NTT東日本 千葉事業部とケーブルテレビ事業者4社は2021年7⽉、通信設備の「不安全状態解消」に向けての業務提携を⾏った。全国でも珍しい、不安全設備の解消・情報共有を相互に実施する取り組みが実現したきっかけは、2019年に千葉県を襲った台⾵被害にあったという。
通信設備の「不安全状態」とは?
電柱から建物へつながっている引込線、通信ケーブルや電柱。これらが垂れ下がったり、切断されたり倒壊している状態を通信設備の「不安全状態」と呼ぶ。当然、住民からすれば通信が⾏えないだけでなく危険な状態でもあるため、早期復旧が求められる。
こういったケーブル類や電柱は、電⼒会社や通信会社、ケーブルテレビ会社などの各事業者が保有する設備であり資産だ。通報を受けて点検に向かっても、不安全状態にあるのが⾃社のケーブルや設備ではなかった場合、修復を⾏うことはできない。二度手間になるが、そのケーブルを保有する事業者に再び通報し、対応を願うしかなかった。
また住民の立場から見ても、不安全状態にあることをどの事業者に伝えたら良いのか判断が難しい。これらの事情が絡み合い、不安全状態の解消にいたるまでには多くの時間を必要とするのが常だった。こういった状況を改善すべく、2020年よりNTT東⽇本 千葉事業部とケーブルテレビ各社は業務提携の締結を進めている。
本稿では、NTT東日本 千葉事業部の横倉明彦氏、広域高速ネット二九六(ケーブルネット296)の片岡保典氏、J:COM 技術サポート本部 千葉技術センター(J:COM)の関口大輔氏に取り組みの経緯と意義、そして効果について伺っていきたい。
台風による被害で高まった各社の協力意識
業務提携の話が最初に持ち上がったのは2018年。千葉県のケーブルテレビ事業者であるケーブルネット296とNTT東日本 千葉事業部の代表同士の話し合いに端を発する。2019年3⽉には実務レベルの話しも⾏われ、徐々に提携に向けて進展していたという。
「『なにか協⼒できることはありませんか?』というところから話しが始まり、家屋などの建物や道路を通行する人や自動車への障害となる電柱を移動させる支障移転や、ケーブルの不安全状態を⾒回る巡視点検などで協⼒できないかという話も俎上に上がっていました」(ケーブルネット296 片岡氏)。
これを⼀気に進展させたのが、2019年に千葉県を立て続けに襲った台風15号(令和元年房総半島台風)・19号だ。千葉県のインフラは非常に大きな被害を受け、そこら中で電柱は倒れ、ケーブルは切断されているという状態に陥ってしまう。
その被害件数は、家庭内などで使われている通信機器の故障などの件数と合わせNTT東日本だけでも3万2,041件に及び、千葉県内では17万回線の通信が不通になったという。
「お客さまからも『台⾵でケーブルが切れているよ』という連絡を多数いただきました。しかし現地に⾏ってみると当社ではなくNTTさんのケーブルだったり、逆にNTTさんが当社のケーブルに関する連絡を受けたり、はたまた複数の事業者が各々で管理するケーブルが倒れた木に絡まっていたりと、1社だけでは手を出せない状況が数多く発生したのです。災害時の復旧を迅速に行うため、早急に協力体制を整えなければならないと感じました」(ケーブルネット296 片岡氏)。
千葉県内のケーブルテレビ事業者とNTT東日本が業務提携
こうして2020年6月23日、ケーブルネット296とNTT東日本は、通信設備の不安全状態解消のための業務提携を正式に締結。千葉市(花見川区、緑区、若葉区)と四街道市において、各事業者が不安全状態回避を目的とした⼀時措置を実施し、その通信設備を管理する事業者に対して発生場所と措置内容の情報共有を行うという協力体制が実現した。
「例えばNTT東日本ですと、故障受付『113』に電話をいただいたら、まず保守担当が現地へ確認に伺います。そこでどの事業者さんの設備であれ不安全状態を確認すると、⼀時措置として自動車などに触れない⾼さにテープでケーブルをまとめます。その後、措置の状況と場所を当該事業者さんに伝えるという流れです」(NTT東日本 横倉氏)。
2021年7⽉13⽇には、J:COM グループ2社、いちはらコミュニティー・ネットワーク・テレビ(いちはらケーブルテレビ)、千葉ニュータウンセンター(らーばんねっと)とも業務提携が⾏われ、取り組みの輪はさらに広がっている。
「J:COM においても、以前は街中で『NTT東⽇本さんのケーブルが垂れているな』と思っても通報する窓口や手段がなく、なにも対応ができない状況がありました。しかし今回、通報の道筋をしっかりと構築してもらえ、窓口間で適切な連携ができるようになったのです。社員からは『電線を⾒ながら歩く機会が増えた』という声を聞きます。このような意識が醸成されることで、お互いの不安全設備をより迅速・的確に発⾒できるようになるのではないかと」(J:COM 関口氏)。
またケーブルネット296の事業エリアでは印西市、東金市、富里市など15市町まで提携が拡⼤。千葉県内での協力体制はより強固になっている。NTT東日本では、まだカバーし切れていない、銚子市、成田市の事業者にも提携を呼びかけたいとのことだ。
「私たちNTT東日本にとっても確認の目が広がったことは非常にありがたいことです。⼀番大事なのは、地域の不安全設備を早く無くすこと。各事業者さんから情報を頂戴し、同時に現地に向かってすぐ復旧作業を行えるため、非常に助かっていますね。今後は、同じ通信会社との提携を模索しても良いかなと思っています」(NTT東日本 横倉氏)。
技術屋の仲間意識が生んだ業務提携
NTT東日本 千葉事業部と千葉県内のケーブルテレビ事業者各社とが通信設備の不安全状態の解消に向けてタッグを組んだ今回の業務提携。NTT東日本の横倉氏は、今後の発展のために自社の不安全設備対応システムを共有することも検討していると話す。
「NTT東日本には、不安全設備の写真を撮ると自動で情報が流通し、社員が派遣されるようなシステムがあります。いろいろな制約から現在は提供できていませんが、これを提携いただいている事業者さんにも活用いただけると、より対応も迅速に進むのではないかと考えています」(NTT東日本 横倉氏)。
「NTT東⽇本さんには、360度カメラを搭載した自動車を⾛らせてケーブルを撮影し、あとから不安全状態を検出するシステムがあるそうです。ケーブルネット296でも定期的な巡回を行っていますが、やはり人の⽬で確認する以上、見落としが発生しますから、非常に興味があります。コロナ禍が落ち着いたら、ぜひ⼀度見学させていただきたいですね」(ケーブルネット296 片岡氏)。
そして、全国にグループを持つJ:COM内でも、今回の取り組みは高く評価されているという。
「J:COMは木更津市のオンライン診療、習志野市のGIGAスクール構想などをはじめとして、地域のさまざまな活動をお手伝いしております。しかし、不慮の災害に対しては1社で太刀打ちできません。各事業者さんとタッグを組み、より迅速な復旧を実現したいですね。今回の取り組みは全国のJ:COMの代表が集まる会議でも共有しましたが、みなその必要性に頷いていました。全国でこういった提携を行うことができれば、本当にWin-Winかなと思います」(J:COM 関口氏)。
NTT東日本の横倉氏は最後に、今回の業務提携がスムーズに締結された理由について感じた点、そして地域住民の方への想いを述べた。
「我々のようなインフラ企業にとって、安全な設備を維持することは使命と言えます。業務提携がとんとん拍子に進んだ要因は、台風の影響と同時に、設備を守る技術屋の共感というか仲間意識もあったのかなと思います。サービスでは競合していますが、技術では共存していますからね。地域住民の皆さまに快適にご利用いただくためにNTT東日本とケーブルテレビ事業者各社が⼀丸となって取り組んでおりますので、引き続き安全な設備、安心のサービスをご利用いただければと思います」(NTT東日本 横倉氏)。