受けに回った後、鋭く反撃して快勝
第71期ALSOK杯王将戦(主催:スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社)の挑戦者決定リーグ、▲糸谷哲郎八段-△藤井聡太三冠戦が9月27日に関西将棋会館で行われました。結果は82手で藤井三冠の勝利。3期目の王将リーグで白星発進を決めました。
3期連続で王将リーグに挑む藤井三冠。第69期では勝てばタイトル初挑戦となる最終局で、広瀬章人八段に敗れ、挑戦ならず。第70期は開幕から羽生善治九段、豊島将之竜王、永瀬拓矢王座に相次いで敗れて3連敗。その後3連勝で星を五分に戻したものの、順位の差でリーグ陥落となってしまいました。
それでも藤井三冠は、今期二次予選で石田直裕五段、稲葉陽八段に勝利して、再びリーグ入りを果たしました。そして迎えたリーグ初戦、対戦相手は糸谷八段です。
リーグ戦のため先後はあらかじめ決まっており、糸谷八段が先手番。戦型は両者得意の角換わりになりました。
早繰り銀を繰り出していく糸谷八段に対し、藤井三冠は腰掛け銀で対抗します。糸谷八段は1時間を超える長考の末、5五の地点で銀をぶつけて銀交換を迫る積極策。藤井三冠も強く銀を取りました。
相手に銀を持たれると、藤井陣には飛車金取りに銀を打たれる隙が生じます。その隙をどう解消するのかと思われた局面で、藤井三冠はなんと桂を跳ねて攻め合いに打って出ました。
当然、糸谷八段は銀を打って金を入手。藤井玉の周りには金銀が1枚もいない状態になってしまいました。しかし、これでも大丈夫というのが藤井三冠の卓越した大局観でした。
まず、玉の頭に銀を打ち、ヘルメットを被るのが銀を使った補強の第1弾。これで5筋からの攻めに備えています。
それでもなお、5筋に飛車を配置し、糸谷八段は一転突破を目指します。そして角と銀の協力で、藤井三冠の飛車を入手。丸裸の藤井玉は、相手に飛車を持たれてはひとたまりもなさそうに見えます。
ところがここで、今度は玉の下に銀を打って補強したのが絶妙な一手。これで不思議と藤井玉に先手から迫っていく手が難しいのです。見かけの危なさに惑わされない、藤井三冠の正確な読みと形勢判断が光ります。
糸谷八段は藤井陣一段目に飛車を打ち下ろしますが、次に厳しい狙いがあるわけではありません。ここまでは受けの手が目立っていた藤井三冠ですが、ここで一気にギアチェンジをします。
香で桂を入手したあと、その桂を飛車取りに打ち、飛車が逃げたところで、馬を切ったのが決め手でした。馬で手に入れた桂を王手で打ち、その桂の利きを足掛かりにして金を打って飛車を入手。これで糸谷玉に詰めろがかかりました。
一方の藤井玉には詰みはありません。受けても一手一手と判断した糸谷八段は、ここで投了を告げました。
相手の攻めを剣先ギリギリのところでしのぎ、相手の攻めが止まったら紫電一閃の反撃で斬る。まるで剣の達人のような内容での藤井三冠の勝利でした。
この勝利で藤井三冠は王将リーグ白星スタート。叡王戦、竜王戦に続いてのタイトル挑戦へ向けて好発進です。リーグ2戦目は10月4日に行われる広瀬八段戦です。
一方敗れた糸谷八段の次戦は9月30日の豊島竜王戦。もし連敗を喫してしまうと、挑戦権争いから脱落するのみならず、残留も危うくなってしまいます。