会の理事を務める長谷部 賢さんのおすすめは、わかさぎのフリットや天ぷらなど、柑橘をしぼって食べたい料理とのこと。個人的には唐揚げなどの揚げ物に合わせて、しっかり冷やしてビールやレモンサワー代わりに飲みたいと思いました。そこまで難しく考えなくても、日本の家庭料理全般にぴったり寄り添ってくれそうです。
1,683円とお手頃価格なのも嬉しいところ。1日で飲みきらなくても、ふたをして冷蔵庫に入れておけば翌日も楽しめます。
まるき葡萄酒オンラインショップのほか、都内にある山梨のアンテナショップ「Cave de ワイン県」なら店頭で購入可能です。
「シャトー酒折 新酒甲州にごり2021」
シャトー酒折というワイナリーから発売されている甲州ぶどう100%の山梨ヌーボー。先ほどのまるき葡萄酒のヌーボーに比べると濁りがあり、やや甘みを感じる仕上がりです。
香りもフレッシュな柑橘類というよりも、白桃や柚子などやや甘さを連想する果物の香り。りんごの蜜のような風味もあり、酸っぱさが抑えられた柔らかな味わいです。よりフレッシュな酸味を求めるなら先ほどのまるき葡萄酒ですが、酸味があまり得意ではないという場合はシャトー酒折がおすすめ。
長谷部さんによると、出汁の風味がある料理と好相性とか。もつ鍋や寄せ鍋、おでんなど、これからの季節においしい鍋料理とマッチします。個人的にも、日本の家庭料理の甘みにぴったり合うと思いました。ドライなチューハイ感覚で、親子丼やカツ丼、スーパーのお惣菜など気取らない料理と一緒に飲んでもよさそうです。
価格は1,650円。シャトー酒折の自社オンラインショップのほか、「Cave de ワイン県」の店頭で購入できます。
「本坊酒造 マルス山梨ワイナリー シャトーマルス甲州 オランジュ・グリ2020」
こちらは山梨ヌーボーではありません。新酒との比較用に出された一般の日本ワインです。山梨ヌーボーと同じく甲州品種を100%使用していますが、独特の製法でつくられているため、色合いや風味はまったく異なります。
先ほどまでのワインが比較的透明感のある薄い白ワインだったのに対して、このシャトーマルス甲州 オランジュ・グリは明らかに濃い色合い。色だけでなく、香りや味わいも比較すると濃いめです。
味わいの特徴は、白ワインながらわずかに渋みを感じること。ただ、赤ワインほど強くはなく、旨味やコクにつながる心地よい渋みです。ピンクグレープフルーツのような香りがあり、少しだけ味わいに甘さを感じます。長谷部さんは、このわずかな渋みと甘みを中華料理に合わせるとベストだと説明されていました。
個人的には、中華料理に加えてタイ料理などのアジアンフードにも相性がいいのではないかと思います。
価格は1,500円程度。様々なオンラインショップで購入できるほか、お店によっては実店舗でも購入できます(オンラインショップが確実です)。
続いて赤ワインの山梨ヌーボーをご紹介します。
「白百合醸造 ロリアン・ベーリーA」
白百合醸造がつくる赤の山梨ヌーボー。マスカット・ベーリーAという日本ならではの品種が100%使用されています。
もともと渋みの少ないフルーティーなワインができる品種ですが、山梨ヌーボーでもその特徴は同じ。いちごキャンディやラズベリーのような甘い果実の香りがあり、味わいにも香りほどではないですが、わずかに甘みを感じます。酸味もしっかりありますが、渋みが少なくほのかな甘味があるおかげでバランスのいい甘酸っぱさが楽しめます。
日本固有の品種から作られるワインだけあって、日本の家庭料理との相性は抜群です。個人的には肉じゃがやタレでいただく焼き鳥など少し甘さを感じる肉料理に合わせてみたいと思いました。赤ワインですが、少し冷やした方がおいしいと思います(冷蔵庫で冷やして飲む30分くらい前に取り出すくらい)。
価格は1,540円。自社オンラインショップのほか、「Cave de ワイン県」店頭で購入できます。
「シャトー・メルシャン 日本の新酒 山梨県産マスカット・ベーリーA 2021」
シャトー・メルシャンがつくる山梨ヌーボー。いちごやラズベリーなどの香りは白百合醸造 ロリアン・ベーリーAと似ていますが、こちらの方が熟していて、フレッシュよりも少し落ち着いた香りと味わいです。
ワインをしばらく木の樽に入れておいたことで、木の樽の香りがワインに移り、ごくわずかにバニラの香りがただようのが特徴です。とても品のいい仕上がりで、ロリアン・ベーリーAと飲み比べても面白そう。同じく、日本の家庭料理全般に合わせておいしくいただけます。
価格は2,000円とお手頃ですが、こちらのワインは山梨県内での限定販売。旅行のついでに購入して楽しみたいワインです。
「ダイヤモンド酒造 シャンテ Y.A マスカット・ベーリーA Y キューブ 2018」
最後にダイヤモンド酒造のマスカット・ベーリーA。こちらはヌーボーではなく、2018年のぶどうで作られた3年熟成のワインです。
価格は3,000円前後とちょっとお高めですが、その値段に見合ったすばらしいワインです。香りは強く、豊かで、感じられる要素が豊富です。マスカット・ベーリーAの特徴であるいちごやラズベリーの香りに加えて、シナモンスティックや、木の樽に由来するバニラ、モカのような香りが絶妙なアクセントになっています。
山梨ヌーボーのようなフレッシュでフルーティーな雰囲気ではなく、力強く、ボリューム感があり、「いい赤ワインを飲んでいる」という気分に浸れます。ダイヤモンド酒造は"マスカット・ベーリーAの名人"と呼ばれる作り手ですが、その技術が存分に味わえます。
長谷部さんによると、濃い口のしょうゆとの相性が良いとのこと。照り焼きやタレでいただく焼き鳥、まぐりの漬け、煮物、洋食ならトマト系の料理と好相性だそうです。このワインはあまり冷やしすぎない方がよさそうですね(とはいえ、常温よりは軽く冷やした方がいいと思いますが)。
「ダイヤモンド酒造 シャンテ Y.A マスカット・ベーリー A Y キューブ 2018」は、各種オンラインショップで購入できます。
覚えておきたい「日本ワイン」と「国内製造ワイン」の違い
ここからは、日本のワインについて簡単にまとめておきます。
山梨県はご存知のように、ぶどうが特産品です。昔から高品質なぶどうがたくさん栽培されており、ワインについても日本で最初に作られた県として知られています。
豆知識として覚えておきたいのが、日本でつくられるワインには「日本ワイン」と「国内製造ワイン」の2種類があること。日本ワインは"日本で栽培されたぶどうを使って日本で醸造されたワイン"で、条件を満たしていればラベルに「日本ワイン」と記載できます。
一方で、国内製造ワインは、日本国内で製造されていれば原料は日本で栽培されたぶどうでなくても構いません。たとえば海外から安いぶどう果汁を輸入し、それを日本国内で製造した場合、「日本ワイン」は名乗れませんが、「国内製造ワイン」は名乗れるということです。
山梨ヌーボーは山梨県で栽培されたぶどうだけを用いて、山梨県で醸造されていますから、もちろん「日本ワイン」です。
通常、ぶどうの収穫は9~10月頃に行われます。その後、醸造してワインをつくり、出荷は翌年か2年後くらいになるのが一般的です。これは、ワインの渋みなどが落ち着くのに、少し時間がかかるからです。
しかし、ヌーボー(新酒)は例外的に、収穫・醸造してすぐに出荷されます。渋みを抑える特別な製法でつくられるため、赤ワインであっても渋みは穏やかで飲みやすいのが特徴です。
有名なボジョレー・ヌーヴォーは赤ワインしかありませんが、山梨ヌーボーは赤ワインと白ワインの両方があります。
ヌーボー(新酒)が作られる目的は、今年もぶどうが収穫できてワインが作れたことに対するお祝い。そして、今年のぶどうの出来を確認して、来年や2年後に出荷される通常のワインの味わいを予想することです。
まもなく解禁となるボジョレー・ヌーヴォーも楽しみですが、一足先に山梨ヌーボーで実りの秋を祝ってみてはいかがでしょうか。