2030年には自動車販売の80%、2040年には同100%を電気自動車(EV)/燃料電池自動車(FCV)にするとのロードマップを示したばかりのホンダ。そんな中で発売となった新型「シビック」は純エンジン車で、マニュアルトランスミッションの設定もある。エンジン×MTのシビックは今回で最後になるかもしれないが、開発陣の思いは? 購買層はどのあたり? 気になることを聞いてきた。

  • ホンダの新型「シビック」開発陣

    ホンダの新型「シビック」について広報担当の三浦元毅氏(右下)、パワートレーン担当の松井亮氏(左上)、インテリア設計開発担当の小田桐周平氏(左下)、先進安全システム担当の塚原英明氏(右上)に話を聞いた

Z世代狙い? 新型「シビック」のターゲット

――まず、新型シビックを購入している世代はどのあたりですか?

三浦氏:まだ正確で細かい数値は出ていませんが、速報値としては20代と40代の若いユーザーさんからオーダーが来ています。日本ではさらに、初代や「ワンダーシビック」に乗っていたという世代からも支持してもらっています。

「シビック=コンパクトなFF2BOX」といったシビック像をお持ちになっている方でも、今の役割としてのシビック(Cセグメントの4ドアハッチバック)は理解していただき、選んでいただいているようです。

新型シビックのターゲットユーザーとして設定した「ジェネレーションZ」世代は、生まれながらにしてインターネット環境で育った、1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代です。モノの本質や個性を大事にする世代と捉えていますが、ここにはしっかりと訴求できていると思います。

  • ホンダの新型「シビック」

    新型「シビック」はZ世代をターゲットに据えるクルマだ

――CVTとMTモデルの両方に乗りましたが、純エンジン+MTの組み合わせは楽しいですね。

松井氏:シビックのMTモデルは、現行型(先代モデル)でも販売台数の3割と高い比率です。クルマを作る側のホンダスタッフもMT好きが大多数なので、シビックにMTを残していくことには十分な価値があると思っています。それで、今回も設定することができました。

――こだわった点は?

松井氏:シフト操作のフィーリングとして、入れた時のかっちり感を出しました。それと、スポーティー感を出すためのショートストローク化です。やっぱり、クルマを本当に意のままに操りたい、クルマとの一体感を味わいたいとすると、2ペダルより3ペダルになります。それを高めるためにシフトフィール、つまりドライバーが直接触れる部分の感覚にはこだわりました。

  • ホンダの新型「シビック」

    確かに新型「シビック」は、シフトフィールが気持ちいいクルマに仕上がっていた

ホンダの電動化宣言に何を思う?

――2040年の完全電動化についてアナウンスがありましたが、エンジン+MTのシビックはこれが最後になりますか?

松井氏:先代モデルを作るときもそうでしたが、電動化の波がどんどんと押し寄せてきているので、毎回、これが最後と思って開発しています。なので、本当に最後になったとしても、後世に残っても恥ずかしくないパワートレイン(エンジン)、トランスミッションを開発するという思いでやってきました。

まだ、世界にはエンジン+MTモデルはたくさんあると思いますが、緻密な操作感や体感に合うといった感覚を(シビックが属する)Cセグメント内で味わうとしたら、最高のものができたと思っています。

  • ホンダの新型「シビック」

    Cセグでエンジン+MTのクルマを探すなら、迷わず新型「シビック」だ

――水平基調のインテリアは視界がよかったです。

**小田桐氏:「爽快シビック」というコンセプトを達成するために参考にしたのが、3代目の「ワンダーシビック」です。特にワインディングでダイナミックに走行してもらうためには、水平基調のダッシュボードは車両感覚がつかみやすく、視界の切り取り方のバランスもよくなります。

  • ホンダの新型「シビック」

    水平基調のダッシュボードで視界良好なインテリア

**小田桐氏:特徴的なメッシュのエアコングリルは全くのオリジナルです。社内スタッフのアイデアの中から選んだのですが、見た目がよくて機能性も高く、他に対して優位性を発揮できる造形だと思いました。その自信もあります。

あまり攻撃的ではない、すっきりとしたインテリアのデザインも、ジェネレーションZ世代にはエモーショナルに感じていただけるはずです。

  • ホンダの新型「シビック」

    エアコングリルはメッシュ状になっている

――追従運転ではメーターのグラフィックが変わり、テスラ車のようにクルマの形まで反映されるようになっていますね。

塚原氏:それはトレンドというよりも、先進安全システムについて、クルマと人のコミュニケーションという観点で考えたとき、システムの状況が直感的に理解できるHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)はどうあるべきかを追求した結果です。リアルにシステムの状況を伝えることが、クルマとの信頼関係につながる。そう捉えて開発したのがこの表現方法です。日本だけでなく、先行発売した米国でも同様の表現方法をとっていて、評判もいいですよ。

――2040年完全電動化についての感想は?

松井氏:パワートレイン担当としては、ハイブリッドや電動化を直接担当していないので、自分の仕事がいつまで必要とされるのか、不安な面はもちろんあります。ただ、先進国以外の国ではもうしばらく需要がありますし、ペトロール車(ガソリンで走る内燃機関搭載車)であり安心・安全で環境にも優しいクルマを提供するという課題は残っています。そこにモチベーションをもって開発を続けるつもりです。

塚原氏:先進安全をやる前はパワートレイン、特にハイブリッドの制御システムのソフトウェア開発をやっていました。その時は、ペトロールに比べ、ハイブリッドはエモーショナルではないということが課題視されていて、なんとかそれに負けないクルマを作ろうと頑張ってました。

実際、ホンダからペトロール車がなくなると聞いた時は、それはそれで個人的には悲しい気もしましたが、松井さんの話にあったように需要が完全になくなるという話ではなく、今までペトロールでやってきたものの完成版を出しつつ、それを電動車の方にうまくつなげたいと考えています。そうして他社に負けないクルマを出せるようになればいいのかなと前向きに捉えていますね。

小田桐氏:今回のMT車もそうですけれど、本当に最後と思っていて、恥ずかしくないように、そして長く使っていただけるようにと考えて開発しました。長持ちしてなかなかへたらない、そんな材料選びもやっています。

EV化については、ホンダが強みとする「走り」の面では差がつけにくい領域に入っていくと思います。そこではインテリアだったり、エンターテインメントだったりといった部分に勝っていける領域があると思うので、前向きに取り組んでいきたいです。