配信トラブルに見舞われ大会開始が1時間遅れるなど、波乱の旗揚げとなった『RIZIN LANDMARK vol.1』だが、闘いは熱かった。全4試合中3試合が1ラウンドでの鮮やかなKO&一本決着。
そして注目の朝倉未来vs.萩原京平は、凄絶な打撃戦が予想される中、まさかのグラウンドの攻防に。萩原が得意とする打撃を完全に封じ込めた朝倉が判定勝ちを収め再起を果たした。敗者となった萩原は何を思ったか─。
■まさかのグラウンド攻防
「僕が弱かったです、相手の方が強かった。自分が思い描いていた展開にはなりませんでした。打撃戦の方が盛り上がったと思いますけど、相手の弱点を突くのがMMA(総合格闘技)ですよね。相手の出方に対応できなかった自分の実力不足、練習不足でした」
試合後、敗れた萩原京平はそう話した。
10月2日、東京都内のシークレットスペースで開催された『RIZIN LANDMARK vol.1』のメインエベント、朝倉未来(トライフォース赤坂)vs.萩原京平(SMOKER GYM)は、戦前の予想とは異なる、まさかの展開となった。
ストライカー同士の対決。倒すか倒されるかの打撃戦必至と思われたが、グラウンドでの攻防に終始する。この形に持ち込んだのは朝倉だった。そして、見事なまでに萩原の良さを消し完勝した。
3つのラウンドすべてにおいて、朝倉が序盤にアッサリとテイクダウンを決めた。
胴や足にタックルを仕掛けたのではない。タイミングを外して接近、ニータップで萩原を後方に倒したのだ。通常のタックルなら凌げたかもしれない。だが、想定外の朝倉の仕掛けに萩原は対応しきれなかった。
グラウンドの展開になると、朝倉の独壇場。
1ラウンドの最初こそ萩原はエスケープに成功するも、その後はテイクダウンを決められると立ち上がることができず、朝倉のコントロールから逃れられない。ヒジ打ち、パンチを顔面に浴び続け顔を赤く染めることになった。
「(朝倉が)テイクダウンを狙ってくることも想定してはいました。作戦としては、テイクダウンをされたら、敢えてバックを取らせて立ち上がるつもりでしたが、なかなかうまくできなかった」
そう萩原は振り返る。打ち合いに持ち込めなかったことが「誤算」。
萩原は必殺の右ストレートを朝倉の顔面に一発も当てることができなかった。
さぞかし悔しかったことだろう。
敗れた直後、リング上で彼は朝倉にこう言った。
「絶対にやり返すから」
■朝倉のやさしいコメント
闘いの前に萩原は朝倉を激しく挑発した。
「相手は上から目線で舐めた態度をとっているので、ぶっ飛ばしたい。この大会が終わった後に(朝倉が)ABEMAで素人をいじめるクソつまらない企画<朝倉未来にストリートファイトで勝ったら1000万円/10月31日>をやると聞いて腹が立った。俺と闘ってただで帰れると思うなよ!
実力は俺が上。自信もある。朝倉未来からすべてを奪い取ってやる」
そう叫ぶ萩原に対して、朝倉の態度は「静」だった。
「実力が違うので何を言われても気にならない。今回の試合は準備運動」
そう返した後、本人の前ではないが朝倉は、こうも言っていた。
「萩原クンは、あんな風に挑発してくるけど結構いい奴だと思う。地下格闘技から這い上がってきて俺と同じような境遇。応援したい気持ちもある。でも今回は俺には負けることになるでしょう。それでもめげずに頑張って欲しい」
さらに試合翌日の朝倉のコメント。
「彼は本当に喧嘩が強いタイプ、メンタルも強いし華もあるよ。実力がついてきたらスターになれるかもしれない、2、3年後にね。冷酷さもある。俺と似た匂いを感じた」
朝倉の萩原に対する言葉は、やさしいと感じた。
それは、萩原のファイターとしてのポテンシャルを認めているからだろう。だから試合でも打撃を警戒し、敢えて打ち合わず確実に勝つ方法を選んだ。
RIZIN榊原信行CEOは、こう話した。
「終わって控室に行ったら彼は泣いていました。負けましたけど、萩原京平の存在感、カリスマ性は感じることができた。年内にも試合を組んで実績を積んでもらいたいと思う」
萩原本人も、このままで終わるつもりはない。
試合後、出血した左目横に痛々しい傷を目立たせながら彼は言った。
「この負けは絶対に返さんとあかん負け。朝倉未来に再度辿り着くまで死に物狂いで練習します」
まだ25歳、伸びしろは十分にある。体幹をさらに強化し、技術的なトレーニングにも励むことだろう。
ただ、目指すスタイルをしっかりと定めることは重要だと思う。弱点(寝技)を最低限克服し、長所である打撃をバリエーション豊かにアップさせることで萩原は輝きを増していく。逆に必要以上に総合的技術を意識すると魅力を失ってしまうのではないか。進化を待ちたい。復帰戦は、大晦日か。
10月24日、神奈川・ぴあアリーナMM『RIZIN.31』では、RIZINフェザー級タイトルマッチ(王者・斎藤裕vs.挑戦者・牛久絢太郎)が行われる。この試合の勝者と朝倉が大晦日に闘う可能性も出てきた。
総合格闘技熱は、年末に向けてさらに高まっていく─。
文/近藤隆夫