実際に誰かが体験した“怖い話”をリアルに映像化したオムニバスドラマ『ほんとにあった怖い話』(フジテレビ系)。恐怖に慄くホラー作品としての面白さはもちろん、稲垣吾郎と小学生を中心に構成された「ほん怖クラブ」がナビゲーターとして登場し、そこで繰り広げられる子供たちの生き生きとしたリアクションが微笑ましい人気シリーズだ。
99年にスタートして22年目となる今回の『ほんとにあった怖い話 2021特別編』(23日21:00~)は、「凶音の誘い」(橋本環奈主演)、「事故物件A」(山崎育三郎)、「或る学校の七不思議」(与田祐希)、「だるまさんが転んだ?」(3時のヒロイン・ゆめっち)の4編で構成。中でも、恐怖の中におかしさが同居する「事故物件A」に注目したい。
■“恐怖の導入部”が怖ろしくもおかしい
急な転勤によって、とある安価なマンションに引っ越してきた主人公のサラリーマン(山崎)が、次々と怪奇現象に襲われるのだが、そこは物件案内に「心理的瑕疵(しんりてきかし)」と書かれた“事故物件”だったという物語。
タイトルにもなっている“事故物件”は、昨年それを題材にした映画が公開されるなど定番のモチーフだが、今作は深く考えることなく事故物件へ引っ越してしまったがために、じわじわと日常が脅かされてしまうという悲劇を描いている。
ホラー作品と言えば、“なぜあえて1人になるのか?”、“なぜ自ら危険をおかすのか?”など、ついついツッコんでしまう描写が定番だが、今作はそのツッコミ部分が実にさりげなく絶妙で“おかしい”。まず、約20分強という短い時間の中で繰り広げられるドラマのため、どうやって視聴者を引き付けるのかという“恐怖の導入部”が怖ろしくもおかしいのだ。
物語は、新しいマンションへ引っ越してきた主人公の荷解きから始まる。“なぜそんなところに?”、“なぜそれを置くのか?”という、何気ないけど少しだけ違和感を覚える描写を見せたと思ったら次の瞬間、それが実は“恐怖の序章”だったと分かる。その部分は本当に何気ない描写なのだが、小さなツッコミに対して、ちゃんとこのドラマは応えてくれたようで、その気の利いた導入部に心がつかまれてしまった。
“おかしさ”というのは、主人公のお仕事描写。安価なマンションに引っ越してきた理由は急な転勤にあり、その主人公の職業について、リモート会議や、具体的な小道具などを用いて詳細に描こうとしているのだが、それがどんな仕事なのか全く見えてこない。主人公の職業がこのドラマに大きく関係する要素ではないのだが、あの小道具は一体何の職業を表しているのか…あのリモート会議は誰が参加しているのか…と考えだすと実に奇妙で、その分からなさ具合が絶妙すぎておかしく思えてくる。
そして、そんな細かい部分の分からなさが全体を覆い、本筋の恐怖描写がさらに恐ろしく感じられるという相乗効果を生んでいるのだ。
■息詰まる恐怖を表している姿が新鮮
次に肝心の“恐怖”の部分。今作は、従来のホラー作品にあるような“何かが来る”という予感を視聴者に与え続け、それが頂点に達したとき、最大の恐怖が露わになるという表現ではなく、何気ないシーンの中に強烈な違和感を挿入させ、視聴者に「何これ?」と一瞬考える隙を与えた後、それが何か気付き、とんでもない恐怖を感じさせるという作りになっている。
そしてそれらの「何これ?」について、具体的な種明かしをしないことで、視聴者に想像する余地を残し、答えが見えない恐怖へとさらに陥ってしまうため、「あー怖かった!」と一蹴できない。見終わった後に恐ろしさを感じているにもかかわらず「あの謎は一体何だろう?」と、つい確かめたくなる深みも持ち合わせているのだ。
今作の主人公を演じた山崎育三郎の好演も見逃せない。「心理的瑕疵」と事前に書かれた物件で、明らかに相場から安すぎるであろうマンションに引っ越してくるのだから、普通であれば視聴者に自業自得じゃないかと、なかなか共感できない主人公になってしまう。だが、これまで見たことのないような、山崎の疲れた表情とテンションをかなり抑えた演技によって、ホラードラマに大切な、“鈍感”で“見守りたくなる”主人公に仕上がっている。
特に恐怖に対するリアクションが秀逸で、明らかにおかしい状況、かつ恐怖体験であるにもかかわらず、大げさな絶叫などはせず、じっくり丁寧に、息詰まる恐怖を表している姿が新鮮。そのリアクションが余計にリアリティを生み、誰の日常にも潜んでいるような恐怖を感じさせている。
一方、そのリアリティとは対極の、絶対怪しく、外連味たっぷりの謎の女性を演じる山村紅葉も見逃せない。山崎と対照的なオーラを放っており、そのコントラストが面白い。そして彼女は主人公を救う存在なのか否か、その結末の不気味さも含めて味わい深いキャスティングになっているので、その部分にも注目だ。
■橋本環奈、与田祐希、3時のヒロイン出演作も必見
もちろん、他の3編いずれもバラエティに富んだ“恐怖”ばかり。橋本環奈主演の「凶音の誘い」は、「なぜ?」「何?」の連続で、その疑問がたまりにたまった大ラスは絶叫必至。これまでのポジティブなキャラクターとは趣きが異なる橋本環奈の恐怖演技にも注目してほしい。
与田祐希主演の「或る学校の七不思議」は、“コックリさん”というおなじみのホラーテーマから始まるノスタルジックな雰囲気なのだが、七不思議の七つ目を知るころには、後戻りできない最大恐怖が待ち受けるという、最後まで油断できない作品。
3時のヒロイン・ゆめっちの実体験をドラマ化する「だるまさんが転んだ?」は、一見ホラーとは無縁でのんきなタイトルで、3時のヒロイン本人が出演という部分に侮るなかれ、タイトルの真の意味に最大の恐怖が隠されており、3時のヒロインが自然体に演じることで、よりリアルな、生々しい恐怖が味わえる作品となっている。どの作品も必見だ。