テレビドラマ『ウルトラマン』の脚本・監督や、『金曜日の妻たちへ』のプロデューサーなどで知られる飯島敏宏さんが、2021年10月17日に横浜市の病院で亡くなったことが発表された。89歳だった。特撮ファンにとって、飯島さんは『ウルトラQ』第1話「ゴメスを倒せ!」で脚本(千束北男名義)を手がけたほか「地底超特急西へ」「2020年の挑戦」など4本の傑作エピソードを演出し、続く『ウルトラマン』では製作第1~3話をはじめとする7本を務め、ウルトラマンや科学特捜隊の細かなキャラクター設定を一から考え出した功労者のひとりとして記憶されている。

  • 飯島敏宏さん(左)と宇宙忍者バルタン星人(右)。2019年11月16日にTOHOシネマズ上野で開催された「ULTRAMAN ARCHIVES『侵略者を撃て』トーク&上映会」にて

飯島さんは1932年、東京生まれ。1957年にTBSへ入社し、ディレクターとして『東芝日曜劇場』(1960年)『月曜日の男』(1960年)などのテレビドラマを演出。1963年には新設された映画制作部に移り、『柔道一代』(1962年開始)『青年同心隊』(1964年/国際放映)の監督を務める。

やがて、映画部の同僚だった円谷一監督(円谷プロ創設者・円谷英二氏の長男)からの誘いで円谷プロとTBSが製作を手がける空想特撮シリーズ『ウルトラQ』(1966年放送)に参加。「千束北男」のペンネームで第1話「ゴメスを倒せ!」(監督:円谷一)と第26話「燃えろ栄光」の脚本を手がけ、第7話「SOS富士山」、第10話「地底超特急西へ」、第18話「虹の卵」、第19話「2020年の挑戦」を監督している。

もともと時代劇や探偵アクションといった娯楽指向の作品を得意としていた飯島さんは、その手腕を「特撮映画」のフィールドでも存分に発揮する。「ゴメスを倒せ!」のシナリオには、「シトロネラ酸(アシッド)」や「デスモスチルスの上顎骨」といった専門用語が並び、古代生物への造詣が深いジロー少年が登場。

そして「地底超特急西へ」や「虹の卵」では、大人顔負けのバイタリティで困難を乗り越えようとする少年少女がドラマの肝となるストーリーが展開する。これについて飯島さんは「怪獣もの、SFものと言われる作品のシナリオを書くときは、自分の中にある“少年の心”が目覚めてくるというか、少年の気持ちになって書かないと……」とインタビュー記事(KKベストセラーズ『語れ!ウルトラ怪獣』2014年)で語っている。

飯島さんは作品の中の少年たちに自身の子ども時代を投影し、いかなる局面に立っても自由にのびのび行動させる元気さを与えた。それは『ウルトラマン』(1966年)のホシノ少年や『怪奇大作戦』(1968年)の次郎少年、劇場映画『怪獣大奮戦ダイゴロウ対ゴリアス』(1973年)『ウルトラマンコスモス THE FIRST CONTACT』(2001年)といった後の作品群にも連綿と受け継がれる、飯島作品の基本姿勢だといえる。

製作当時(1965年)から「55年後」=2020年という未来の時間を持つケムール人が地球に現れ、奇怪な方法で人間を次々に連れ去る恐怖を描いた「2020年の挑戦」では、科学文明が進んだ宇宙人の侵略ストーリーに「われわれ人類の文明がこのまま高度に進んでいったらどうなるか」という一種の文明批判、風刺が盛り込まれ、『ウルトラQ』の中でもひときわファンからの人気が高いエピソードである。飯島監督はこのことについても「子どもが観る番組だからといってただ面白おかしいだけではなく、内容のレベルが高く、作り手が一生懸命取り組むことのできる作品にしたかった」と、常にクオリティの高いドラマを作り上げるために努力していたと語った。

ケムール人は地球を侵略するためにやってきた宇宙人でありつつ、行き過ぎた文明の進歩の末に変貌した「人類」の未来の姿でもあるという。子どもも大人も肩の力を抜いて観られる娯楽作品を作りながらも、その中に社会的テーマや風刺精神をしっかりと盛り込む飯島さんの作劇手法は、『ウルトラQ』および後のウルトラマンシリーズを、半世紀以上にわたって語り継がせる良質のエンターテインメントとして輝かせている。

『ウルトラQ』に続く特撮怪獣路線の第2弾『ウルトラマン』で飯島さんは、初期3作のエピソードを監督することが決まった。そのとき飯島さんは『ウルトラQ』での最終担当作「地底超特急西へ」の仕上げにかかっている最中だったという。飯島さんが『ウルトラマン』の撮影に入った時点でも、まだメインライター(円谷プロ文芸企画室長)金城哲夫氏の手による第1話「ウルトラ作戦第一号」(関沢新一氏と共作)の脚本が上がっておらず、科学特捜隊のハヤタ隊員とM78星雲の宇宙人=ウルトラマンがどうやって出会ったのか、なぜハヤタがウルトラマンに変身できるのかなどは詳しく知らされていなかった。そんな中で飯島さんは、宇宙から飛来したバルタン星人の地球侵攻を描いた「侵略者を撃て」(第2話)、電気を吸うと姿を現す透明怪獣ネロンガの猛威を打ち出した正統派怪獣もの「科特隊出撃せよ」(第3話)、人間を襲う巨大な植物グリーンモンスが暴れる怪奇編「ミロガンダの秘密」(第5話)と、実にバラエティ豊かな3作を作り上げている。

飯島さんが脚本も手がけた「侵略者を撃て」では、ウルトラマンの代名詞といえる必殺技「スペシウム光線」のネーミングや、腕を十字にクロスして光線を放つ有名なポーズ、さらには「シュワッ!」というウルトラマンの特徴的なかけ声など、いくつかの「決まりごと」を撮影現場で考案した。後に雑誌記事などで細かな設定が作られていくウルトラマンだが、何もないところであのスペシウム光線を発案した飯島さんの卓越したセンスには舌を巻くしかない。

分身術を使ってイデ隊員を翻弄し、大きなハサミから発する怪光線で人間の動きを止めるなどさまざまな超能力を用いるバルタン星人は、地球人から見ると「恐ろしい侵略者」なのだが、実は彼らには「母星が核爆弾で消滅し、宇宙の放浪者になった」という悲劇的な背景があった。ヨーロッパの火薬庫と呼ばれたバルカン半島からバルタンの名前を思いついたと話す飯島さんは、ケムール人と同じく「間違った方向に進んだ科学文明の末路」といったテーマをバルタン星人に背負わせ、「人類の反面教師」と設定。それでいて、まるで忍者のように神出鬼没、不敵な笑い声でイデ隊員を驚かすユニークなキャラクター演出を行った結果、バルタン星人は『ウルトラマン』全話を通じても1、2を争う人気を獲得した。

バルタン星人はウルトラマンの活躍によって宇宙船ごと爆破されたが、その高い人気を受けて第16話「科特隊宇宙へ」で再登場を果たした。生き残ったバルタンはR惑星にたどりついたのだが、ウルトラマンと科学特捜隊に復讐するべく、緻密な作戦を仕掛けてきたのだ。ここでも脚本・監督を務めた飯島さんは、バルタンの「宇宙忍者」という設定を存分にふくらませ、おなじみの分身術に加えて、ハサミから発する「重力嵐」、そして苦手なウルトラマンのスペシウム光線を胸の反射板ではねかえす「スペルゲン反射光」などの秘密兵器を駆使。科学特捜隊も、イデ隊員が発明した「マルス133(スペシウム光線と同じ威力を持つ熱線銃)」や、ジェットビートルを宇宙に向かわせるための「ハイドロジェネート・サブロケット」といった新装備で対抗。戦いの舞台も地球上と宇宙(R惑星)の二段構えとなる豪華編だった。

飯島さんは、後年のインタビュー記事(マガジンハウス『大人のウルトラマン大図鑑』2013年)で『ウルトラマン』の時代を懐かしそうに振り返りながらも、かつてテレビで『ウルトラQ』や『ウルトラマン』を観ていた「あのころの子どもたち」に、自分たちがウルトラマンやバルタン星人に託した“メッセージ”がしっかりと伝わっていたかどうか……と少し苦い顔をしながらつぶやかれたことがあった。50年以上もの歳月が過ぎてなお、世界各地で争いが絶えない現代社会を憂いながら、戦争や環境破壊の果てに母星を失ったバルタン星人の悲劇をもう一度思い出してほしいと願っていたようだった。そして、もしも次に特撮・SFジャンルの映画を作るときは、自身が少年時代に触れていたような「明るい未来社会」を取り戻すような物語を描いてみたいと目を輝かせた。

飯島さんが「ウルトラマンシリーズ」で遺した数々のエピソードには、社会を見据える鋭い視線や卓越したイマジネーション、そして軽妙なるユーモアと魂に訴える人情味など、さまざまな魅力が詰まっている。それは世代を超えて多くの人々の心をつかみ、これからも永遠に愛され、語り継がれていくことだろう。飯島敏宏さんのご冥福を、心からお祈りいたします。

参考文献
「バルタンの星のもとに」飯島敏宏+池田憲章+河崎実(風塵社)
「ウルトラマン ジャイアント作戦 ノベライズ版」千束北男(講談社)
「飯島敏宏『ウルトラマン』から『金曜日の妻たちへ』」白石雅彦(双葉社)
「Pen+ 円谷プロの魅力を探る。ウルトラマン大研究!」(阪急コミュニケーションズ)
「大人のウルトラマン大図鑑」(マガジンハウス)
「語れ!ウルトラ怪獣」(KKベストセラーズ)
「バルタン星人を知っていますか? テレビの青春、駆け出し日記」飯島敏宏+千束北男(小学館)

  • 「バルタンの星のもとに」書影(著者私物)。1997年刊行。飯島監督と実相寺昭雄監督の対談や、1993年に書かれた未製作映画『ウルトラマン・バルタン星人大逆襲 ~ウルトラマン・ジュニア誕生~』の脚本(全文掲載)など盛りだくさんな内容

  • 「ウルトラマン ジャイアント作戦 ノベライズ版」書影(著者私物)。1966年に映画化する予定で書かれた脚本を、2005年に飯島監督(千束北男)自身の手で長編小説化。オリジナルキャラクターのナポレオン、地底怪獣モルゴ、鋼鉄巨人Gも新たなデザインが描きおこされた

  • 「バルタン星人を知っていますか? テレビの青春、駆け出し日記」2017年刊行。飯島監督による、テレビ黎明期の制作現場のようすや『ウルトラQ』『ウルトラマン』の舞台裏などが克明に記された自伝クロニクル

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