SNSには、古い友人と再会できたり同じ価値観を持つ人と交流できたりとメリットがある一方、デメリットもあります。とくに近年は、「炎上」という言葉が広く知られるようになるなど、SNSを通じて他人から攻撃や誹謗中傷を受けることが問題視されています。
そんなときはどのように自分の心を守ればいいのでしょうか。心理カウンセラーの中島さんが、「SNSとのつき合い方」を教えてくれます。
■「感情の起伏が大きくなる」ことが、SNSの問題点
若い世代の人に限らず、多くのみなさんがひとつやふたつは「SNS」を利用していることと思います。それだけ広く浸透したのは、ユーザーが意識しているかどうかにかかわらず、SNSにメリットがあるからだと考えられます。
心理カウンセラーの視点でいうと、たとえば「承認欲求を満たせる」こともそのひとつ。承認欲求とは、「他者から尊敬されたい、認められたい」という欲求のことです。SNSを通じて多くの人から「友達申請」をされたり、たくさんの「いいね」をもらえたりすれば、承認欲求が満たされて満足感を得られます。
一方、自分の投稿に対してネガティブな反応があったり友人からブロックされたりすれば、むしろSNSを使っていなければ負うこともない心の傷を負うことになってしまいます。よろこびを得やすいというメリットがある反面、心に傷を負いやすいというデメリットもあるのがSNSというツールです。
SNSによって「感情の起伏が大きくなる」、「感情に振りまわされやすくなる」ということ。これこそが、SNSの持つ大きな問題点だと考えます。
■感情の起伏が大きくなるほど、精神的負担が増す
以下の図をご覧ください。これは、アメリカの心理学者であるロバート・プルチックが提唱した感情の分類モデルであり、「プルチックの感情の輪」と呼ばれるものです。
プルチックは、「人間の感情は、8つの基本感情と、ふたつの基本感情の組み合わせからなる8つの応用感情から成り立っている」としました。図のいちばん外側にある「平穏」「容認」「不安」などの8つが基本感情で、それらのあいだにある「愛」や「服従」が応用感情です。
そして基本感情は、その強さのレベルごとに変わっていきます。「平穏」の場合なら、「よろこび」「恍惚」というふうに強さごとに変わるという具合です。
みなさんに知ってもらいたいことは、この図のように人間は多種多様な感情を持っているということ。そして、SNSが持つ、感情の起伏を大きくしてしまうという問題点についてです。
SNSを使っていない人であっても、日常のなかで「苛立ち」を覚えることもあります。ところが、見ず知らずの他人から攻撃されるなどしたSNSユーザーの場合は、相手の顔が見えないことなども手伝ってそのいら立ちを適切に解消できずに、「怒り」や「激怒」にまで増幅させてしまうこともあるのです。
先に「SNSにはよろこびを得やすいというメリットがある」と述べたように、ただの「平穏」という感情が、「よろこび」「恍惚」といったレベルにまで増幅することもあります。
いい面もあるように思えるかもしれませんが、このこと自体が問題なのです。なぜなら、感情の起伏が大きくなるほど精神的な負担が増すからです。
■SNSによって「本当の自分」を見失う可能性もある
たとえば、SNSを利用しておらず感情の起伏がなだらかな人であれば、先の例のように日常のなかで「苛立ち」や「平穏」といった感情を持つこともありますが、めったなことではそれらは「激怒」や「恍惚」にまで至りません。
ところが、感情の起伏が大きいSNSユーザーは、「いいね」をもらえば「平穏」が「恍惚」になったり、攻撃的なコメントをされれば「苛立ち」が「激怒」になったりと、この図のなかをあちこち飛びまわるように感情が変化していきます。そうしたことが、精神的な負担につながることは容易に想像できるのではないでしょうか。
また、SNSには「アイデンティティーを喪失しかねない」という問題点が潜んでいるとも考えます。
おしゃれなタレントやモデルの投稿を見たことで、「いまはこういう服が流行っているから」というふうに、自分が好きでもない服を買ってしまう。いわゆる、「意識高い系」の人が説く「これからの時代に必要なスキル」といった投稿を見て、自分に必要ないスキルを身につけようと躍起になってしまうといったこともあるでしょう。
こうして、「本当の自分」というものを見失ってしまいかねないというわけです。
■いまこそリアルの人間関係を大切にするとき
こういった状況をなくすにはSNSの利用をやめることがいちばんですが、若い世代の場合は友人とのつき合いもあってそうすることが難しい場合もあるでしょう。そうであるなら、まずは「SNSを使いわける」ことを考えてみてください。
たとえば、SNSを通じて情報収集をしているという人なら、情報収集ツールだと割り切って、関係のない投稿には目を通さないようにする。あるいは、リアルでつき合いがある人との交流のためだけのツールとして使う、といった具合です。SNSを使いわけ、自分の感情が振りまわされないようにコントロールすることが大切です。
また、「リアルの人間関係を大切にする」ことも考えてみてください。リアルの人間関係が充実していないからこそ、見ず知らずの人との交流を通じて心を満たそうとするのです。でもその結果、先にお伝えしたように精神的な負担が増したり本当の自分を見失ってしまったりしては、元も子もありません。
ただ、コロナ禍のいまはリアルの友人とも自由に会いづらくなっています。そうであれば、SNSとは別のツールを積極的に使うことを考えてみましょう。いまは新たなコミュニケーションツールがどんどん登場している時代です。テキストベースのやり取りだけではなく、ビデオ通話もできるツールはいくらでもあります。
それらを利用してリアルの人間関係を充実させることができれば、それが自分の居場所となり、SNSにハマり過ぎるようなこともなくなるでしょう。
■問題が生じた場合の「解決手段」を持っておく
しかし、いくらSNSを自分なりにコントロールしたとしても、他人から誹謗中傷されたり攻撃されたりすることが完全になくなるわけではありません。そこで、もしそういったことが起きたときのために、取り得る解決手段を持っておきましょう。
たとえば、総務省が運営する「違法・有害情報相談センター」では、ネットトラブルの専門家に相談することができます。また、SNS上で受けた攻撃が自分の人権にかかわるような内容であれば、法務省の「人権相談」が相談の窓口として適しています。
もっと身近なところで相談する相手を見つけてもいいでしょう。そのために役立つのが、わたしが提唱する「問題解決ノート」というものです。
これは、解決したいことに対して、周囲にいる人たちからどういう助けを得られるかを明確にしていくメソッドです。まわりの人たちに決定権を託すように思えるかもしれませんが、誰になにができてなにができないかがはっきりすることで、自分がやるべきことも明確になるのです。
真ん中のスペースには「解決したいこと」を書きましょう。このケースなら、「SNSで見ず知らずの人から誹謗中傷を受けた」といったことになるでしょうか。いちばん下には「解決したらしたいこと」を書きます。これは、楽しいイメージを持つことで、問題を深刻にとらえ過ぎることなく解決に向かって行動しやすくするためのものです。
そのまわりには、家族や友人などのなかから手助けしてくれそうな人や機関と、その人たちが「なにをしてくれそうか」ということも書き込みましょう。そうすれば、自分自身でやらなければならないことも見えてくるはずです。
このメソッドが面白いのは、この書き込みに従って実際に誰かに相談してみるだけで、起きた問題を軽くとらえることができるようになる点にあります。人の悩みというのは、実際に口にしてみると、「あれ? こんなの大したことないな」と思えることも少なくありません。
仲のいい友人と話しているうちに、「SNSのコメントなんて時間とともにどんどん流れていくものだし」「ま、いっか!」と思えることもあるのではないでしょうか。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ