「フェザー級戦線」異状あり─。RIZIN横浜みなとみらい大会でアップセット(番狂わせ)が生じた。昨年11月、大阪で朝倉未来を破り王者となった斎藤裕が、RIZIN初参戦の牛久絢太郎にTKOで敗れたのである。
朝倉兄弟、那須川天心、堀口恭司らスターファイター不在の『RIZIN.31』で何が起こっていたのか? そして、大晦日の朝倉未来の対戦相手は果たして誰に? 混沌としてきたRIZINフェザー級戦線の今後を占う。
■狙っていた跳び膝蹴り
第2ラウンド4分過ぎ、レフェリーが一旦試合をストップ。コーナーで縺れ合っていた両者を引き離すと斎藤裕(パラエストラ小岩)の顔に鮮血が見られた。ニュートラルコーナーでドクターが右眼上の傷口をチェックする。その直後、試合終了のゴングが打ち鳴らされた。
喜びを爆発させる牛久絢太郎(K-Clann)。
「まだやれる」
険しい表情でそう口にした斎藤は、自軍のコーナー近くでロープ上に顔を置きうなだれた。
10月24日、神奈川・ぴあアリーナMM『RIZIN.31』メインエベント、RIZINフェザー級タイトルマッチはまさかの結末─。2ラウンド4分26秒TKO(ドクターストップ)で王者・斎藤がRIZIN初参戦の牛久に敗れたのだ。初防衛に失敗。まさかの王者交代劇に場内は騒然となった。
試合は、斎藤のペースで進んでいた。
1ラウンドからメリハリのある攻撃を見せる。要所で前に出てパワフルなパンチを連打、牛久に攻め入る隙を与えない。2ラウンドが残り1分となった時点で、観客のほとんどは「斎藤の判定勝ち」を予測したことだろう。しかし、4分過ぎに牛久が繰り出した左跳び膝蹴りが王者の顔面にクリーンヒット。この一撃で逆転、勝負が決まった。
感極まった牛久はリング上でマイクを手に叫ぶようにして言った。
「(この試合が決まった時に)勝つのは無理だよ、という声が多かったです。でも、自分を信じて毎日頑張っていれば、いいこともある! 一生懸命頑張っているのに上手くいかない人もいると思う。今日の僕の試合を観て勇気を持ってもらえたら嬉しい」
さて、勝負を決めた跳び膝蹴りは偶然当たったのだろうか? それとも狙っていたのか?
「狙っていました」
試合後にインタビュースペースで牛久は、ハッキリとそう口にした。
「スタミナには自信があります。だから1ラウンドは様子を見て、2、3ラウンドに勝負をかける作戦でした。1ラウンド目に膝蹴りのタイミングをはかって、2ラウンドが始まる前に、ここで狙おうと考えました」
これを斎藤も察知していた。
右眼上を7針ほど縫った後、メディアのインタビューに応じた彼は、こう言った。
「1ラウンド目から、膝蹴りを狙っているのは動きからわかりました。警戒もしていたし反応もできていた。なのに、なぜ喰らってしまったかは映像を見直してみないと」
試合前、斎藤は朝倉未来から挑発された。
「華がない。世間の注目を集めることができない。チャンピオン失格だ」と。
それでも彼の軸がぶれることはなかった。メインを任された大会で、しっかりと勝ち切ろうとする。
「勝たないと明日はない」と自分のスタイルを貫いた。しかし敗れた。心の整理がつかない、それでも何とか前を向く。
「ケガを治し、できるだけ早くリマッチをして自分の中で止まった時間を進めたい」
■「牛久vs.朝倉」はあるのか?
さて、このアップセットによりRIZINのフェザー級戦線は混沌としてきた。
ここで王者が怪我なく勝ち上がっていれば、大晦日は「斎藤裕vs.朝倉未来」のタイトルマッチが既定路線だったであろう。朝倉は、それを望んでいた。
しかし、状況は一変。
朝倉は、大晦日に誰と闘うことになるのか?
試合直後に彼はツイッターで、こうつぶやいている。
「あー。俺は誰でもいいから大晦日、求められる相手とやるよ」
そして、こう付け加えた。
「なんだかんだでクレベル選手が頭抜けてるよ。今日の2人より強いと思う」
斎藤に「リベンジしたい」と燃えていた朝倉は、この結果にガッカリしたことだろう。
RIZINフェザー級王座は牛久へと移った。ならば、大晦日の大舞台で新チャンピオンの牛久と対戦するのか?
大会後にRIZIN榊原信行CEOは、こうコメントした。
「(大晦日に関しては)白紙に戻して、これから考えていかないといけない。今日は予定調和にはならない素晴らしい大会でした。(そのままスライドする形で)牛久vs.朝倉未来に一足跳びに持っていく感じではないです。ファンの声にも耳を傾けて、ひと捻り、ふた捻りして最高のものにしていきたい」
大晦日、朝倉と牛久の対峙なら私は興味深いと思う。
朝倉が勝ち腰にベルトを巻けば来年、斎藤、クレベルとのリベンジマッチがタイトルマッチとして実現するだろう。逆に牛久が王座防衛を果たしたなら、斎藤との再戦がクローズアップされる。
だが、相手が牛久でないならば、クレベル・コイケ(ボンサイ柔術)、あるいは、海外選手と朝倉が闘うこともあり得るのか。
この日の大会で、元SRC〈戦極〉フェザー級王者の金原正徳(リバーサルジム立川ALPHA)が復活、白川陸斗(トライフォース赤坂)もRIZIN3連勝を飾った。今月2日に朝倉に敗れた萩原京平(SMOKER GYM)の再起戦も11・28神戸『RIZIN TRIGGER』(対戦相手は昇侍)と決まっている。話題に事欠かぬ平本蓮(THE PAN DEMONIUM)も米国でパワーアップ中だ。
群雄割拠、大いに盛り上がるRIZINフェザー級戦線。
来年には海外から強豪も招いて『フェザー級グランプリトーナメント』が開催される模様。もはやここでは何が起こっても不思議ではない、面白くなりそうだ。
文/近藤隆夫