会社に所属していると耳にする機会がある福利厚生費ですが、一体どのようなものが費用に該当するのでしょうか。福利厚生費の種類や計算方法、飲食などの交際費との違いを覚えて知識を深めていきましょう。
福利厚生費とは
福利厚生費とは企業が従業員の福利厚生のために設けた制度や施設にかかる経費のことを指します。福利厚生とは給与や賞与とは違い、従業員の生活を豊かにするために提供しているサービスのことです。
福利厚生費の例としては社会保険等の企業負担分の費用をはじめ、慶弔見舞金や社宅代、社員旅行の経費なども福利厚生費として挙げられます。しかし、社員の生活を豊かにするための経費がすべて福利厚生費に該当するわけではありません。一定の条件を満たした経費であれば福利厚生費として計上できます。 福利厚生費は「法定福利費」と「福利厚生費(法定外福利費)」に大別できます。具体的にみていきましょう。
法定福利費とは
法定福利費とは、法律により企業の支払いが義務付けられている福利厚生の費用になります。具体的には以下のようなものがあります。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
- 雇用保険料
- 労働保険料
法律では「法人、並びに5人以上の従業員がいる個人事業主は原則として社会保険制度に加入し事業主が一部負担すること」が義務付けられています。
法定外福利費とは
法定福利費がある一方、法定外福利費も存在します。法定外福利費とは、企業が独自に行っている、法律に定められていない福利に関する経費です。具体例は以下の通りです。
- 住宅手当
- 出張手当
- 慶弔見舞金
- 食事補助
- 保養所
企業によって幅広い法定外福利費が導入されていますが、計上する金額が移り変わりやすいという特徴があるため、法定福利費よりも福利厚生費として認められない可能性が高いです。そのため、福利厚生費としての条件を満たしているかを確認してから計上しましょう。
福利厚生費と各種費用の違いとは
どのような経費が福利厚生費として計上できるのかを把握しておかないと、思わぬトラブルにつながりかねません。ここでは福利厚生費として計上してしまいがちな「消耗品費」や「交際費」との違いを具体的にご紹介します。
福利厚生費と消耗品費の違い
【消耗品費】
消耗品費とは、定期的に使われてなくなる「業務にかかわる」消耗品の費用です。業務で直接使用する文房具や少額のデスクなどをイメージするとよいでしょう。また、「品物の金額が10万円未満」「使用できるのが1年未満」という条件もあるのでこちらも合わせて押さえておきましょう。
福利厚生費との違いは、業務との直接の関係性の有無です。消耗品の例で言えば、社内環境を向上させるための常備薬や掃除道具などが福利厚生費に該当します。
福利厚生費と交際費の違い
【交際費】
交際費とは会社の経営のために行われる取引先との付き合いや交渉のために使用される経費のことです。接待や供応、慰安や贈答などが交際費に該当します。
福利厚生費との違いは、費用の対象が社員か否かです。福利厚生費は自社の従業員を対象とした制度になるため、他社の取引先への接待費用は福利厚生費ではなく、交際費になります。一方で、従業員を対象とした宴会費用や周年パーティーなどの経費は、福利厚生費(法定外福利費)として計上することができます。
なお、福利厚生費として食事補助を計上する際は、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 従業員1人に対して企業が負担する額を1カ月あたり3,500円以下にする
- 従業員自身が半分以上の割合を負担する
食事補助は、全額を福利厚生費として計上できるわけではないので注意しましょう。
福利厚生費に該当するための条件
福利厚生費は「損金」として算入できるため、利益から福利厚生費が引かれます。これを行うことで利益に対してかかる法人税が安くなり、節税へとつながるというメリットがあります。
しかし、福利厚生費として計上するためにはいくつか条件を満たさないといけません。条件を満たせなかった場合は福利厚生費として認められないこともあるため、条件をしっかり確認しておきましょう。
すべての社員が平等に対象である
1つ目の条件はすべての社員が平等に対象であること(機会の平等性)です。一部の社員のみに認められる特権などは福利厚生費として当てはまらないケースがあります。
社内で福利厚生の規程を作り、明記しておくとすべての社員が利用できる福利厚生がわかりやすく、管理もしやすくなります。
常識的な範囲内の金額である
2つ目は常識的な範囲内の金額であること(金額の妥当性)です。福利厚生費としての金額があまりにも大きいと、認められない可能性が出てきます。常識の範囲内で経費を使用するよう心掛けましょう。
とはいえ、「実際どれくらいの金額が妥当なのかわからない」という方は税理士や会計士などの専門家に相談することがおすすめです。
現物支給ではない
3つ目の条件は現物支給ではないことです。福利厚生は、あくまでも従業員の暮らしを豊かにするサービスが主な役割です。そのため、現金を直接支給することは福利厚生費に該当しない場合があります。
ただし、慶弔見舞金ならば現金での支給が可能です。あらかじめ社内で、慶弔金支給規程などの社内ルールを定めておくといいでしょう。
福利厚生費として認められる費用例
福利厚生費と一口に言っても会社によって使い方はさまざまです。ここではどんな経費が福利厚生費として計上できるのかご紹介します。
健康診断の費用
従業員を対象に定期的に行われる健康診断や人間ドックなども福利厚生費として該当します。しかし、あまりにも高価なコースや、一部の従業員だけが健康診断を受ける場合は福利厚生費として認められないことがあります。そのため常識の範囲内の金額で全従業員を対象に行うことを意識しましょう。
社宅費用
会社が用意した従業員の社宅も福利厚生費として該当します。従業員が賃貸料相当額の半額以上を支払っているならば、家賃の企業負担額を福利厚生費として計上できます。無償で貸し出ししている社宅や従業員の賃貸料相当額の負担分が半額以下の場合は、社宅の経費を福利厚生費として計上することはできません。
通勤費用
家から職場へと向かう通勤費用も福利厚生費として計上が可能な経費です。通勤費用は社員・パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく適応できます。公共交通機関での通勤費用だけではなく、自転車や自動車通勤の場合も相当額の支給が可能です。
しかし、通勤費だからといっていくらでも計上できるわけではなく一定の限度額が設定されています。例えば、電車などの公共交通機関を利用して通勤する際は1カ月15万円までです。自動車に乗って通勤する際も距離によって限度額が細かく設定されています。
慶弔見舞金
従業員や役員への慶事・弔事の見舞金などは福利厚生費の対象となります。慶事・弔事の見舞金とは、具体的には結婚祝いや出産祝い、香典などにかかる費用のことを指します。他にも見舞いの品や式場に飾る花の費用なども福利厚生費として計上できます。社外や取引先へ贈る際には福利厚生費の対象にはなりません。
忘年会・新年会費用
新年会や忘年会、周年パーティーなどの宴会費用も福利厚生費として計上できます。基本的には
- 全従業員が対象になる
- 企業側の負担額が社会通念上妥当な金額である
- 企業の負担額が一律である
といった条件がつきます。
社員旅行の費用
全従業員を対象とするのであれば、社員旅行も福利厚生費の対象となります。社員旅行でも福利厚生費として計上するには
- 旅行期間が4泊5日以内である
- 全従業員の半数以上が参加する
という条件がつきます。
もしも都合が悪く参加できない従業員がいたとしても給与としてみなされてしまうため、金銭は支給しないようにしましょう。旅費代わりに金銭を支給した場合は福利厚生費として計上できません。
福利厚生費の相場や上限
福利厚生費については「社会通念上妥当な金額」といった書かれ方をされているケースが少なくないですが、具体的に福利厚生費の相場や上限はいくらなのでしょうか。
ここでは福利厚生費として使われているものの具体的な金額を見ていきます。
福利厚生費の相場
日本経済団体連合会が2020年11月に発表した資料によると、2019年度の福利厚生費の相場は108,517円でした。内訳をみると法定福利費が84,392円、法定外福利費は24,125円と法定福利費が大部分を占めるという結果になっています。
企業が福利厚生のために自主的に福利厚生費を利用する場合は、合計の108,517円から法定福利費の84,392円を差し引いた24,125円くらいを目安に考えてみましょう。
福利厚生費の上限
福利厚生費の上限に具体的な決まりはありませんが、基本的には「社会通念上、常識の範囲内の金額」ということ念頭に置いておきましょう。
もし税務調査で指摘をうけると福利厚生費としての計上はできません。そのため、福利厚生費の相場と照らし合わせながら各条件を満たした内容や金額を考えることが大切になります。
福利厚生費の計算方法
企業によって金額が異なる福利厚生費は個々に算出する必要があるため、法定福利厚生費の算出方法をご紹介します。
健康保険料
標準報酬月額(標準賞与額)×健康保険料率×1/2
厚生年金保険料
標準報酬月額(標準賞与額)×厚生年金保険料率(18.3%)×1/2
介護保険料
標準報酬月額(標準賞与額)×介護保険料率(協会けんぽは一律1.80%)
雇用保険料
賃金総額×雇用保険料率×負担割合
労災保険料
賃金総額×労災保険料率
福利厚生費の計上方法
福利厚生費は、それぞれの経費を勘定科目で仕訳してから計上する必要があります。法律で導入が定められている法定福利費と違って、法定外福利費は勘定科目の書き方も会社ごとに異なるため計算方法が複雑になります。
福利厚生費は、損益計算書において従業員の給与や消耗品費、会議費や交際費と同じ「販売費及び一般管理費」という費用に分類されます。そのため従業員の給与や消耗品費、会議費と混同しがちのためしっかり分類することが大切です。
以下に計上するうえでのポイントをまとめました。
法定福利費と法定外福利費)に分けて勘定する
勘定する際にはさまざまな福利厚生費を項目に分けます。まずは法定福利費と法定外福利費に分けるのですが、法定福利費の場合はそれぞれ保険ごとに分ける必要があります。
法定外福利費はできるだけわかりやすい勘定項目を設けて、何に使ったのかを明確に表すようにしましょう。
計上には正確なソフトを使う
人の手ではどうしても計算ミスが起きる場合があるため、専用のソフトを使用するのが一般的です。
ここで注意したいのが同じ勘定項目のものは連続使用する必要があるということです。企業会計原則の「継続性の原則」に定められており、不正やミスを防ぐための規則になります。
経営組織の変更、大規模な経営方針の変更など正当な理由がある場合は会計処理の変更が認められています。
福利厚生費と税金の関係
さまざまな場面で使われている便利な福利厚生費ですが、税金との関係はどうなっているのでしょうか。ここでは福利厚生費の税金関係についてご紹介します。
福利厚生費は原則非課税対象
福利厚生費はほぼ非課税対象となっています。特に法定福利費に関しては全面的に非課税として扱われています。法定外福利費もほぼ非課税として計上することが多い費用です。
課税対象となるもの
福利厚生費として計上できるものはほぼ非課税ですが、福利厚生費の条件を満たさない場合は課税対象となります。 例えば一部の従業員だけを対象にしている福利に対する経費や、社会通念上妥当ではない金額の支出については非課税対象とすることはできません。
福利厚生費として計上できないケース
福利厚生費の条件を満たしていても、一部の企業では福利厚生費として認められないケースがあります。福利厚生費が認められない企業体制をご紹介します。
家族経営
福利厚生費は従業員を対象とした経費となるため、家族経営のケースでは従業員ではなく家族としてみなされ、福利厚生費の利用ができません。売り上げから医療費や生活費に充てても福利厚生費として計上することはできないので注意してください。
個人事業主(単独経営)
個人事業主の単独経営で従業員が1人もいないという場合も福利厚生費を利用できません。こちらも家族経営と同じく福利厚生費とは従業員のための制度なので、従業員がいない場合は適用されないのが一般的です。
福利厚生費の理解を深めて節税にも役立てよう
福利厚生費は社員の生活を豊かにしたり、会社のイベントなどにも使ったりできるとても便利な費用です。うまく使うことができれば社員の士気や会社の評判のアップにも役立ちます。さらに場合によっては節税対策としても使われることがあるため、ぜひそちらもチェックしてみましょう。