「労災」という言葉や「労災保険」という言葉を聞いたことはありますか? これらの言葉は、入社したら研修などで一度は聞く言葉でしょう。

本記事では、万が一勤務中に怪我をしてしまったらどう対応すればよいのか、そもそもその怪我は補償の対象になるのか、どのように申請したらよいのか、金額はいくらもらえるのかなど、労災保険に関する多くの疑問をくわしく解説していきます。

  • 労災保険とは?

    「労災保険」についてご紹介します

労災保険とは?

「労災保険」とは「労働者災害補償保険」の通称で、仕事中や通勤中に業務上の事由によって怪我や病気、死亡した場合に給付が受けられる保険のことです。労災保険で受けられる給付には、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付などがあります。

加入対象者は会社員や公務員など、フルタイムの職員だけでなくパートやアルバイトを含む労働者で、加入手続きと納付は事業主が行うことになっています。

どのようなときに対象になる?

就業中の傷病に適用される「労災保険」は、大きく「業務災害」と「通勤災害」に分けることができます。

■業務災害
「業務災害」とは、業務が原因となって病気や怪我をしたり、障害や死亡したりした場合のことをいいます。所定の労働時間内や残業時間内に職場で仕事をしているときだけでなく、職場外であっても社用や出張などで業務を行っている際の負傷等も、一般的に業務災害に含まれます。

■通勤災害
「通勤災害」とは、通勤により被った怪我、病気、障害、および死亡などの場合のことをいいます。具体的には、通勤災害における「通勤」とは、以下のことを指します。

  • 自宅と就業場所の往復
  • 就業の場所から他の就業場所への移動中
  • 単身赴任先の住宅から帰省先の住居への移動中

対象外の例

「業務災害」では、業務中に起こった労働災害に関しては、基本的に補償されます。しかし「通勤災害」に関しては、途中でどこかに立ち寄り、通勤とは関係の無い行為をした場合は、ルートや行為の内容によって、通勤として認められるかどうかが異なります。

例えば、職場から自宅までの帰宅途中にスーパーに寄って食材の買い物をした後、通常の通勤ルートに戻った場合は通勤と認定されます。しかし、レストランに行って外食をしたり、スポーツジムに行ってトレーニングをしたりしたケースは認められないことがあります。

加入は義務

上記で、「労災保険」は事業者が申請や支払いを行うものとご紹介しました。事業者は、ひとりでも労働者を雇ったら「労災保険」の加入申請を行い、労働者を加入させる義務があります。

事業者は、「労災保険」のほかにも「雇用保険」に労働者を加入させる義務があり、この2つの保険をあわせて「労働保険」と呼んでいます。

  • 労災保険とは?

    就業中の傷病に適用される「労災保険」は、「業務災害」と「通勤災害」に分けることができます

労災保険で補償される範囲は?

「労災保険」での補償内容は、大きく分けて以下の8つがあります。

1.療養(補償)等給付

「療養給付」とは、労災保険指定病院や労災病院、薬局のような指定医療機関などで、治療や薬の支給を無料で受けられる「現物支給」のことです。

2.休業(補償)等給付

「休業(補償)等給付」は、仕事や通勤中の怪我や病気などの原因により、仕事をすることができず、休業した期間の賃金を受けられないときに給付されます。

災害が発生した日以前の3か月分の賃金の合計をその期間の総日数で割って出した金額(給付基礎日額)の60%を、第4日以降分から休業した日数分だけ給付してもらえる制度です。

ただし、業務災害の場合、休業初日から3日間は事業主が労働基準法の規定にもとづく休業補償を行わなければならないことになっています。

3.障害(補償)等給付

「障害(補償)等給付」は、業務または通勤が原因の怪我や病気が治り、身体に一定の障害が残ってしまったときに受け取ることができる給付金のことです。障害の程度により、給付金の内容に違いがあります。

なお、同一の事由によって厚生年金保険の障害厚生年金等が併給される場合には、一定の調整率により支給額が調整されます。

4.遺族(補償)等給付

「遺族(補償)等給付」とは、業務や通勤が原因で従業員が死亡した際に、死亡した労働者の遺族に対して支払われる給付金のことです。

ただし、受給資格者にはいくつかの条件があり、遺族であれば誰でも受け取れるというわけではありません。種類は「遺族(補償)等年金」と「遺族(補償)等一時金」に分けられます。

5.葬祭料等・葬祭給付

「葬祭料等」「葬祭給付」は、労災による事故で亡くなった被災労働者の葬儀を行う際に、葬儀を行う人に対して支給されます。

6.傷病(補償)等年金

「傷病(補償)等年金」とは、業務もしくは通勤が原因の怪我や病気の療養を開始後1年6か月を経過した日、またはその日以降に、以下の該当した場合に給付基礎日額の313日~245日分が支給される年金のことをいいます。傷病の程度に応じて、給付の内容が異なります。

  • その怪我や病気が治っていないこと
  • その怪我または病気による障害の程度が傷病等級表の傷病等級(第1級~第3級)に当てはまること

7.介護(補償)等給付

「介護(補償)等給付」は、障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金を受給している人のうち、障害等級・傷病等級が第1級の人と第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」を持っている人が、実際に介護を受けている場合に支給されます。

8.二次健康診断等給付

「二次健康診断等給付」とは、会社などで行われる定期健康診断などで、脳や心臓疾患に関連する一定の項目(肥満、血圧、血糖、血中脂質)のすべてに異常の所見があるとされたときに補償される制度です。

脳血管や心臓の状態を把握するために行う二次健康診断や、脳・心臓疾患の発症を予防するための特定保健指導を1年度の中で1回、無料で受診できます。

  • 労災保険で補償される範囲は?

    「労災保険」とはどのようなものなのかについてご紹介してきました

労働災害にあったときの申請方法は?

ここでは労働災害にあってしまった際に、どのような手順で申請すればよいのかをくわしく紹介していきます。

補償の種類に応じた請求書をもらう

まずは、所轄の労働基準監督署、もしくは厚生労働省のホームページにて、上記で説明した8つの補償の中から自分が当てはまる種類を確認し、それに応じた所定の請求書をダウンロードしましょう。

請求書の必要事項を記入する

請求書に必要事項を記入します。請求書には、労働災害のくわしい発生状況などを書く必要があります。

また事業主は、災害の発生状況をはじめとした記載内容が正しいことを証明するために、署名欄にサインが必要です。申請者はこの事業主のサインが得られなければ、記載内容の不備にあたり、申請できないので注意しましょう。

ちなみに上記の証明とは、発生した労災が「労働災害」や「通勤災害」に該当するということの証明ではなく、災害の発生状況についての記載内容が事実と合っているかの証明です。

療養補償の申請のように、補償の種類によっては、療養した医療機関に出向き、傷病名や傷病の経過などを記載してもらう必要があります。

労働基準監督署に請求書と添付書類を提出する

請求書の記載が完了したら、補償の種類ごとに必要となる書類を添付して提出します。

提出先は、労働基準監督署です。提出後は、労働基準監督署がその請求書の内容にもとづいて調査を行った上で、その事案が「労働災害」に該当するのか、それとも「通勤災害」に該当するのかを判断し、給付内容が決定します。

労災では、基本的に治療費の自己負担は必要ありません。しかし、労災保険指定医療機関でない医療機関で治療を受ける場合や、健康保険を使って医療機関にかかる場合など、一旦自費で立て替えが必要になる場合もあります。

申請されてから、実際に給付を受けるまでには時間がかかるため、労災で医療機関への通院が必要となる場合は、注意が必要です。

  • 労働災害にあったらどう申請する?

    「労災保険」の申請手順をしっかり確認しておきましょう

労災保険で支給される金額はどのくらい?

「労災保険」の休業(補償)等給付額は、自分で計算して知ることができます。支給額は、給付基礎日額と休業日数が基準となっており、休業1日につき給付基礎日額の80%(80%のうち、休業(補償)給付が60%、休業特別支給金が20%)が支給されます。

所定労働時間の一部で労働をした場合には、「その日の給付基礎日額」から「実際に働いた時間に対して支払われる賃金」を差し引いた額の80%(60%+20%)が支給されることになっています。

例えば、毎月30万円のお給料を受け取っていたとして、賃金締め切り日が毎月最終日となっており、事故が10月に発生したとします。その場合、30万円×3か月÷92日(7月: 31日、8月: 31日、9月: 30日)≒9,782円60銭、つまり「労災保険」支給額は1日9,783円(1円未満切り上げ)となります。

  • 「労災保険」の支給額はどのくらい?

    「労災保険」の休業(補償)等給付額は簡単に算出できます

申請前に怪我が労災保険の対象になるか確認しておきましょう

労働者を1人でも雇ったら事業者の義務となる、労働者の「労災保険」への加入。怪我や病気で「労災保険」の給付に該当するのは、業務上で起こる「業務災害」と通勤中に起こる「通勤災害」です。

「通勤災害」に関しては、通勤経路を外れて寄り道をして怪我をしたり事故に遭ったりした場合は、保険の適応対象外になることもあります。申請する際は、起こった事故が労災保険の対象になるかどうか、事前に確認しておきましょう。