ヒクソン・グレイシーの強さを、「400戦無敗」のフレーズとともに日本中に知らしめた伝説の格闘技イベントが5年ぶりに開催された。日本人トップファイターが世界に挑むことも主要テーマとする『VTJ(バーリ・トゥード・ジャパン)』─。

  • ヒクソンが27年前に参戦した伝説の格闘技イベント『VTJ』が復活! そのメインで完勝した「超新星」平良達郎の可能性を探る─。

    1995年4月20日、日本武道館で開催された第2回『VTJ』トーナメント決勝は、ヒクソン・グレイシー(右)vs.中井祐樹に。1ラウンド6分22秒、チョークスリーパーを決めたヒクソンが連覇を果たした。(写真:SLAM JAM)

11・6新木場で開催された『VTJ2021』で「Z世代の天才ファイター」が躍動した。修斗世界フライ級チャンピオンの平良達郎が、南米チリの同級王者に圧勝したのだ。世界を目指す平良とは何者か? どこまで強いのか? 

■格闘技界に「熱」をもたらした『VTJ』

「黒船が来た!」
日本格闘技界にそんな衝撃が走ってから、もう27年が経つ。 ヒクソン・グレイシーが、初めて日本のリングに登場したのは1994年7月29日。舞台は東京ベイNKホールで開催された『VALE TUDO(バーリ・トゥード) JAPAN OPEN’94』だった。

この大会で行われた8選手参加の「体重無差別1DAYトーナメント」にヒクソンが出場。
「グレイシー一族最強と言われるヒクソンは、どれほど強いのか」
満員の観衆が固唾を飲んで見守る中、1回戦で西良典(慧舟會/1983、1984年・大道塾北斗旗無差別級王者)と対戦しヒクソンは圧勝する。西に何もさせず、1ラウンド2分58秒、チョークスリーパーを決めて勝利した。
準決勝ではダビッド・レビキ(米国)、決勝でバド・スミス(米国)と対戦し、いずれもマウントパンチで仕留める。トータル試合時間6分あまり(337秒)で、アッサリと優勝を果たしたのだ。
これによりヒクソンの強さが日本中に広く知られることになった。

  • 1995年4月の第2回『VTJ』で、トップロープを跳び越えてリングに入るヒクソン・グレイシー。(写真:SLAM JAM)

  • 1994年7月、東京ベイNKホールでの第1回『VTJ』トーナメント準決勝。ヒクソン・グレイシー(左)は、ダビッド・レビキを圧倒した。(写真:真崎貴夫)

翌年4月20日、日本武道館『VALE TUDO JAPAN OPEN’95』にもヒクソンは連続参戦。山本宜久、木村浩一郎、中井祐樹…日本人3選手を絞め落としトーナメントを連覇した。
ちなみに、ヒクソンが「400戦無敗」と称されるようになったのは、『VTJ』初参戦の直前。このフレーズを考案したのは、修斗創始であり『VTJ』を開いた佐山聡(初代タイガーマスク)だと言われている。

その後も『VTJ』は続く。
「バリジャパ」と呼ばれファンから親しまれ、2016年9月の千葉・舞浜アンフィシアター大会まで計18回開かれた。その間に、佐藤ルミナ、エンセン井上、宇野薫、桜井“マッハ”速人、五味隆典、堀口恭司といった後に世界を舞台に活躍する選手が多く参戦、幾多の名勝負も生まれた。
また、『VTJ』を観て格闘家を志した者も少なくない。『VTJ』は長年、日本格闘技界の「熱」を支えてきた意義深い大会なのである。

■平良達郎が目指すはUFC王者

そして今年、伝説の格闘技イベント『VTJ』が約5年ぶりに復活した。
11月6日、東京・新木場のUSEN STUDIO COASTで『VTJ2021』が開催されたのだ。

行われたのは全6試合。その中でひときわ輝く選手がいた。
THEパラエストラ沖縄所属の修斗世界フライ級チャンピオンの平良達郎だ。
メインエベントに出場し、南米チリの総合格闘技団体「LFN」のフライ級王者であるアルフレド・ムアイアド(チリ)と対戦。「カミソリ猿」と呼ばれムエタイベースの打撃を得意とするアルフレドを平良は圧倒した。

打撃の攻防で優位に立ち、1ラウンド3分50秒過ぎに右のパンチで南米王者をグラつかせると、すかさずグラウンドへと持ち込み瞬時にリアネイキドチョークを決めたのだ。今後の可能性も存分に感じさせてくれる完勝だった─。

沖縄で育った21歳の平良が、格闘技をはじめたのは高校入学直後。
兄から影響を受け、THEパラエストラ沖縄に通い始めた。ここで、元修斗世界フェザー級王者・松根良太の指導を受けメキメキと上達。17歳(2017年)でアマチュア修斗デビューを果たすと破竹の10連勝、全日本大会も制す。
2018年にプロになってからも快進撃は続いた。連勝を重ねプロ9戦目(2021年7月)で修斗世界フライ級のベルトを腰に巻いたのだ。

  • 第8代修斗世界フライ級チャンピオン平良達郎。(写真:サステイン)

今回の勝利で連勝を10に伸ばした「Z世代の天才ファイター」平良は、試合後にこう話した。
「試合前は少し緊張しましたが、(ケージの中では)落ち着いて闘えました。自分の目標はUFCのフライ級チャンピオンになることです。そこに向けて、これからも一戦一戦、大切に闘っていきたい」

UFCは、総合格闘技界における最高峰の舞台。そこでチャンピオンになることは「世界最強」を意味する。そのためには、さらに実績を積む必要があるだろう。
メディアからは、こんな質問も飛んだ。
「年末の大会(『RIZIN大晦日決戦』)に出てみたいとは思わないか?」 平良が答える。
「個人的には出てみたい。いろいろな団体の強い選手と闘いたいと思います。でも、GOサインが出ないと」
つまりは、周囲と相談して今後の方向性を定めていくのだろう。まだ21歳、急ぐことはない。

まずは、修斗での王座初防衛戦が不可避。その先にメジャー格闘技団体『ONE』あるいは『RIZIN』への参戦を見据える。そこで結果を残せば、おのずとUFC参戦への道が開くはずである。

平良は期待したくなる逸材だ。強みは2つある。
ひとつは、オールラウンダーであること。得意な分野が打撃、寝技に偏っておらず隙がない。バランス能力の高さがうかがえ、さらなる技術向上が見込める。
もうひとつは、打撃の当て勘を含む格闘センスが卓越している点。これは持って生まれた才でもある。今後、フィジカルの強化は求められようが、堀口恭司(RIZINバンタム級王者)を超える可能性も十分にあろう。

『VTJ』から世界へ─。
日本人初の「UFCチャンピオンを目指す」と明確に口にする平良の格闘ロードを注視したい。

文/近藤隆夫