マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国がデフォルトを回避するシナリオについて解説していただきます。


9月30日に米政府の継続予算(12月3日まで)が成立し、22年度が始まる10月1日からのシャットダウン(政府機能の一部停止)は回避されました。一方、デットシーリング(債務上限)の引き上げや停止については、民主党と共和党が対立するなかで膠着状態でしたが、10月7日に両党の合意が成立。デットシーリングを4,800億ドル引き上げる法案により12月3日ごろまでの資金が確保される見通しです。イエレン財務長官がデフォルト(債務不履行)する期限とした10月18日は無事通過できそうです(本稿執筆時点で下院が未採決)。

もっとも、議会は12月3日ごろまでに4つの対応が必要になります。まず2022年度をカバーする本予算の成立。これは民主党と共和党による超党派の対応が必要です。次にバイデン大統領の包括的な経済政策を実現するための予算調整法案。これは民主党単独で可決可能ですが、当初案(3.5兆ドル)が大きすぎるとして民主党内でも反対の動きがあります。どの程度規模を縮小できるかがカギとなりそうです。

そして、インフラ投資法案。これは上院で可決済みで、残る下院では民主党だけで可決可能です。ただ、予算調整法案との関連で民主党内の足並みが揃っていません。最後に、デットシーリングの再引き上げか停止。民主党と共和党のバトルが再燃することは必至で、市場でデフォルトの懸念が再浮上するかもしれません。

以下では、米国がデフォルトを回避するシナリオを確認しておきます(マネースクエアの10月6日付けレポート「ファンダメ・ポイント:米政府、デフォルト回避の選択肢」を加筆・修正し、アップデートしました)。

超党派でのデットシーリング引き上げか停止

民主党と共和党が協力して超党派で対応するのが最も望ましい形かもしれません。しかし、上院共和党は下院を通過したデットシーリング停止の法案を拒否しています。上院では少数派が法案採決を妨害するフィリバスターという戦術があり、これを打ち破って採決に進むためにはスーパーマジョリティー(100議席中の60以上)の賛成が必要です。少なくとも共和党議員10人の賛成が必要ですが、その見通しは立っていません。なお、採決に進めば、民主党議員50人と副大統領の賛成で法案は可決されます。

民主党単独で対応

デットシーリング引き上げをフィリバスターの対象外となっている予算調整法案に組み入れる方法です。民主党はバイデン大統領の包括経済対策の大部分を予算調整法として成立させる意向です。共和党は、財政赤字を拡大させる可能性がある包括経済対策もデットシーリング問題も、全て民主党が責任を取れとしています。一方、民主党はトランプ政権下では超党派で対応したように、共和党も協力せよというわけです。デットシーリング引き上げの単独法案を、予算調整法案と同様にフィリバスターの対象外にするアイデアもあるようです。しかし、一部の民主党議員はこれに反対しています。

コイン発行

議会が対応しないため、バイデン政権が対応するケース。バイデン政権には「究極の奥の手」があるようです。それは、財務省が額面1兆ドルのコインを発行すること。一定の条件の下、財務長官にコインを発行する権限があります。そして、1兆ドルのコインの発行もその権限内のようです。それをFRBに預ければ、連邦政府は債務を増やすことなく支出を継続することが可能です。過去にオバマ政権下などでデットシーリングが問題化した時もコイン発行が検討されたものの、最終的には否定されました。今回も、イエレン財務長官はコインの発行を否定しています。

憲法修正14条

バイデン政権のもう一つのオプションが、憲法修正14条第4項に従って、デットシーリングを無視すること。同項は「合衆国の公債の有効性は疑問視されてはならない」と規定しています。これを根拠にして政府は支出を続けることができるとの解釈があるようです。もっとも、バイデン政権は第4項の発動にも否定的立場を取っているようです。デットシーリングの問題はあくまでも議会が解決せよとの立場を貫いています。

最終的には……

結局のところ、デットシーリングの限界が接近し、株価が大幅に下落するなど、市場の動揺が危機バネとなって議会が対応に動くというシナリオの可能性が一番高そうです。いずれにせよ、デットシーリングが実際に引き上げられるか停止されるまで油断は禁物でしょう。

付記: デッドラインに到達しても、国債の借り換え(償還分と同額の国債を発行すること)は債務増加につながらないため可能です。しかし、発生する利子は新たな債務であるため、利払いができなくなります。それがデフォルトと判断される可能性があります。また、財務省短期証券(Tビル)は予め利子分を控除した割引形式で発行されるため、満額での償還ができなくなります。