ソニーは10月26日、カメラに特化した5Gスマートフォン「Xperia PRO-I(エクスペリア プロ アイ)」(XQ-BE42)を発表しました。同日開催された製品体験会で実機を手にした感触をレポートします。
「THE Camera」なXperia、「Xperia PRO-I」
ソニーのスマホとして、カメラと映像には並々ならぬこだわりがあるXperia。
そのシリーズの中でも「Xperia PRO-I」は撮影にフォーカスしたモデルとなっています。Xperia PRO-Iの「I」はイメージの頭文字の「i」です(紛らわしいところですが、ローマ数字のワンではありません)。そしてキャッチコピーは「THE Camera」です。
Xperia 1 IIIをベースとした“超フラッグシップ”というべき存在で、価格は198,000円(オンラインストア直販価格)。12月15日発売予定です。キャリア版はなく、オープンマーケット版(いわゆるSIMフリー版)のみの販売です。ただし、auではau +1 Collectionの物販商品として、SIMフリー版のXperia PRO-Iを取り扱います。
3眼カメラの目玉に1インチセンサー
Xperia PRO-Iの目玉は、背面の3眼カメラです。その中心にある24mm相当のレンズには、高級コンデジ「RX100 VII」と同じ1インチのイメージセンサーを搭載しています。
この1インチセンサーは、シャープのAQUOS R6と並んで、スマホ史上最大クラスの大きさ。明るく、ボケ味のきれいな写真を撮るためには必要な部品です。さらに、1インチセンサーだけでなく、16mm相当の超広角と50㎜の望遠という2つのカメラユニットも両脇に搭載し、3眼カメラとなっています。
撮影アプリは一眼カメラαの操作体系を受け継いだ「Photography PRO」、映画制作カメラVENICEの開発チームが監修した「Cinematography PRO」を搭載。そして今回初搭載となる動画撮影アプリ「Videography PRO」も追加されています。
また、Xperia PRO-I専用の周辺機器として、「Vlog Monitor」も展開。Xperia PRO-Iのカメラを使った自分撮りを簡単にできる仕組みを用意しています。
カメラらしい重厚さと機能性
Xperia PRO-Iは、従来のXperia 1シリーズの板状のデザインを引継ぎながらも、カメラ専用機の趣も感じるデザインとなっています。背面はすりガラス仕上げ。側面の金属フレームには、波板状に溝をつけることで、重厚さをかもしだしています。
その一方で、形状へのこだわりはXperiaらしさを引き継いでいます。一枚板のようなフォルムは従来のXperiaシリーズと同様。大きなセンサーを搭載しているにもかかわらず、厚さは8.9mmで、Xperia 1 IIIから0.7mmの増加にとどまっています。
こだわりは本体右下部のシャッターボタンにもあります。カメラを構えると右手の親指が触れる位置にシャッターボタンがある作りはXperia 1以降のシリーズと同様ですが、今回は一味違います。RX100シリーズのシャッターボタン機構を取り入れており、押しやすいサイズと感触までこだわって設計されています。
シャッターボタンの隣にあるボタンは、Xperia 1 IIIでは「Google アシスタント」ボタンでしたが、Xperia PRO-Iでは「ショートカットボタン」を搭載します。撮影アプリなど、任意のアプリを割り当てて、素早く起動できるようになっています。
俊足機動の1インチセンサー
背面カメラは16mm超広角レンズ、24mm広角レンズ、50㎜標準レンズの3眼カメラ構成(焦点距離は35mm判換算)。被写界深度を計測する3D iToFセンサーも装備しています。
3眼カメラの使い分けはシンプル。16mm~24mmまでが超広角、24mm~50mmが広角、50mm~150mmまでが標準レンズという形で、カメラが切り替わる形です。スマホのカメラでは複数のカメラが同時に稼働して1枚の画像を作り出すアプローチが多いなかで、Xperia PRO-Iは従来のカメラ専用機に近い設計をしていると言えるでしょう。
そして、このうち24mmの広角レンズにRX100 VIIと同じ1インチセンサーが使われています。ただし、RX100 VIIでは有効画素数2,400万画素となっているのに対して、Xperia PRO-Iは広角カメラはスペック上の表記では有効画素数1,220万画素とされています。
この違いの理由は、Xperia PRO-Iでは1インチセンサーのうち「美味しいところ」だけを使っているから。2,400万画素のセンサーのうち、中心部の1,220万画素分の領域のみを用いています。このイメージセンサーの“オイシイとこ取り”によって、撮影エリアの90%の領域でピント合わせが可能となり、動画でのリアルタイム瞳AFがXperiaでは初めて利用できるようになりました。
また、同じくXperiaでは初めて、動く被写体にフォーカスを合わせ続けるリアルタイムトラッキングに動画で対応。もともと高速なシャッターや連写性能など、カメラ譲りのスピードが売りだったXperiaのカメラが、動画でもよりアクティブなシーンで使えるようになっています。
さらに、広角カメラでは「可変絞り機構」を備えています。開放値でF2、絞り値でF4という2段階の切り替えが可能です。
1つの画素が取り込める光量が大きい(開放F値が小さい)イメージセンサーには、ピントが合う距離が狭い(被写界深度が浅い)写真となる性質があります。表現したいものによっては明るく撮れることは利点ですが、全体をくっきり写したい場合には、開放F値が小さいことはデメリットともなり得ます。
そこで、レンズに光が入る量をコントロールして、くっきりとした写真も撮れるようにするのが、絞り機構の役割です。カメラ専用機では一般的ですが、スマホのカメラではもともとセンサーサイズが小さいため、可変絞りを採用しているスマホはほとんどなく、Galaxy Note 9など過去のサムスン電子の一部機種が搭載していた例があるのみでした。絞り機構は1画素の取り込める光量が大きいほど意味が出てくるため、1インチセンサー搭載のXperia PRO-Iが対応するのは合理的と言えるでしょう。
背面カメラのレンズはZEISSブランドが付されており、カール・ツァイス社による画質を抑えるレンズコーティングが施されています。さらに広角カメラのレンズには、新開発のガラスモールド非球面レンズを採用し、薄型でも解像感の高い写りを実現しています。
26日の製品体験会では、わずかな時間ではありましたが広角レンズの写りを試すことができました。以下がその撮影画像です。
超広角と望遠カメラは?
Xperia PRO-Iのカメラのうち、超広角カメラと標準カメラについてもざっと触れておきましょう。まず、超広角カメラは、Xperia 1 IIIと同等のレンズ、センサーを搭載しており、16mm相当、1,220万画素でF2.2となっています。
標準(望遠側)カメラ側は50mm相当で、画素数1,220万画素。レンズはF2.4で、Xperia 1 IIIとは異なり可変ズームには対応しません。Xperia 1 IIIの望遠側カメラはペリスコープ型(潜望鏡型)レンズによって高倍率なズームに対応していますが、Xperia PRO-Iでは大きな1インチセンサーを搭載するために望遠側の性能を抑えています。
撮って出し用の映像カメラアプリ「Videography PRO」
Xperia 1シリーズでは、カメラアプリとして「Photography PRO」と「Cinematography PRO」が搭載されていました。前者は一眼カメラαの使用感で静止画・動画を撮れるアプリで、後者は映画製作カメラのVENICEをイメージした動画撮影アプリです。
今回、Xperia PRO-Iでは新たな撮影アプリ「Videography PRO」が加わりました。これは主に映像クリエイターやドキュメンタリー制作者を対象とした、手間をかけずに収録することに特化した動画撮影アプリです。アプリの操作画面はシンプルな設計になっており、画角や被写界深度を撮影中に編集したり、ホワイトバランスなどを手動でコントロールできるようになっています。
Cinematography PROほど手間をかけた編集を行うことなく、がんがん映像を作成していくスタイルの撮影者には必要十分な機能を揃えた構成となっています。
映像関連の機能としては、Xperia PRO-Iは背面カメラ横にモノラルマイクも備えている点も特徴です。Videography PROアプリでは収録する映像にあわせて、ステレオ録音とアナログ録音を切り替えられます。また、高感度な録音時に音量を抑えることが可能です。
背面カメラを自撮りに使えるVlogモニター
Xperia PRO-I専用の周辺機器として、「Vlog Monitor(XQZ-IV01)」も発表されました。これは、背面カメラで高画質な自分撮りをしつつ、その映像を確認するための外付けモニターです。
発表時点ではXperia PRO-Iのみに対応し、使えるアプリも「Photography PRO」と「Videography PRO」の2つに限定されています。例えばYouTubeのようなライブ配信アプリの画面を表示することはできません。
つまり、「Vlog Monitor」は、Vlogの撮影用というかなりニッチな用途に特化したXperia PRO-I専用の周辺機器となっています。その前提で24,200円(直販価格、シューティンググリップは別売)という価格を見ると、やや高価なようにも感じますが、使い勝手を考えた作りこみがなされています。
Vlog Monitorは、スマホ装着用のホルダーを介して、Xperia PRO-Iの裏側にピッタリ収まるようになっています。このアダプターは金属製のしっかりした作りで、Xperiaにケースをつけていても装着できるようになっています。モニターとホルダーの固定はマグネット着脱式で、簡単に取り付けられます。
Xperiaとの接続には、USB Type-Cケーブルを利用します。ケーブルを接続した上で、Vlog Monitor対応のアプリを起動すると、自動的にモニター側にプレビューが表示される仕組みです。
さらに、モニター側に3.5mm 3極マイク端子を備えており、ホルダーの上部にはカメラ用のアクセサリーシューを備えています。つまり、Vlog Monitorを経由してカメラ用のマイクを装着できるようになっているわけです。また、ホルダーの下部には三脚用ネジ穴があり、三脚やジンバルを取り付けられるようになっています。
ソニー製のα用Bluetooth対応シューティンググリップ「GP-VPT2BT」との組み合わせての使用が想定されていて、このグリップをXperia PRO-Iと接続すると、画角切り替えやズームをボタン操作で行えます。
スペックはXperia 1 III準拠
Xperia PRO-Iのスマホとしての性能は、Xperia 1 IIIに準じています。ディスプレイは6.5インチで縦横比21:9の縦長タイプ。チップセットはSnapdragon 888を搭載し、メモリは12GB。ストレージは512GBです。
モバイル通信では国内4キャリアの5Gをサポートしますが、キャリア版Xperia 1 IIIとは異なる点として、ミリ波は非対応となっています。一方で、5Gと4G LTEのDSDV(2回線待受)に対応しています。
防水や防塵、おサイフケータイにも対応。重さはXperia 1 IIよりやや増し、211gとなっています。また、ワイヤレス充電(Qi)は非対応です。カメラ特化のモデルでありながら、スマホとしての実用性もしっかり残しています。
“撮る”を突き詰めたXperia
スマートフォンのカメラは、この数年で劇的に性能が向上してきました。基本的な性能ではどのスマホを選んでも差が少なくなっている中で、スマホメーカー各社はフラッグシップスマホのカメラで新しい試みを打ち出しています。
ソニーの場合、一眼カメラや業務用の映像カメラで不動のブランドを築いてきました。Xperia 1シリーズ以降ではその強みを生かし、「カメラの撮影スタイルをスマホに取り入れる」という方向性で進化を続けてきました。それが撮影アプリのCinematography PRO、Photography PRO、そして今回追加されたVideography PROの役割です。
そしてXperia PRO-Iは、ハードウェアの設計段階から、カメラとしての機能を追求したものとなっています。Xperia 1シリーズがカメラと映像再生の両方を追ったフラッグシップであるのに対して、こちらは“撮る”に特化したモデルと言えるでしょう。
ちなみに、「PRO」と名の付くXperiaはもう1台あります。2021年2月に発売された「Xperia PRO」です。こちらはHDMI入力対応というまた違った特徴を備えています。ソニーの展示担当者の説明によると、このXperia PROと今回のXperia PRO-Iは別のニーズに答えた製品で、Xpperia PROは「カメラの周辺機器としてのXperia」で、 PRO-Iは「カメラとしてのXperia」という位置づけとなっているそうです。
26日の報道公開では時間も限られ、Xperia PRO-Iの真のポテンシャルを見るのは難しい状況でしたが、高速なAF性能やVlog Monitorの存在など、特筆すべき特徴が多い機種であることは間違いありません。Xperia PRO-Iは、スマホカメラの進化のひとつの方向性を示すモデルとなる可能性がありそうです。