2023年3月公開予定の映画『シン・仮面ライダー』と、2021年10月1日から催される『庵野秀明展』の合同記者会見、題して『シン・仮面ライダー対庵野秀明展』が9月30日、国立新美術館で行われた。ステージには『シン・仮面ライダー』で脚本・監督を手がける庵野秀明氏と、仮面ライダー/本郷猛役・池松壮亮、緑川ルリ子役・浜辺美波が登壇し、本作にかける強い意気込みを語った。
『シン・仮面ライダー』とは、1971年に放送開始した連続テレビドラマ『仮面ライダー』の誕生50年を記念し、『シン・ゴジラ』(2016年)『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021年)などの大ヒット映画を手がけた庵野秀明氏が脚本・監督を務める作品である。会見の最初、LEDスクリーンに映し出されたのは、初公開となる『シン・仮面ライダー』プロモーション映像(A)だった。サイクロン号で荒野を疾走する仮面ライダーの姿を捉えたスピーディーなこの映像は、『仮面ライダー』第1話「怪奇蜘蛛男」オープニングの忠実なリメイク。サイクロン号や仮面ライダーの各部分を映し出すカット割りのタイミングから、ラストに流れる蜘蛛男の「恐怖シーン」までもがオリジナルのとおりに再現され、仮面ライダーファンの心を一瞬で貫いてしまった。
ステージには、仮面ライダー/本郷猛を演じる池松壮亮、ヒロイン緑川ルリ子を演じる浜辺美波、そして本作のメガホンを取る庵野秀明監督が登場した。
会見に先立ち、映画の中で仮面ライダーが乗るスーパーバイク「サイクロン号」のお披露目が行われた。特徴的なカウリングにはライトが4つ、中央には立花レーシングチームのエンブレムが入り、アクセントになっている。
いきなり松葉杖姿で登場した池松は「撮影に先立ってのアクション練習で靭帯を痛めてしまい、一週間は足を(地面に)突くなと言われまして……」と説明。仮面ライダー/本郷猛の設定である「改造人間」にからめて「改造手術に少しだけ失敗したけれど、撮影には支障がないようです、と(記事に)書いていただければ」とジョーク交じりに続け、周囲の笑いをさらった。
『仮面ライダー』初期エピソードのヒロインと同じ役名の緑川ルリ子役を演じる浜辺。出演が決まったときのことを尋ねられると「仮面ライダーは自分が小さいころから大好きでした。そんな作品にヒロインとして携われる喜びと、庵野監督がどんな物語を作り上げるのだろうという強い期待があります」と、やや興奮気味にコメントした。
2人のキャスティングについて庵野監督は「僕の中では本郷猛というと藤岡弘、さんが演じた50年前の『仮面ライダー』の印象がものすごく強い。しかし、これを踏襲するのであれば、自分の中では消化しきれない。50年前とは違う本郷猛を作り上げよう……と考えたとき、池松くんが演じてくれるなら、そういうイメージにピッタリだなと思いました。浜辺さんは、ヒロインをどうしようかな……と思っていたとき、会社に貼ってあった東宝のカレンダー(8月)を見て、この人はいいなとひらめいて決めました」とそれぞれの起用の決め手を明かした。
1971年放送の『仮面ライダー』を初期から観ていた庵野監督は、作品の魅力を「怖さとカッコよさ」と表現した。「第2話『恐怖蝙蝠男』は夜のマンションそばでライダーと蝙蝠男(人間蝙蝠)が戦うんですけど、受信状態のあまりよくないテレビだと、もう画面が真っ黒なんですね。真っ黒な中で、仮面ライダーとショッカー戦闘員がうごめき、戦っている。何が起きているかわからないんだけどカッコいい……というのが、僕の中での一番の魅力です」と、仮面ライダーの基本理念である「怪奇アクションドラマ」の要素を高く評価した。その後も庵野監督は仮面ライダーシリーズのファンであり続け、「平成仮面ライダー」では『仮面ライダー555』(2003年)や『仮面ライダーカブト』(2006年)が特にお気に入りだという。「最近は忙しくてニチアサ(日曜朝)のライダーはオンタイムで観ていませんが、TTFC(東映特撮ファンクラブ)の見逃し配信でチェックしています……ちゃんと宣伝もします(笑)」と、現役の仮面ライダーファンであることを強調する庵野監督は、今一度初期『仮面ライダー』の永遠なる魅力として「アクション、音楽、効果音」の3つを上げ、50年にわたってファンを魅了し続けるクオリティの高さについて熱っぽく語った。
本作で、特にファンからの興味をそそるポイントとして「50年前の仮面ライダーを現代風にリ・デザインする」作業がある。庵野監督は本作のデザイナーについて「3人います。出渕裕という、この世界(アニメ・特撮作品)の大ベテラン。そして『エヴァンゲリオン』でメカを主にやってくれていた山下いくとくん、あとはウチの会社(カラー)にいる前田真宏。彼はウルトラマンパワード、(平成)ガメラ、シン・ゴジラをデザインして、今回は仮面ライダーをやっているという稀有な人です。彼ら3人で手分けしてデザイン作業をやってくれています。こちらのサイクロン号は山下くんですね。プロモーション映像に映っていた『常用サイクロン(アクションに適したカウリングなしのオートバイ)』も彼です。今回のデザイン作業でたいへんなのは、50年前の優れたイメージからなかなか離れられないところ。でも、昔のラインを踏襲しつつ、現代風にならないかなと思っていたら、山下くんがこうやってしっかりと形にしてくれたのがよかった。仮面ライダーのデザインも二転三転したんですけど、最終的には50年前のイメージに戻るものだなあと思いましたね」と、オリジナル『仮面ライダー』の良さを抽出しながらも、現代風の新しいヒーロー像としても通用する、デザイン作りの難しさについて語った。
庵野監督はまた、今回のプロモーション映像について「50年前のオープニング映像をなるべく踏襲しました。サイクロン号が走る背景に使われた『回転バック』を今回新たに作っていますし、仮面ライダーのマスクや手、足のアップカットではすべて池松くんが演じています。そんな形で、50年前を踏襲することで、新しい映像にならないものかなあと考えながら作っています」と、徹底的にオリジナル『仮面ライダー』を見つめ直すことによって、今の観客に強くアピールできる作品を生み出したいという意欲をのぞかせた。
往年の大ヒット作品を現代風にリニューアル、リメイクするにあたって、オリジナルの要素をどこまで残し、どこを切り捨てるか、はクリエイターにとって重要な課題といえるが、庵野監督はこれについてどんな風に考えているのだろうか。「ノスタルジーだけではなく、新しいものを送り出したい……と考えている一方で、ノスタルジーも捨てたくないんですよ。50年前に、毎週テレビで『仮面ライダー』を楽しんで観ていた人たちに向けても作りたいですし、あのころ生まれていなかった現代の青年や子どもたちが観ても面白いと思えるものを目指しています。ノスタルジーと新しさの間を取るのではなく、両者が融合したような作品ができないかな、と今まさに模索中です」と、庵野監督から強い信念にもとづく頼もしい言葉が返ってきた。
これから『シン・仮面ライダー』の撮影に臨む池松は「良い作品になるよう、注目していただけるよう頑張ります。この国の夢を引き継ぐつもりで、50年の時を越えて新しいものを生み出していきたいと思います」とコメントし、決意を新たにした。
浜辺も撮影への意気込みとして「この作品に参加できる感謝を噛みしめながら、庵野監督と仮面ライダーにしがみついて、素敵な作品を作れるよう頑張っていきたいです」と明るい笑顔と共に語り、強い意欲をのぞかせた。
最後にマイクを手にした庵野監督は「今朝の新聞(9月30日朝日新聞朝刊の広告)で僕が仮面ライダーのスーツを着ている昔の写真が出ていましたけど、あれだと僕が仮面ライダーを独占しているというか、『僕の考えた仮面ライダー』を好きに作るって印象を持たれかねません。そうではないんです。僕だけが楽しいのではなく、映画を観てくださる方々が『面白い!』と思ってくれる、こりゃいいや!と喜んでくれる作品にしていきたいんです。僕の夢を……と書いてありましたが、それよりは、僕と同じ時代を生きてきた人たちが『こういう仮面ライダーもいいな』と思ってもらえるような作品を作りたい。そして、もっと後になって生まれた人たちや、令和のライダーが好きな人たちにも楽しんでもらいたいです。そして、今ニチアサでやっているライダーとは違う、新しいラインの『仮面ライダー』をシリーズとして作ることができないかなというところまで考えています。これは東映さんに対するサービス発言です(笑)。たくさんの人に楽しんでもらえる作品になれば、その上で僕自身が『面白かったな』と感じることができると思います。まだ撮影はこれからですし、公開は1年半くらい先になります。面白い作品に仕上げますので、みなさんよろしくお願いいたします!」と、自分を含むたくさんの人が最高に楽しめる『シン・仮面ライダー』を作るべく、力強いコメントを残してくれた。
映画『シン・仮面ライダー』は2023年3月に公開される。
(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会