懲戒処分とは何のために行なうのでしょうか。懲戒処分には言葉で注意するだけのものから、解雇に至るものまでさまざまな種類があります。こちらの記事では、懲戒処分の種類を詳しく解説しながら、そのルールや流れを紹介していきます。
懲戒処分とは
懲戒処分とは、会社や組織の秩序を維持するための手段の一つです。従業員の欠勤や虚偽報告、パワハラ、セクハラ、犯罪行為など、服務規律違反に対して、あらかじめ就業規則などに明記し、事前に従業員に周知しておく必要があります。
業務命令や服務規律に違反するなど、従業員が本来果たすべき義務や規律に違反したことや職務を怠ったことに対して行われる措置が懲戒処分です。
懲戒処分の目的
懲戒処分の目的は、会社や組織の秩序維持です。会社の秩序を維持するためには「当事者の配置換え」「人事の低評価」「普通解雇」「損害賠償」などがありますが、これだけでは組織の秩序を維持することが難しいのが現状です。そのため、より影響力のある手段として懲戒処分が用いられています。
懲戒処分の事由
一般的な懲戒処分の事由としては、以下のようなものがあげられます。
- 無断欠勤などの勤怠不良
- 故意に会社に損害を与える行為
- ハラスメントなど就業環境を悪化させる行為
- 社内外の犯罪行為
- 経歴詐称
- 機密情報の漏洩など
- 就業規則違反
このような懲戒処分の原因となる行為を、就業規則などに「懲戒」の項目を設けて定めておく必要があります。就業規則にあらかじめ定めておかなければ懲戒処分を行なえないため、事前に会社が十分話し合って決めておくことが必要です。
懲戒処分の種類
懲戒処分の種類についてですが、一般的な企業では6種類の懲戒処分があります。
罪の軽いものから「譴責」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨解雇」「懲戒解雇」があります。これらの6つに加え、当該社員に厳重注意を行う「戒告」を取り入れている会社も中にはあることでしょう。
以下で、懲戒処分の種類を処罰の軽い順から解説していきます。
戒告(かいこく)
戒告とは、文章や口頭によって厳重注意をする処分のことです。懲戒処分の中でも最も軽い処分です。単なる注意として取り扱われることも多いため、就業規則に定めていない企業も多いです。
譴責(けんせき)
譴責とは、従業員に始末書を提出させて厳重注意する処分のことです。処分として一番軽い戒告では口頭での反省を求めるのに対して、譴責は書面での反省を求めています。ただし、こちらの処分も懲戒処分の中では軽い処分の一つと言えるでしょう。
減給
減給とは、従業員に支給する給与の一部を減額する処分です。減額できる金額は労働基準法第91条で「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と定められているので、法律の範囲内で減給する金額を確認しましょう。
出勤停止
出勤停止とは、従業員に一定期間出勤を禁止する処分のことです。出勤停止している期間の賃金は発生しないため、無給扱いとなります。
通常は減給処分よりも、本人が受ける経済制裁の割合は大きいものとなります。停止期間に法律による規定はありませんが、就業規則に通常記載されていることが多い処分になります。
降格
降格とは、従業員の役職や職位、資格を引き下げる処分のことをいいます。降格は出勤停止よりもさらに経済制裁が大きくなります。出勤停止は停止期間が終わり出勤すれば給料は元に戻りますが、降格の場合は元の役職などに戻るまでは役職手当などがずっと下がるため、受け取ることができる給料は下がったままとなります。
諭旨解雇(ゆしかいこ)
諭旨解雇とは、会社が従業員に「退職願の提出を勧告する」処分です。退職届の提出があれば退職扱いになるのですが、提出しない場合は懲戒解雇処分となります。
懲戒解雇とは懲戒処分の中でも一番重い処分となるため、そうした処分を避けるために用いられるケースが多い処分です。従業員に情状酌量の余地がある場合に使用されています。
懲戒解雇(ちょうかいかいこ)
懲戒解雇とは、従業員との労働契約を一方的に解消する処分のことで、懲戒処分の中では最も重い処分となります。解雇予告手当の支払いをせずに解雇することも可能です。ただし、その場合は労働基準監督署に除外認定を受けておく必要があるため注意が必要です。
公務員の懲戒処分の種類
一般的な企業における懲戒処分の種類を紹介しましたが、公務員の場合はその実情が異なります。ここからは公務員の懲戒処分の種類をみていきましょう。
戒告
戒告とは当該者の規律違反の責任を確認するとともに将来を戒める処分です。企業の懲戒処分同様、公務員における最も軽い処罰です。
減給
減給は一定期間にわたり、給与の一定割合を減額して支給する処分です。国家公務員の場合、「減給は、1年以下の期間、俸給の月額の5分の1以下に相当する額を、給与から減ずるものとする」と定められています。
停職
職員としての身分を保有させながら一定の期間その職務に従事させない処分です。停職中は原則として給与を受けられません。
免職
公務員の職を失わせる免職は、公務員の懲戒処分の中で最も重いものです。免職されてしまうと本来支給されるはずの退職金も支払われなくなります。
なお、この4つの懲戒処分は国家公務員と地方公務員のどちらにも共通したものです。
懲戒処分のルール
ここまで説明してきた懲戒処分ですが、従業員に適用する際にもルールがあります。ルールを守らずに、懲戒処分を行なうと逆に訴えられるケースもあるため注意しましょう。
二重処罰の禁止
1回の問題行動に対して2つの懲戒処分を行なうことは法律で禁止されています。 これは日本国憲法第39条の「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」という原則に基づいており、「一事不再理」とも呼ばれています。
一度処分をした後、もう一度同じ問題行動に対して重ねて処分をすることはできないことを覚えておきましょう。
懲戒処分の相当性
懲戒処分の相当性のルールとは、懲戒処分が従業員の問題行動の内容と比較して重すぎてはいけないということです。懲戒処分が明らかに重すぎる場合は、無効となるうえに、逆に訴えられる可能性も出てくるため要注意です。
平等処遇の原則
平等処遇の原則とは、同じ問題行動に対して過去の自社の対応と比較して同じ種類、同じ程度の懲戒をしなければならないということです。ただし、今後問題行為に対して厳罰に処分するということを従業員に告知し徹底している事情があれば、認められる場合もあります。
懲戒処分の流れ
従業員に懲戒処分を下す場合は、決められた手続きをしなければいけません。適正な手続きを行わずに懲戒処分をしてしまうと、従業員から裁判を起こされる可能性もあることを理解しておいてください。
(1)事実確認
まず大事なのはトラブルの当事者や関係者への事実確認です。懲戒処分はまず本人や関係者への事実確認を十分おこなったうえで、トラブルが起きた背景や経緯、被害者の有無などに配慮して処分を行う必要があります。
(2)弁明の機会
懲戒処分は事実確認だけすればいいというものではありません。必ず相手に弁明の機会を与えましょう。なぜなら、弁明の余地なく会社からの一方的な処分で決定することは社会的に見ても企業イメージが悪くなりますし、処分が無効となる可能性もあります。必ず懲戒処分の当事者には弁明の機会を設けてください。
(3)委員会の諮問
懲戒規定で、懲戒処分について懲戒委員会で決めることを定めている場合は、必ず懲戒委員会を設置して諮問する必要があります。その手続きを省いて懲戒処分を実行した場合は無効と判断されることがあるので規定を確認しておいてください。
(4)当事者への告知
処分内容が決定したら、ここで懲戒処分する本人への告知となります。事実確認をし、しっかりと当事者の弁明を聞いたうえで適正な手続きを踏んで、慎重に懲戒処分の告知をするようにしましょう。
懲戒処分を社内で再発させないために
会社や組織の秩序を維持するための手段の一つとして懲戒処分があります。処分の種類もさまざまで、ルールや手順もあるため、できれば社内で懲戒処分を発生させたくないものです。
常にコンプライアンスを社内や組織内に意識させ、懲戒処分が必要となる問題行動が発生しないような環境づくりを心掛けていきましょう。