鉄道博物館は2021年秋の企画展として、10月9日から「山手線展 ~やまのてせんが丸くなるまで~」を開催している。昨年3月に高輪ゲートウェイ駅が開業し、注目を集めた山手線について、開業から現在の環状線として都内の交通を担うようになるまでの歩みを特集している。
「山手線展」では、埼玉県教育委員会との連携により、埼玉県立新座総合技術高等学校の生徒が参画し、展示やロゴマーク、パンフレットなど作り上げた。企画展開始前日の10月8日、報道関係者向けの内覧会が実施され、高校生が制作した箇所で生徒らによる解説も行われた。
■山手線が丸くなるまでの歴史や豆知識を展示
「山手線展」が開催されている本館2階のスペシャルギャラリーでは、最初に「山手線トリビア」として、山手線の豆知識をはじめ、かつて駅の柱に取り付けられたホーロー看板の駅名標を展示している。ホーロー看板の駅名標は国鉄時代に多く用いられ、実際に見た人も多いかもしれない。
「山手線トリビア」の一例として、「やまのてせん」「やまてせん」どちらが正しいかについても紹介されている。結論から言えば「やまのてせん」が正しいのだが、ではなぜ誤った表記で広まったのだろうか。その他にも、品川区にない品川駅・目黒区にない目黒駅や、山手線に1カ所だけ残っている踏切など、鉄道ファンならおなじみの小ネタを掘り下げて紹介している。実際の展示で確かめてみてほしい。
「山手線トリビア」のコーナーから次に進むと、山手線の誕生から現代に至るまでの歴史が紹介されている。「山手線誕生」「山手線の環状化」「副都心の形成」「山手線の今」に分かれ、章ごとに歴代車両が背景として描かれた。
内覧会当日の解説をもとに少しだけ紹介すると、山手線で最初に開業した区間は品川~新宿~赤羽間で、1885(明治18)年のことだった。当時は新橋駅から西へ向かう官設鉄道(現在の東海道本線)と、上野駅から北へ向かう日本鉄道(現在の東北本線・高崎線)を結ぶバイパス路線として建設され、貨物輸送も行われた。その後、現在の常磐線から貨物輸送を行うため、池袋~田端間にも線路が敷かれたことで、いまの山手線に近い形になった。
1914(大正3)年の東京駅開業に続き、1925(大正14)年に東京駅から上野駅まで開通したことで、現在と同じような環状運転が実現。すでに明治末期から電車が走り始めており、山手線の電化が進むことで、旅客列車は機関車から電車へ移行していった。環状化にともない、山手線は都市内の交通として活用されていくことになる。
戦後は副都心の形成が進められる。山手線そのものと、山手線の内周部に向かう都電、山手線の駅から郊外に向かう私鉄各線の乗入れによって副都心が形成され、さらに利用者が増えていった。その結果、山手線だけでは輸送力が足りなくなり、山手線と並行する貨物線を旅客輸送に転用。埼京線や湘南新宿ラインなど、貨物線から転用された路線に関する展示も行われている。
そして時代は現代へ。現行車両のE235系では、車内設備の向上と情報通信の強化が図られた。高輪ゲートウェイ駅は新しい駅の形として、省力化と環境への対応が考慮された駅となっている。これらを踏まえ、現在の山手線の様子や、利用者に選ばれる路線をめざす取組みを写真とともに紹介。ギャラリーの最後に歴代車両のパネル展示もある。
当時の資料や写真を交えた解説とともに展示されており、見応えのある内容だった。貴重な資料と合わせて解説を読むことで、ますます理解が深まると思う。訪れた際はぜひとも注目してほしい。
山手線の歴代車両を紹介するコーナーの前に小部屋が設けられ、高校生が制作した、山手線の特徴をプロジェクターで投影したムービーを見ることができる。ワープ演出を用いてワクワク感を演出しつつ、歴代車両や路線の高低差などがイラストで投影される。壁の一部が電車の側面の形に浮き出ており、その輪郭に沿って車両が投影されるのも面白い。これらの背景やイラストはすべて高校生の制作によるもの。歴代車両の時代に合わせ、背景色や人物の服装も移り変わっているところも注目だ。
■高校生が制作したイベントやロゴ・イラストも
「山手線展」の開催期間中、館内では高校生が考案・制作したイベントが2期に分けて実施される。10月13日から11月29日まで、第1期として「山手線デジタルクイズスタンプラリー」を開催。館内の至るところにQRコードを掲示したパネルが置かれ、手持ちのスマートフォン等で読み取り、クイズに解答して答え合わせも行う。
QRコードは本館2階スペシャルギャラリー前を含め、館内の7カ所に置かれている。正解すると画面上の台紙にスタンプが押され、7つすべてのスタンプを集めると、トレインレストラン日本食堂で「抹茶づくしの山手パフェ」の注文時にソフトドリンクの特典を受けられる。
12月1日から1月31日まで、第2期としてシナリオゲーム「課外学習 in てっぱく ~山手線について詳しくなった件~」も実施予定。QRコードを読み取ることで、主人公の高校生が山手線の歴史について調べていくストーリー(全6話)を読める。キャラクターに動きを付け、実物を参考に描かれた背景とともに楽しく展開されるストーリーは、館内を巡りながら楽しみたい。スタート地点は本館2階スペシャルギャラリー前となっている。
QRコードによるイベント制作の他にも、共通ロゴや図録内の挿絵、高校生向けのパンフレット制作も新座総合技術高等学校の生徒が担当した。共通ロゴはシンプルながら、鉄道と高校生のコラボレーションがひと目でわかるデザイン。12月1~20日には、本館1階・車両ステーションの蒸気機関車C57形にヘッドマークとして掲出される予定だ。
高校生向けパンフレットは招待状をイメージしている。閉じた状態では3つの穴が開いており、ページを開くと、タイポグラフィーを用いて描かれたE235系が見られるようになっている。図録の挿絵は絵によって担当生徒が異なり、デジタルと手描きの両方で制作。1人1人異なる作画テイストで、図録に遊び心が生まれた。
制作した生徒らによれば、いずれも「山手線について知ってもらう」「中高生にも楽しんでもらいたい」ということを念頭に置き、制作に励んでいたという。1からウェブ制作に取り組むことでの葛藤や、受験勉強との両立、提供資料を読んでわかりやすくアウトプットすることなど、苦労も多かった様子。その分、制作を進めるうちに山手線への理解が深まり、完成したときの達成感、プロの現場で仕事に参加できたことへの満足感も大きかったようだった。
■「山手線展」にちなんだコラボメニューも高校生が考案
「山手線展」の開催期間中、本館2階のトレインレストラン日本食堂、南館4階のビューレストラン、本館1階のキッズカフェにて、高校生が考案したコラボメニューを販売している。
トレインレストラン日本食堂では、「緑のパスタ てっぱくオリジナルジェノベーゼ」「抹茶づくしの山手パフェ」を販売。ジェノベーゼは、山手線カラーのソースに「千住ネギ」「しんとり菜」などの東京野菜を組み合わせた。色鮮やかで食感も豊か。価格は1,200円(税込)。パフェはアイスやわらび餅、ロールケーキなどに山手線カラーを取り入れ、名前の通り抹茶づくしのスイーツになっている。考案した生徒もパフェ好きとのことで、「インスタ映え」を意識して考案した様子だった。価格は800円(税込)。
ビューレストランでは、「山手茶そばつけ麺」「巣鴨サラダ」を販売。つけ麺は男子高校生の胃袋も満足させるつけ麺に、山手線カラーをイメージして茶そばを組み合わせた。そばにほんのりお茶の風味が香りつつも、東京野菜の「千住ネギ」を使用した濃厚なしょうゆだれが食欲をそそる。価格は950円(税込)。「巣鴨サラダ」は、巣鴨駅にちなんで合鴨スモークを乗せたミモザ風サラダ。考案した生徒によれば、レストランメニューに野菜が少ないことと、実習でミモザサラダを作った経験を生かし、考案したとのことだった。価格は400円(税込)。
キッズカフェでは、「やまのてっぱくパクドーナッツ」を販売。山手線カラーの緑色のドーナッツに、チョコレートで線路を表現。山手線と鉄道博物館とのコラボも意識している。3色セットで販売され、価格は280円(税込)。
内覧会では、報道関係者向けに試食の時間も設けられた。筆者は5種類の中から「抹茶づくしの山手パフェ」を試食。見た目通り抹茶づくしの味わいで、甘さひかえめながら、わらび餅、ロールケーキ、コーンフレークなどさまざまな食感が一度に楽しめるデザートになっていた。下の層には小豆が入っていて、食べ進めた最後に甘味が強くなる。ドリンクも飲みながら楽しんでほしい。
鉄道博物館「山手線展 ~やまのてせんが丸くなるまで~」は2022年1月31日まで開催。追加料金はなく、鉄道博物館の入館料のみで見学できる(レストラン・カフェでの食事は別料金)。11月3日と1月9・10日の13時から、担当学芸員による解説イベントも実施。11月以降、鉄道博物館のFacebookページとInstagram公式アカウントにて「山手線展」の見どころと解説が順次更新される。