大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第28回「篤太夫と八百万の神」(脚本:大森美香 演出:黒崎博)では明治2年、静岡で働く篤太夫(栄一、吉沢亮)に新政府に出仕するよう声がかかり、しぶしぶ東京を訪れ新政府の大蔵省の大隈重信(大倉孝二)と舌戦を繰り広げた。
少年時代から口の巧さには定評のある篤太夫を凌駕する大隈の話の巧さ。前回まで刀で斬り合っていた物語が今度は話芸勝負になって楽しく見ることができた。喜劇の得意な俳優・大倉孝二のどこかユーモラスで斜に構えた語り口とあくまで熱く真面目でどストレートな吉沢亮の対比がおもしろく、座って会話しているだけにもかかわらず見入ってしまった。
篤太夫の口の達者ぶりは血洗島で生活していた時から発揮されていた。最近では第26回で篤太夫が血洗島の人たちや慶喜(草なぎ剛)にパリ留学の様子を面白おかしく話して聞かせたことで我々視聴者も改めて篤太夫の話す力に圧倒されたところだった。ところが第28回では篤太夫はこれまでのように自分のペースにもっていくことができない。まず篤太夫は断る気満々で皇城(元江戸城、今の皇居)にやって来ると、そこで大隈と同じ大蔵省の伊藤博文(山崎育三郎)に会う。伊藤は新政府に仕える前はイギリス公使館を焼き討ちしたことがあったがその後イギリス留学しすっかり異国びいきになったと打ち明け、「頭は柔らこういかんにゃなぁ」と悪びれない。その話に篤太夫はなんだか丸め込まれてしまう。
本当は篤太夫がかつて横浜で外国人を焼き討ちにしようとしたことを理由のひとつにして出仕を辞退しようとしていたのだが……。つまり篤太夫と伊藤は似た者同士。時代に流れに乗ってより良い生き方を選ぶタイプである。そんな伊藤は大隈のことを「手強い」と篤太夫に警告する。
そしてその大隈。まず篤太夫が先制攻撃。表の馬はナポレオン三世から先の上様(慶喜のこと)に贈られたにもかかわらずなぜそれがここに? と訊ねる。大隈は第27回、パリ時代に篤太夫が増やしたお金をさすがに新政府の懐に入れることはしなかったが馬はもらってしまっていたわけだ。それを指摘されて黙ってしまったところ出仕を断る篤太夫。それを聞いている伊藤は「誰かさんに負けず劣らずへらず口だ」と感心する。
大隈はここで引くような人物ではない。ここから急にお国言葉(佐賀弁)になって反撃。慣れた言葉によって大隈は調子づき軽快にまくしたてていく。聞き取れない言葉に篤太夫は気圧されていく。「新政府においては すべてが新規に種のまき直しなのであ~る!」と主張する大隈。「あ~る!」「あ~る!」と連発されて篤太夫も燃え上がりまくしたてる。「さもありなん! さもありなん! さもありなん!」と勢いよく持論を語りだす大隈。なぜか伊藤が間に入ってくるが大隈の勢いが止まらない。「君は新しか世ば作りたいと思ったことはなかか?」と篤太夫に問う。
熱太夫にも思い当たる節はある。「俺が守ってやんべえこの国を」(第1話)、「俺はこの世を変えたい」(第8回)、「天子様を戴き王道を持ってこの世を治める」(第11回)、「やむをねぇ。やっちまいましょう!」(第14回)、「どんなことになっても この手で 日本のために尽くします」(第24回)と過去、新しい世の中をこの手で作ろうと豪語してきたことが走馬灯のように蘇る。