米労働省が2021年11月5日に発表した10月雇用統計の主な結果は、(1)非農業部門雇用者数53.1万人増、(2)失業率4.6%、(3)平均時給30.96ドル(前月比+0.4%、前年比+4.9%)という内容であった。
(1)10月の米非農業部門雇用者数は前月比53.1万人増と市場予想(45.00人増)を上回った。前月の修正値である31.2万人増から伸びが加速した。雇用情勢を基調的に見る上で重視される3カ月平均の増加幅は44.2万人。前月の62.9万人からやや減速したが、2020年春のコロナ・ショックで失職した約2200万人のうち、すでに1800万人強の雇用が回復された事を踏まえると、雇用者数の増加が巡航ペースに戻りつつあると見るのが自然であろう。
(2)10月の米失業率は前月から0.2ポイント改善して4.6%となり、2020年3月以来の低水準を記録。市場予想は4.7%だった。労働力人口に占める働く意欲を持つ人の割合である労働参加率は61.6%で前月から横ばいとやや低調であった。なお、フルタイムの職を希望しながらパート就業しかできない人なども含めた広義の失業率である不完全雇用率(U-6失業率)は8.3%と、前月から0.2ポイント改善した。
(3)10月の米平均時給は30.96ドルと、前月0.4%増加して過去最高を更新。前年比の伸びは+4.9%に加速した。前年比の伸び率は予想通りではあったが、8カ月ぶりの高水準を記録した。米企業による人員確保に向けた賃金引き上げの動きが続いている模様。
米10月雇用統計は、労働参加率が上昇しなかった点を除けば概ね良好な結果であった。米連邦準備制度理事会(FRB)が11月の連邦公開市場委員会(FOMC)で決めたテーパリング(量的緩和の段階的な縮小)開始を正当化する内容であったと言えるだろう。
ただ、米10月雇用統計の発表直後こそ米長期金利が上昇してドルも強含んだが、この動きは一時的で早々に反転した。FOMCと米10月雇用統計という重要イベントを終えた「材料出尽くし感」が市場に広がったと見られる。また、米10月雇用統計は良好ではあったが、FRBの早期利上げ期待を高めるほどの強さではなかったとの見方も出ていた。
もっとも、米10月雇用統計で平均時給の伸びが加速した点を見ると、米国のインフレは当面高止まりもしくは高進する公算が大きい。今回の結果だけで、早期利上げ期待が後退したと判断するのはリスクが大きいだろう。いずれにせよ、米国の金融政策に関する市場の関心は、テーパリングから「利上げ開始時期」に移っている。米長期金利やドルの動きは、利上げ期待の強弱に左右されやすい地合いが続きそうだ。