仕事を円滑に、効率的に推進するために重要な能力のひとつ「ワーキングメモリ」。20~30分程度の運動後に機能が高まると考えられていますが、運動した後としなかった後では具体的にどのような違いがあるのでしょうか。テストを使用した実験結果をもとに解説します。
監修:筑波大学 紙上(かみじょう) 敬太 准教授
出典 : Kamijo, K., & Abe, R. (2019). Aftereffects of Cognitively Demanding Acute Aerobic Exercise on Working Memory. Med Sci Sports Exerc, 51(1), 153-159. doi: 10.1249/MSS.0000000000001763
1 認知機能(ワーキングメモリ)の比較実験方法
被験者は30〜50代の働き盛りの男性28名。画面に数字が次々と表示され、2つ前の数字と同じかどうかを答える2バックテストを用意し、ワーキングメモリを評価しました。
プレテストの後、Aの安静条件では自転車にまたいだままの体勢で足を動かさず、Bの運動条件では25分間軽く息が弾む程度に自転車をこぎ続け、直後と30分後の2回、2バックテストを実施。
その回答状況を、Aの安静条件・Bの運動条件ともにグラフにまとめたのが以下になります。
2 実験結果:正答率
正答率は、安静条件では変化が見られなかったのに対し、運動条件では30分後に向上しました。Bの正答率が高まったのは、ペダリング運動がワーキングメモリを活性化したことを示していると言えます。
運動直後には息が上がっていたり、汗をかいたりしていることもあって、少し時間を空けた後の方がパフォーマンスが高まりやすいと考えられています。
3 実験結果:反応時間
テストの反応時間のこのグラフは、下に位置している方が短いことを表しています。安静条件の3回目で反応時間が短縮しているのは、同じテストを繰り返した慣れの影響だと考えられます。
運動条件では、2回目でも反応時間の短縮が見られ、この短縮は運動後の方が顕著です。
4 実験結果:反応時間のバラつき
反応時間のバラつきのグラフを見ると、運動の30分後にのみバラつきが小さくなっていました。
バラつきが小さいということは、回答ごとの反応時間のブレが小さいということであり、安定してパフォーマンスを発揮している、つまり集中した状態が続いていると考えられます。
この実験では、安静にした後よりも自転車運動をした後の方が、全般的にワーキングメモリの活性化が見られ、「はたらく脳」になっていることがわかりました。
つまり仕事前の自転車通勤で、脳の処理能力が高まる可能性が……。ぜひこの変化を、実際に試して感じてみてください。
※この記事は「Cyclingood(サイクリングッド)」掲載「アタマが冴える? はたらく? 自転車運動後の変化。」より転載しています。