山崎八段は初日が出ずに4連敗

第80期A級順位戦(主催:朝日新聞社、毎日新聞社)の4回戦、▲山崎隆之八段(10位、0勝3敗)-△佐藤康光九段(6位、1勝2敗)戦が9月29日に東京・将棋会館で行われました。結果は96手で佐藤九段が勝利。最後は急転直下の決着でした。本局の終盤戦と感想戦の模様は朝日新聞社のYouTubeチャンネル「囲碁将棋TV -朝日新聞社-」でご覧いただけます。


第80期A級順位戦リーグ表

先手番の山崎八段が得意の相掛かりを採用した本局。先に工夫したのは佐藤九段でした。20手目に△4二銀が新手で、銀を積極的に活用しようという一手です。

ところがこの作戦を佐藤九段は局後に悔やみます。山崎八段にシンプルに▲3四歩と横歩を取られてしまい、その一歩損をカバーする有効な手順がなかったようです。「横歩を取られちゃうんじゃ銀上がりは軽率でしたね。だから(誰も△4二銀を)やらないんですね。そりゃそうだよな。作戦が消極的でしたね。横歩取られちゃうんじゃだめでしたね」と感想戦でぼやきました。

一方の山崎八段も、優位に立つ順を逃したと後悔。夕休前の中盤戦で相手の作戦をとがめきれず、ひどかったと語ります。「しっかり読まないといけなかった……」「ことごとくいい勝負になる順を逃してますね。しかもノータイムで」とこちらもぼやきが止まりません。

それでもなお、夕休後の局面で山崎八段にチャンスが訪れます。チャンスと言っても優位に立つ順ではなく、千日手でやり直すチャンスです。感想戦で佐藤九段は打開する順を探りますが、無理に変化すると今度は後手が悪くなってしまうとのこと。「千日手にするしかないですね。こっちは」と結論付けました。

山崎八段はこのチャンスも逃してしまいました。これで佐藤九段がわずかに優位に立ったようです。「この(我慢の手順で)千日手を嫌う意味がよく分からないな。全然分からない。ひどい手順ですよね。そっか、大歓迎という感じでやる一手ですね」「中盤大事なところ、3回良くなる順を見送っているので。ノータイムでピシピシやった手が全部ひどい手だなと思って。夕休で心を入れ替えて耐えるつもりでやったつもりが、全然心が入れ替わってないですね、耐えられなかった。そっかぁ……」と山崎八段。無念さが画面越しからも伝わってきます。

そして事件が発生しました。94手目、角取りをかけられた佐藤九段は、角を1五へと逃がします。2七の馬との協力で、敵陣をにらみます。ここで山崎八段は1分の考慮で▲3六銀直と着手。これが痛恨の「ポカ」でした。

この手を見た瞬間、佐藤九段は目を見開き、思わずのけぞります。それから数秒後、山崎八段もため息をつきながら天を仰ぎました。中継していたカメラには、山崎八段のやってしまった……という表情が映し出されました。

▲3六銀直には△4九馬で金を取る手があります。▲同玉には△4八金で詰み。この詰みを回避するには玉を逃がすしかありませんが、そうすると金に続いて飛車もボロっと取られてしまって収拾がつきません。△4九馬を指された直後に山崎八段は投了を告げました。

駒が片付けられ、感想戦も終わろうかというところで、山崎八段からこのうっかりについて切り出していきました。観戦記者への配慮でしょう。「△4九馬をうっかりしたんで。手順前後をしてしまいました。最後恥ずかしすぎて(感想戦ではそこまで)行かなかったんですけど」と明かしました。

本譜の数手前に▲3六銀直とし、その後に本譜の順にするのがよく、それなら佐藤九段が有利なものの、まだ難しかったようです。△4九馬が生じてしまうのが、手順前後の重大な罪でした。

この勝利で佐藤九段は2勝2敗のタイにしました。現在トップを走っている斎藤慎太郎八段は3勝0敗。星2つ差がついてはいますが、まだまだ挑戦の可能性は十分にあります。

一方、痛恨の敗北を喫した山崎八段は4連敗。初のA級で苦しい戦いが続いています。早く初勝利を挙げたいところです。

開幕連敗スタートから連勝で五分の星にした佐藤九段。写真は王座戦挑決の時のもの(提供:日本将棋連盟)
開幕連敗スタートから連勝で五分の星にした佐藤九段。写真は王座戦挑決の時のもの(提供:日本将棋連盟)