「日本人の5人にひとりが睡眠障害」という研究結果もあるほど、睡眠に悩みを抱えています。問題点は、ただ眠れないということにとどまりません。睡眠障害が進行した結果、「うつ病」を発症することもあると警鐘を鳴らすのは、心理カウンセラーの中島輝さん。

  • “よく眠れない”は「うつ」の初期症状? メンタルにいい、夜のルーティン /心理カウンセラー・中島輝

中島さんは「コロナ禍のいまだからこそ、睡眠障害をしっかり予防してほしい」ともいいます。

■コロナ禍による「不安」が、睡眠障害増加の要因

「睡眠障害」とは、「寝つきが悪い(入眠障害)」「睡眠の途中で目が覚めてしまう(中途覚醒)」「起きたい時間より早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)」「ぐっすり眠れたという満足感が得られない(熟眠障害)」など、いくつかの障害をまとめていう総称です。

睡眠障害によって睡眠の質が落ちてしまうと、たくさんの悪影響が「心身」に及びます。なぜなら、睡眠とは身体を休めることだけでなく、脳のなかの情報を整理したり脳自体を休めたりするといった役割も担っているからです。

また、脳と心は一体ですから、睡眠障害は心にも悪影響を及ぼし、「うつ病のリスク上昇」にもつながります。実際、1989年にアメリカで約8000人を対象にした研究では、慢性的に不眠の人はそうでない人に比べてうつ病の発症リスクが40倍にもなるという結果が示されているほどです。

そして、とくにいまは注意が必要なときです。なぜなら、コロナ禍によって多くの人が強い不安を抱えているからです。「自分も感染してしまうかもしれない」といった不安だけでなく、「職を失ってしまうかも」「収入が減ってしまうかも」など様々な不安を抱えているがために、なかなか寝つけなくなり、十分に眠れていない人が増えていると推測します。

これまでと生活様式が大きく変わったことも、睡眠障害を招いているのでしょう。コロナ禍以前であれば、休日には気心の知れた友人との飲み会や自分が好きなレジャーなどを楽しみ、「ああ楽しかった!」と「バタンキュー」でぐっすり眠れていました。でも、そういう楽しみを奪われているいま、そのように気持ちよく眠ることも難しくなっているのです。

■2週間の「睡眠ログ」で、自分の睡眠の質を知る

では、みなさんはきちんと眠れているでしょうか? よりよい睡眠をとるための第一歩は、現時点における自分の睡眠の状態をチェックすることです。そのために、2週間ほどのあいだ、「睡眠ログ」という記録をつけてみてください。

日付の他、「就寝時刻」「起床したい時刻」「実際の起床時刻」「睡眠時間」「目覚めの気分」「日中の眠気」「気になったこと」を書き出していくというものです。そして、「目標」と実際の睡眠のズレをチェックすることで、睡眠の質をある程度推測することができます。

たとえば、翌朝6時に起きねばならず、過去の経験から「十分に眠ったと感じるには7時間は寝たい」という人の場合なら、23時に就寝することになります。ところが、実際にチェックしてみると、ベッドに入っても1時間くらい寝つけず、かつ起床したい時刻である6時より1時間も早い5時に目が覚めてしまいました。

そうなると、「入眠障害」「早朝覚醒」という睡眠障害が疑われます。また、そもそも眠りたかった7時間に睡眠時間が達していませんから、当然ながら睡眠の質は低いと考えられます。もちろん、他にも目覚めの気分や日中に感じた眠気などからも睡眠の質を推測することもできるでしょう。

■睡眠ログは、睡眠の質を上げるためにも有効

この睡眠ログをつけた結果、「自分の睡眠の質はあまりよくないなあ…」と思った人は、うつ病を発症するなんてことにならないように、しっかりと睡眠の質を上げていきましょう。

じつは、睡眠ログはただ睡眠の質をチェックするためのものではありません。睡眠の質を上げるためのメソッドでもあるのです。

なぜなら、睡眠ログによって「睡眠時間をきちんと確保する」という意識が働くようになるからです。わたしたちは、翌日の予定によって起床時刻は決めても、就寝時刻を決めるということはあまりしません。みなさんも、就寝時刻を決めることなどなく、眠くなったらベッドに入るという人がほとんどではないですか?

睡眠ログをつけようと思えば、起床したい時刻を決めると同時に眠りたい時間を「目標」として意識し、就寝時刻を決めるという習慣が身につきます。そうして、自分に必要な睡眠時間を確保しやすくなるというメカニズムです。

また、睡眠ログによって睡眠に意識を向けること自体が、睡眠の質を上げていくことにもつながります。「毎日体重計に乗る人はダイエットに成功する」という話を聞いたことはありませんか? 毎日の体重の変化を知ることが、「昨日より体重が増えちゃったな…。たしかに脂っこいものを食べ過ぎたかもしれない。明日からはもうちょっと摂取カロリーを抑えよう!」というような行動変容を促してくれるからです。

睡眠ログにも、このことと同じ効果が期待できます。睡眠ログによって自分の睡眠の質が低いことを知ったならば、それを上げていこうという意識と行動を自然に導いてくれるというわけです。

■ぐっすり眠るための鍵は、なによりも「安心」であること

では、ここからは睡眠の質を上げる具体的な方法を紹介します。ただ、わたしは医師ではありません。そこで、多くの医師が推奨する方法のなかから、心理カウンセラーの視点で見ても「これはおすすめできる!」と感じた方法を厳選しました。

睡眠欲は食欲や排泄欲と並ぶ、人間にとってもっとも根源的で非常に強い欲求である「生理的欲求」のひとつです。ただ、それと同じくらい強い欲求に、「安全な環境にいたい」「健康状態を維持したい」といった「安全欲求」というものがあります。

では、心理的に安心できない、安全が確保されていない環境でぐっすりと眠ることができるでしょうか。いつ猛獣に襲われるかもわからないジャングルでぐっすり眠ることなどできませんよね? つまり、睡眠の質を上げるためには、自分が安心できる、リラックスできる状態をつくることがなにより重要となるのです。

■リラックス状態を導き、睡眠の質を上げる3つの方法

わたしからおすすめするのは、次の3つの方法です。

1.就寝の1〜2時間前までに入浴する
2.就寝の90分前を過ぎたらスマホやテレビは見ない
3.アルコールは控え、最低でも週に2〜3日の休肝日を設ける

ひとつ目は「就寝の1〜2時間前までに入浴する」。お風呂はリラックスするためにとても有効な習慣です。ただ、就寝直前にお風呂に入ることはやめましょう。体温が上がると、自律神経のうち身体が活動的になっているときに働く交感神経が優位になってしまうからです。リラックスするつもりが、逆に興奮状態を招きかねません。

ふたつ目は「就寝90分前を過ぎたらスマホやテレビは見ない」。とくにコロナ禍のいまは要注意です。ニュースやSNSを通じて不安をあおるような情報が飛び交っていますから、それらを目にすればリラックス状態はぐっと遠ざかってしまいます。

もちろん、ヒーリング番組といったものもありますが、じつはスマホやテレビなどのモニタを見ること自体が睡眠の妨げになります。これらのモニタが発するブルーライトという光が、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌を抑制してしまうからです。

最後が「アルコールは控える」というものです。「お酒を飲めばリラックスできるのでは?」と思った人もいるでしょう。たしかに、お酒は飲みはじめた直後の短時間なら心身をリラックスさせてくれます。ところが、このリラックス状態は長続きしません。

アルコールは、「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンという神経伝達物質の分泌を抑えてしまうからです。幸福ホルモンという呼び名からもイメージできると思いますが、セロトニンは気持ちを穏やかに落ち着かせてくれる、まさにリラックス状態を導いてくれる作用を持つ神経伝達物質です。

長年の習慣でいますぐにはお酒をやめられないという人も、せめて週に2〜3日の休肝日を設けてほしいと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ