映画『護られなかった者たちへ』(10月1日公開)の第26回釜山国際映画祭ティーチインが14日に韓国で行われ、瀬々敬久監督がオンラインで登場した。

  • 瀬々敬久監督

    瀬々敬久監督

同作は中山七里の同名小説の映画化作。全身を縛られたまま“餓死”させられるという、異様な手口の連続殺人事件が発生。捜査線上に浮かび上がったのは、過去に起こした事件で服役し、出所したばかりの利根(佐藤健)という男。刑事の笘篠(阿部寛)は利根を追い詰めるが、決定的な証拠がつかめないまま第三の事件が起きようとしていた。

同作は第26回釜山国際映画祭「A Window on Asian Cinema部門」にて上映され、上映後に瀬々監督がオンラインで参加。「僕自身若い頃から韓国映画をよく観ていて、影響も受けています。釜山国際映画祭は大好きな映画祭ですし、『菊とギロチン』ではAPM(アジアン・プロジェクト・マーケット。資金調達が完了していない長編フィクション映画をアジアから選出し、釜山国際映画祭の開催期間中に賞金授与やポストプロダクション支援など、様々なサポートを提供する、アジア最大のプロジェクトマーケット)で支援を得ることができました。本当に釜山国際映画祭を応援していますし、この映画祭が無事に終わることを願っています」と、縁が深い釜山国際映画祭への想いを明かした。

原作を読んだ時1番注目した点は?というMCからの質問に対して、監督は「まずはタイトルに惹かれました。強い意味のあるタイトルだし、最後にそのタイトルがメッセージとして表現されるところに魅力を感じました。そして、この映画では二つの不条理を描こうとしました。ひとつは社会制度の不条理、そしてもうひとつは人間が立ち向かうことのできない天災・震災、この2つの不条理。最終的には、その不条理に立ち向かう人間が愛する人たちと一緒に暮らしていこうとする姿、そうして未来を信じようとする姿を描こうと思い、この作品を撮影しました。コロナで大変な状況ですが、そういう状況もこの映画と似ているところもあると思います」と答える。

続いて現地の観客からの質問に答えるコーナーに。佐藤健演じる主人公・利根がある人物に会うために公園を訪れるシーンで、その一角で踊る女性の演出意図を尋ねられると「佐藤さん(演じる利根)の「死んでいい人なんていないんだ」というセリフを、より記憶して頂けるように特徴的なシーンとしてを印象付ける意図がありました。また、大災害に対する祈りのようなイメージとして捉えてもらえないかなとも思いました。日本でも、あのシーンの意図を聞かれますが、映画というのは謎があった方が面白いと思います」と監督。

さらに、涙を流しながら作品を観たという観客から「作品に込めたメッセージ」を尋ねられると、「ひとつは震災の避難所で利根、けいさん、カンちゃんという3人が出会って、疑似家族を築きます。どんな状況においても、人間は人間らしく生きようとする、前向きなメッセージを伝えようとしました。ただ、そういう人達を助けてあげることのできない社会制度、そういうものに対して声をあげることの大切さ、人と人がつながって生きていくことの大切さも訴えようと思って作った作品です」と丁寧に回答した。

佐藤健の起用理由と、撮影してみての感想を尋ねられると「以前『8年越しの花嫁 奇跡の実話』という作品で佐藤さんに出てもらったことがありますが、その時の役は好青年で、その時に佐藤さんが「良い人をやるのは、実は辛いんです」と言っていたことを覚えています。その後佐藤さんは『ひとよ』で少しだけ悪い役を演じていて、“彼はこういう役もできるのか”と思い、今回お願いしました。佐藤さんは、僕が知っている日本の若手の俳優の中で1番クレバーだと思っています。映画の本質をキャッチして、その中で自分がどういう人物を演じればいいかを判断できます。脚本の段階から色々な話をして、一緒に映画を作ることができる素晴らしい俳優です。何より役を演じることにすごく熱心で、休憩中もこの利根という登場人物であろうとしていました」と絶賛する。

また、ラストシーンへの想いを尋ねられると「あのラストシーンの場所の付近に住んでいる方は、高い防潮堤ができて、海を見ることができなくなりました。ある人たちにとっては、海は見たくないものかもしれません。ただ、映画の最後で“海を見る”ということで、劇中の事件を違った角度で見ることができたのではないかと思います。憎しみの海ではなくて、“海の向こうに愛する人がいる“そんな海に見えたかもしれません。そこでの『ありがとう』というセリフが重要な意味を持っていると思います。和解して、未来に向かって生きようとする姿だと思って、このラストシーンをつくりました」と語った。

「英語タイトル『In the Wake』に込められた意味は?」という質問には「 “wake”には余波という意味と、死者を見送るという意味があり、このタイトルにしました」と答え、最後には「僕も韓国映画をたくさん観て、勉強して、いま映画を撮ることができています。これからも日本と韓国、映画を通して、お互いに新しい未来に向かって進んでいければと思います。今日はありがとうございました」と現地の観客にメッセージ。大きな拍手に包まれながらイベントは幕を投じた。

(C) Busan International Film Festival