アドビの年次クリエイティブカンファレンス「Adobe MAX」では、Creative Cloudアプリの最新アップデートが披露されるのも見どころのひとつ。
2021年も新機能や強化された機能が数多く用意され、その数は数百にもおよぶという。ここでは、そのうちAIと機械学習を駆使した「Adobe Sensei」ベースの機能を中心にお届けする。
クリエイティビティを次のレベルに押し上げるAdobe Sensei機能
手間のかかる作業を肩代わりしてくれるだけでなく、クオリティアップにもつながるAdobe Sensei。PhotoshopやIllustrator、Fresco、Premiere Proなど、さまざまなCreative Cloudアプリで活用が進んでいる。ここでは、今回発表されたAdobe Senseiベースの注目機能をアプリごとに紹介していこう。
▼Adobe Photoshop
Photoshopは少し前のバージョンアップで、写真の中の特定のオブジェクトを手軽に抽出できる「オブジェクト選択ツール」が搭載されたが、今回はその機能強化がはかられている。
それが「オブジェクトファインダー」で、機能を有効にすると画像に含まれるすべてのオブジェクトを個別に認識して、それぞれを手軽に選択できるようになる。オブジェクトごとに色の調整をするような作業も、これまで以上に効率よく行うことが可能だ。
また、ニューラルフィルターが強化されたのも注目ポイント。写真を簡単にモネやゴッホ、葛飾北斎などの有名な画家のタッチに加工できる「スタイルの適用」が正式に搭載された。
新たに追加された「風景ミキサー」というフィルターは、プリセットを選ぶだけで地面から空まで風景の見た目をガラリと変えられる機能。たとえば緑の夏山を一瞬で赤土色の岩肌に変えたり(リード部分の画像参照)、雪が積もる雪山に変えたりすることができる。
このほか、Illustratorのオブジェクトをコピー&ペーストする際に、レイヤー構造を保ったままPhotoshopに持ってくることができるようになるなど、アプリ間の連携も向上している。
▼Adobe Illustrator
Illustratorは2020年のアップデートでiPad版に「リピート」という機能が搭載された。2021年はそこに「ブレンド」が追加されるなど、より一層機能強化されている。
これは、ふたつのオブジェクトを選んで適用するだけで、双方の形や色をブレンドした中間オブジェクトを自動的に生成できる機能。中間オブジェクトをベジェ曲線に沿って並ばせるようなこともできる。
デスクトップ版では3D効果が大幅に強化された。たとえば「押し出し」ではプレビューを見ながら奥行きをスライダーで調節できるように。アドビの3D制作ツール「Adobe Substance」のマテリアルも実装されており、パネルで好みのものを選ぶだけで手軽に3Dオブジェクトの表面にテクスチャを適用できるようにもなっている。なお、従来の3D効果はなくなったわけではなく、「3D(クラシック)」にまとめられており、引き続き利用することが可能だ。
▼Adobe Fresco
ドローイングアプリのFrescoでは、色調補正がPhotoshopのように手軽に行えるようになった。また遠近グリッドが搭載され、3点透視図法で立体的なオブジェクトを描くのも簡単になっている。
新機能としては、アニメーションを設定できるようになったのも大きなトピック。オニオンスキンで描いたものを少しずつ動かしたり、背景に流れ星のような効果をつけたりするのも簡単になった。
▼Adobe Photoshop Lightroom
Lightroomは従来もブラシや線形グラデーション、円形グラデーションなどで画像の一部を選択して補正を行うことができたが、今回から「空を選択」や「被写体を選択」、「カラー範囲」、「輝度範囲」などの機能でマスクを作成して補正できるようになった。
たとえば「空を選択」を選ぶと、Adobe Senseiが瞬時に画像を解析し空のみを選択してくれる。手前に観覧車のような複雑なオブジェクトがある場合でも無問題。観覧車の細かいパーツやガラスなどもきちんと判別してくれる。
同様に被写体も高精度に選択することが可能。髪の毛や透明なカップなども高精度に解析してくれるので、顔だけを明るく調整したり、肌のキメを整えたりということも簡単にできるようになった。
Lightroomには以前から豊富なプリセットが搭載されており、選ぶだけで手軽に写真全体を補正することができたが、今回からそのプリセットに「おすすめ」が追加された。Adobe SenseiがLightroomのコミュニティから写真にあったプリセットを見つけて提案してくれるという便利な機能で、プリセットを作成した人のプロフィールや作品などを手軽に参照することもできる。
▼Adobe Premiere Pro
Premiere Proは、パブリックベータ版ではあるが「リミックス」機能が搭載された。これは動画に合わせてAdobe Senseiが曲をリミックスしてくれるというもの。たとえば動画の尺より長い曲の場合、曲の盛り上がりや、音のつながりなどが自然な感じになるよう編集して短くしてくれる。プロでもなかなか難しい作業をアプリ任せにできるのがとても便利だ。
また編集を重ねて煩雑になったタイムラインを簡素化して把握しやすくできる「シーケンスを簡素化」機能も搭載されている。
このほか、アドビが買収した映像制作コラボレーションサービス「Frame.io」を使ったワークフローも紹介された。
Premiere Proから機能を呼び出して利用することが可能で、これを使うとたとえば編集中の動画をクライアントに見せたい場合に、いったんファイルに書き出さなくても直接Webにアップロードして確認してもらえるようになる。クライアント側はそれをブラウザ上で確認しながらコメントを付けたり、画面に直接手書きでマークや指示を入れたりすることが可能。クライアントのコメントや指示はPremiere Pro内で確認できる。
▼Adobe Character Animator
キャラクターをアニメーション化するツール、Character Animatorには「ボディトラッカー」機能が新しく搭載された。これまでもPCのWebカメラでユーザーの顔を撮影し、その動きをキャラクターに反映することができたが、今回から全身の動きを検出して反映できるようになっている。
Character Animatorのボディトラッカーを使ってキャラクターに全身の動きをつけているところ。特別なカメラがなくてもPCのWebカメラで手軽に実現できるのが便利
▼その他
ほかにも多数のアップデートが用意されている。たとえばAfter Effectsでは、レンダリングが終了したときにユーザーのスマホに通知してくれる機能が搭載された。
UI/UXデザインツールのAdobe XDは、ベクターベースのアニメーションをマルチプラットフォームで再生できる「Lottieアニメーション」がサポートされている。また待望のビデオのインポート機能も実装された。
ここでは、Adobe Senseiベースの機能や注目機能を中心に各アプリのアップデートを紹介してきたが、まだまだ新機能は多数搭載されている。ぜひ、お気に入りの機能を見つけて日頃のクリエイティブワークに役立ててみてほしい。