新型コロナウイルスによる行動制限から経済が回復していく中、世界的に物価の上昇「インフレ」が懸念され始めています。その背景にあるのは、急激なエネルギー需要の増加に伴う資源価格の上昇です。

今回は、資源価格の上昇によって私たちの生活にどのような影響があるのか、家計管理において今後注意すべきポイントを解説します。

  • ※画像はイメージ

世界的にインフレ傾向に

原油価格の国際的な指標であるWTI原油先物の価格推移を見てみると、年初には1バレル50ドル台を下回る水準であったのが、10月に入り一時85ドル台まで上昇し、7年ぶりの高値をつけています。併せて石炭・天然ガスの価格も軒並み上昇しています。

  • 市場データを参考に筆者作成

このような原油価格の高騰は、物価にも大きな影響を及ぼしています。

例えば、一足先にコロナ禍からの経済再開にかじを切ったアメリカでは、5月以降で前年同月比+5%超の物価上昇、ユーロ圏では8月以降で前年同月比+3%超と、各国が目標とする年率2%の物価上昇を大きく上回るペースで上昇しているのです。

またコロナの影響により経済再開が遅れている日本でも、欧米を追うように物価が上昇基調となり、10月22日に発表された9月分の消費者物価は総合で1年1カ月ぶりのプラスに転じました。

  • 公開データを参考に筆者作成

ガソリン価格、電気代金が上昇中

中でも資源価格の影響を大きく受けているのがガソリン・電気の価格です。

年初には130円台半ばであったガソリン価格は、10月に入って急上昇し、10月4週目には全国平均で167.3円をつけ、年初からは実に20%超の上昇となっています。

ガソリン価格の約半分はガソリン税、石油税、消費税などの税金であるため、原油価格の上昇と比べると上昇率は緩やかであるものの、日常的に車を利用する人にとっては打撃と言えるでしょう。

  • 資源エネルギー庁のデータより筆者作成

また生活に欠かせない電気料金も大きく値上がりしています。

電気料金は算出の元となる燃料価格の変化から3~5カ月遅れて反映されますが、例えば平均的な家庭の消費を参考に算出された金額で見ると、1月には6,317円であったのが11月には7,371円。金額では1,000円以上、比率では15%を超える上昇となっています。

毎月の請求額から変化を感じている方も少なくないのではないでしょうか。

  • 東京電力HPより筆者作成

価格上昇の影響は食料品にも

さらに価格上昇の影響は食料品にも及んでいます。

ナウキャストが提供する「日経CPINow」を用いて月次品目別の価格動向を見てみると、9月は上から順に「たばこ・喫煙関連用品」「生鮮卵」「発泡酒」「マヨネーズ」「食用油」の価格が上昇しています。

たばこは税率の影響、生鮮卵は鳥インフルエンザの影響と、固有の要因のものも含まれていますが、中でも食用油は4月、6月、8月と値上げが実施されています。さらに10月には小麦やマーガリン、11月には再び食用油の値上げが予定されています。

背景には需要の回復による原材料価格・資源価格の高騰があるため、今後もさまざまな商品で値上げが予想されます。

中長期的な価格動向にも注意を

これまで見てきた通り、すでに特定の財・サービスにおいて価格上昇が見られますが、原材料価格・資源価格の上昇と、実際の消費者物価に反映にはタイムラグが存在します。つまり、今後もさまざまな商品の価格上昇に注意する必要があるということです。

さらに、為替の円安も価格上昇に追い打ちをかけそうです。ドル円相場を見ると、109円台であった9月後半から急速に円安が進み、10月中旬には一時114円台後半をつけ、約3年ぶりの円安水準となっています。

円安進行は輸出企業にとっては追い風であるものの、輸入物価にとっては上昇圧力となります。このまま円安が続くと資源価格・原材料価格の上昇と合わせて物価上昇に寄与することが予想されます。新型コロナの感染者数が急速に減少し、経済成約も徐々に解除される中で、経済回復の足かせとなる可能性もあります。

一方で中長期的に見た場合、物価上昇以外にも懸念があります。冒頭でも触れたように、日本はこれまで「デフレ」の期間が長く、消費者が価格の上昇に敏感になっています。その結果、企業側がコスト上昇にも関わらず消費者物価を上げることができず、利益面に影響が出てくる可能性があります。

企業業績の悪化は従業員の給与にも影響が出てくるため、状況によっては、価格上昇による支出増だけでなく、家計の収入の面でマイナスに寄与する恐れもあるのです。

新型コロナ禍から日常の生活に戻るタイミングでの思わぬ形での物価上昇。生活コストの上昇は一見小さく見えても積み重なると大きくなってきます。年後半にかけては支出の変化を敏感に察知しておくと良いかもしれません。

Finatextグループ アナリスト 菅原良介

1997年生まれ、Z世代のアナリスト。早稲田大学 政治経済学部 経済学科に在学中は「株式投資サークルForward」の代表を務め、大学生対抗IRプレゼンコンテストで準優勝を獲得。2年間の長期インターンを経て、2020年Finatextに入社。現在はFinatextグループで展開される投資・証券サービスのディレクターを担当。コミュニティ型株取引アプリSTREAM内で開催されるイベントのモデレーターも務める。