ヤマハ発動機 試作技術部門は、サードウェーブコーヒーの火付け役となった「ブルーボトルコーヒー」のドリッパー検査治具の企画・設計・製造を担っている。
「ブルーボトルコーヒー」のドリッパーの特徴として、1つの穴から糸のようにまっすぐ落ちるコーヒーがある。それを生み出しているのは、ドリッパーの底に開いたミクロン単位で管理される小さな穴(抽出口)だ。その極めて高い精度へのこだわりを、ヤマハ発動機の試作技術部門が縁の下で支えている。
同社の試作技術部門は、研究開発部品や量産部品を試作する重要な機能を担っている。さまざまな素材や、加工技術、設備、人材等が整った部門は、ものづくりリソースの集積地と言える存在であるとのこと。そのリソースを活かし、昨年は感染防止用のフェイスシールドの量産も行ったという。
試作技術部門が携わったもののひとつに、ブルーボトルコーヒーのドリッパー検査治具の企画・設計・製造がある。ブルーボトルコーヒーでは、有田焼の銘窯「久右エ門」の手によるドリッパーを使用しているが、このドリッパーは適切なスピードで一定の流れを生み出すリブの設計や、特徴的な1穴の構造など、美しいシルエットにたくさんのこだわりが詰め込まれている。
焼き上がったドリッパーは、有田焼の匠が試作技術部門製造による検査治具を用いて、抽出口の大きさの検査を行う。検査治具の先端部(ゲージ)には、目視では確認できないいくつもの知恵や高度な加工技術が盛り込まれている。楕円状のテーパー加工もそのひとつだが、あまりに微細なそのテーパーラインを肉眼で捉えることは非常に難しいとのこと。
ゲージに記された2本のラインのわずかな間がブルーボトルの品質基準であり、そこに適合したドリッパーのみが製品として認定される。ドリッパーの検査は、ブルーボトルコーヒーが提供するフレーバーの「最後の砦」とも言える重要な工程になるという。この精密な削り出しの工程には、MotoGPマシン「YZR-M1」の部品加工でも活躍する高性能マシニングセンタが用いられている。
ヤマハ発動機 試作技術部の後藤春崇氏は、ドリッパー検査治具の依頼が入ってきたとき、「100分の1ミリのこだわりを持つコーヒーに、我々試作部門ならではの知識や技術で役に立ちたい」と考えたと話す。
「ブルーボトルコーヒーのこだわりと、有田焼の伝統の技。そうした仕事への誇りを持つ人々の連鎖によって、一杯のおいしいコーヒーがいただける。私たちがつくった治具は、その価値を証明する匠の印鑑だと考えています」(後藤さん)。
治具は窯元で毎日使われている。後藤さんは、「窯元の匠から『精度の高さだけでなく、使う者のことを考え抜く姿勢に、ものづくりの仲間として強く感銘を受けた』と労われたことが嬉しかった」とも語っている。