時間差の角切りで優位を確立し、「負けない将棋」で勝ち切った
将棋のタイトル戦、第69期王座戦(主催:日本経済新聞社)第4局、▲木村一基九段(1勝2敗)-△永瀬拓矢王座(2勝1敗)戦が10月5日に兵庫県「ホテルオークラ神戸」で行われました。結果は122手で永瀬王座が勝利。3勝1敗の成績で王座を防衛し、3連覇を達成しました。
第1局は角換わりだったものの、第2局からは連続して相掛かりになっている本シリーズ。第4局も木村九段が先手番で相掛かりの将棋となりました。
本局は序盤から両者が動いていく、激しい展開に。永瀬王座は相手の手に乗じて桂を跳ねていき、木村九段は中段飛車でその桂を目標に攻めていきました。
永瀬王座は桂を取らせる代償に、9筋から攻めていきます。先手が歩切れになっているからこその攻め筋です。この攻めに対して木村九段は▲5五角と飛車取りに打ち、攻め合いに出ましたが、局後にこの選択を悔やみました。
「ちょっと辛抱が足りなかったかな。本譜、(相手の攻めが)結構うるさかったですからね。迷いましたけどね」と木村九段。いったん▲6六飛と引いて、飛車を安定させた方が良かったとのことです。
木村九段は角で飛車を入手し、その飛車を▲9一飛と敵陣に打ち込んでいきます。それに対して永瀬王座は△9二角と自陣角を打って受けました。8一の銀にひもを付けて9一の飛車を封じつつ、6五の飛車取りにもなっている一石二鳥の一手です。
先手が▲6六飛と飛車を逃がしたところで、永瀬王座は猛攻を開始します。まずは馬を切り飛ばし、相手の飛車を攻めつつ桂・香・と金で木村玉に襲い掛かります。桂・香ににらまれている6七の地点を補強するために、木村九段は▲5八銀と上がりましたが、永瀬王座の次の手が本局の勝因と言っても過言ではない一着でした。
一気呵成に攻め込んでいきたくなりそうなところで、ふわっと△6五角と上がって飛車取りをかけたのが絶妙手でした。もし先手が飛車を横に逃がせば、△8七角成で先手玉に対する包囲網が完成します。木村九段は▲7三飛成と飛車を成り込みましたが、時間差で△3八角成と角を切って銀を入手するのが継続手。いきなり△3八角成とするのではなく、一回△6五角と途中下車をして飛車を7三の地点に呼び込んだことで、△8二銀打が竜と飛車の両取りになるという仕組みです。
木村九段は竜も飛車も逃げずに、▲4一角とタダ捨ての角打ちの王手を放ちます。この角を取ってしまうと事件発生となるところでしたが、永瀬王座は冷静に玉をかわしました。
さらに木村九段の猛攻にも的確に応対。自玉を鉄壁にする、まさに「負けない将棋」の指し回しで逆転のチャンスを与えず、相手の攻めが息切れしたタイミングで鋭く反撃に転じました。
そして攻めるだけ攻めた後、最後は当たりになっていた金で馬取りをかけて勝負あり。馬を逃がす余裕はなく、かと言って馬を切っては攻め駒がなくなってしまう木村九段は、ここで投了を告げました。
感想戦の最後で木村九段は「飛車を引く辛抱をしておくべきでしたね。積極性が裏目に出たというところですかね。それに尽きるかもしれないですね」と本局を総括しました。以降は永瀬王座の的確な指し回しを見るばかりとなってしまいました。
この勝利で永瀬王座は3勝目を挙げ、王座防衛を決めました。これで3連覇です。「相掛かりが多いシリーズだったんですけど、とても難しい将棋が多くて、苦しい展開が多かったのかなと思います」とシリーズを振り返り、3連覇については「結果が出てよかったなと思います」と語りました。
一方、王位に続いて2度目のタイトル獲得はならなかった木村九段。「自分でも気づくようなミスが多かったので、そこが反省点です」と振り返りました。