近年、グルメ番組や情報誌などで取り上げられることが多い「スパイスカレー」。一般的に、「カレールウを使わない」以外の明確な定義はないため、スパイスの組み合わせも具材も作り手によって実にさまざま。どの店を訪ねても、唯一無二のおいしさと出会える楽しさがあります。

なかでも、おすすめのスパイスカレー店はどこか? 毎日カレーを食べ続けること15年目、その生活を綴ったブログ「365カレー(∞)」が人気の南場四呂右さんに教えてもらいました。

Q. さすがのプロのスパイス技を店でじっくり味わう

たくさんの魅力的な店のなかから、今回は入門編としてもオススメできる名店をご紹介します。スパイスカレーはもちろん、店主のこだわりが詰まった付け合わせや盛り付けもお楽しみください。

●スパイシーの概念が広がる! 『 ハブモアカレー』

東京都渋谷区猿楽町2-13 F93 Daikanyama 1F

メニューは「野菜カレーと豆カレーセット」もしくは「チキンカレーと豆カレーセット」のみ。どちらもおすすめです。野菜カレーとチキンカレーはどこか日本の家庭料理の延長のような味わいです。豆カレーは優しさと力強さを両方とも持っているのが魅力だと思います。

いずれも派手なスパイスの主張こそないものの、その存在感を感じる風味が魅力です。「スパイシー」という言葉は「辛い」という意味に取られがちですが、この店のカレーの奥深さ、複雑な味わいは「スパイシー」の概念を広げてくれると思います。

また、カレーとは言い切れませんが、オプションメニューに「インド風ポタージュ」というのがあって、個人的にめっっっっちゃ好きです。スパイスが効いているせいか、白菜の白菜らしさが凝縮されて、なんならほんのり苦味まで愛せる味わいです。

  • チキンカレーと豆カレーセット(ライス大盛、チーズズフライドエッグトッピング)、白菜のインド風ポタージュ

●スパイスの奥行きと幅が感じられる! 『 ウミネコカレー』

東京都渋谷区 幡ヶ谷1-32-16

たまにスペシャルメニューが登場することもありますが、基本的には「チキンカレー」と「ポークカレー」と「ひよこ豆カレー」と「キーマカレー」の4種類です。どれも推せますので、お店まるごと箱推ししたいというのが正直なところ。心を鬼にして、おすすめをひとつ選ぶとしたら、「チキンカレー」でしょうか。

どれかが単体で立ってくるようなスパイス感ではなく、まとまりがあります。調理の工程でいくつかの段階に分けてスパイスを使っているようで、味わえば味わうほどに重層的で奥行きのあるスパイス感です。また、ナッツ類のコクや香ばしい風味もあるので、奥行きのみならず味わいの幅も広いです。そういうことを気にしなくても、ただただおいしく食べられる「カレーライス」であるという点も魅力だと思います。

サラダのドレッシングやスープ(白しょうゆスープと味噌スープの2種類)にもスパイスが使われています。日本の調味料を使ったスープにブラックペッパーが入っていたりして意外に感じられるかもしれませんが、とてもおいしい。ぜひ食べてみていただきたいです。

  • チキンカレー、サラダ、白しょうゆスープ。2種盛りも可能。

●絶妙なスパイスの組み立てを味わう! 『 Japanese Spice Curry wacca』

東京都中央区八丁堀2-19-7 庄司ビル1F

ランチタイムはカレーライス、ディナータイムはカレーも含めたコース料理が食べられます(2021年10月現在はランチタイムのみ営業。営業日等詳細については、お店のTwitterなどをご確認ください)。

夜のコースは月替りだったりするので、ここではランチタイムのカレーライスをご紹介したいと思います。ランチタイムは「出汁カレー」「無水チキン」「ラムウプカレー」「マルチョウデビル」、以上4種のカレーを組み合わせてオーダーする仕組みです。私は「クワトロ」という4種とも食べられるメニューをおすすめしたいです。

もし4種類もいらないということでしたら、「出汁カレー」と何かの組み合わせをぜひお試しください。「出汁カレー」は単なる出汁スープではなく、かといっておかずになるようなカレーでもなく、まさに「出汁カレー」としか言いようのない地味に新しい存在感のカレーです。

他の3種のカレーとも相性がいいので、羊肉や内臓肉が苦手じゃなければ、やはり4種盛りの「クワトロ」がイチ推しです。

『ハブモアカレー』、『ウミネコカレー』も同じことが言えるかもしれませんが、スパイスはあくまで引き立て役で、具材のおいしさを補強するための役割を担っています。スパイスの組み立て方が絶妙で、どうやったらこんな組み立てができるのか興味というか好奇心をかき立てられてしまうのですが、たとえ教えていただけたとしても理解できないような気がします。

新メニューの開発も同時進行しているようで、ある日突然、上記のカレーがバージョンアップされたり、別のメニューに置き換わったりすることがありそうなところもwaccaの特徴といえるかもしれません。

  • 出汁(だし)カレー(鰹節や煮干しや昆布を使った出汁を利かせた大阪生まれタイプのカレー)、無水チキン(鶏肉を繊維状になるまで煮込んで旨みを凝縮させたパキスタン風のカレー)、ラムウプカレー(ラムのカブリを使用した南インドのウプ(塩)とスパイスのシンプルなカレー)、マルチョウデビル(和牛の小腸を使ったスリランカのスパイシーな炒め物)の4種盛り。

本格スパイスカレーを自宅で手軽に!

通販可能なスパイスカレーもあります。これなら自宅にいながらにして、プロの味を贅沢に楽しめちゃいます。

●元祖スパイスカレー!? 『アジャンタ』の「レトルトチキンカレー」

東京都千代田区二番町3-11

アジャンタは1957年創業のインド料理店。「スパイスカレー」なんて今どきの言葉を使ったら笑われそうなくらいの超老舗です。カレーの玉ねぎというと、しっかり炒めて甘味だけが残った「あめ色玉ねぎ」のイメージがありますが、このカレーには玉ねぎそのものの辛味や風味が残っている感じがします。そのせいか、「何これ、日本米に合うぜ!」という感じ。骨付きチキンがごろごろ入っていて、この肉がまたほろほろでおいしいんです。

●スパイスへの飽くなき探求心! 『初台スパイス食堂 和魂印才たんどーる』の「鶏肉の山椒ココナッツカレー」

東京都新宿区西新宿4-41-10 スカイコート西新宿1F

たんどーるは、ゴリゴリのインド料理が作れるのに、さらに和の食材とかも駆使してカレーを作る天才です。このカレーは日本の山椒を使ったチキンカレーですが、ココナッツミルクも使っていて、ちょっとタイっぽさもある。店では雑穀米で出てきますが、玄米でもいいと思いますし、白米でもおいしいです。たんどーるさんは実店舗の営業時間が水~金曜日のランチ、土曜日のディナーと短いので、レトルトで味わえるのは嬉しいです。

  • アジャンタ「レトルトチキンカレー」(向かって右)、初台スパイス食堂 和魂印才たんどーる「鶏肉の山椒ココナッツカレー」(左)

●初心者でもプロの味! スペーススパイス『COOK INDIA』の「スパイスセット」

こちらは、自分でスパイスカレーを作るためのセットです。2種類のスパイスとプロのレシピが入っていて、web上に作り方の動画も用意されています。ローストコリアンダーとかカシューナッツの粉とかマンゴーの粉とか、入手が難しいスパイスが入っているものが多いのも魅力。

作り手の方で用意する材料は比較的入手しやすいものが多く、入手しにくいものは「なければ〇〇」「なければ省略」と配慮されているなど、初心者でも作りやすいように工夫されています。

入門編という意味では、「鶏ひき肉とナンコツのキーマカレースパイスセット」なんていいと思います。キーマカレーは火が入りやすいのと、火が入りすぎても食感が台無しにならないという良さがあります。このレシピも『初台スパイス食堂 和魂印才たんどーる』のものですが、鶏肉のひき肉と軟骨(なければ鶏モモひき肉)を入れるから、鶏っぽい出汁もベースにあって、食感のアクセントまである。つくねを食べながら思いついたレシピらしいです。

  • スペーススパイス『COOK INDIA』のスパイスセット。10種類以上あり、辛さや具材など、好みに合わせて選べます。