ビジネスシーンでよく耳にする「クリティカルシンキング」と「ロジカルシンキング」。みなさんは、この2つの言葉の違いをご存知ですか? どちらも、最適な結論を出すために必要不可欠な思考法です。クリティカルシンキングとロジカルシンキングという2つの姿勢で考察を深めていくことで、課題に対する最適解を導きだすことができます。本記事では、クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違いはもちろんのこと、クリティカルシンキングのメリットやポイント、進め方までまとめてご紹介します。
クリティカルシンキングとは?
クリティカルシンキングを日本語に訳すと、「批判的思考」です。クリティカルシンキングは、アメリカの教育界で使われはじめた言葉で、自分の主観や感情に流されることなく、第三者からの客観的な視点を保ちながら健全な判断を行うための思考法です。
クリティカルの意味
「クリティカル」の語源は英語の「critical」で、重大なさま、危機的なさまという意味もありますが、クリティカルシンキングにおいては、「批判的な」という意味で使用されています。「批判的」といわれると、意見や主張を真っ向から否定するようなイメージをもたれるかもしれませんが、正しくは、物事を鵜呑みにせずに疑うというようなイメージです。
クリティカルシンキングのポイント
クリティカルシンキングを行う際には、意識すべきポイントが主に3つあります。まず「何が目的かをつねに意識する」こと、次に「人には思考に偏りや癖があることを意識する」こと、そして「問いかけ続ける」ことです。
目的を明確に設定し、自分の思考の癖を意識したうえで、その主張は本当に正しいのかと多角的な視点から問い続けることで、精度の高い最適な解を得ることができます。
クリティカルシンキングの例題
以下では、クリティカルシンキングの例題をいくつかご紹介します。上記でご紹介したポイントを意識しながら確認してみてください。
主張:「今いる従業員では全員が会社を17時までに退社できないので、人員を増やす必要がある」
仮説:「従業員が17時までに退社できないのは人が足りないからだ」
疑問:「そもそも1人あたりの仕事量は適性なのか? 」
「人員を増やす前に一人ひとりが仕事をより効率化する方法はないのか?」
主張:「売り上げが落ちたのは、人々が商品に飽きて、関心が薄れてしまったからだ」
仮説:「売り上げが落ちたのは、人々の関心が無くなったからだ」
疑問:「本当に理由は関心が無くなったからなだけか?」
「競合が出てきたからではないのか?」
「適切な顧客にリーチできていないからでは?」
クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違い
今回ご紹介するクリティカルシンキングとあわせ、ビジネスにおいて重要視されている思考法がロジカルシンキングです。
クリティカルシンキングとロジカルシンキングは、相反するものではありません。必要な場面に応じて両者を使いわけたり、うまくかけあわせたりして使うことが重要です。
クリティカルシンキングとは、主張として掲げた前提を「本当に正しいのか?」と問い続けたのちに、その事象の本質を見極めて最適な解を導きだす思考法です。
対するロジカルシンキングとは、「ロジカル」すなわち論理的に考えていく思考法のことを指しており、最適解を導きだすにあたり、各段階や各要素に分類していきながら順序立てて考えていく思考法のことをいいます。
クリティカルシンキングのメリット
クリティカルシンキングという思考法を取り入れるメリットは、主に3つあります。
問題解決における精度を高められる
クリティカルシンキングのメリットのひとつが、問題解決における精度を高められる点です。どのような解にも欠点や抜け穴がつきものですが、クリティカルシンキングによって、矛盾点や懸念事項を発見することができます。それらを取り除いていくことで、要点を明確にし、より的確な解決策を考えることができるからです。
本質を追求できる
クリティカルシンキングによって、本質を追求することができるようになります。その前提や主張に対して本当に正しいのかという疑問を呈することで、主観ではなく客観的に物事をとらえることができるようになるからです。つねに本質を意識することで、無駄な労力を使わなくて済むというメリットもあります。
新しいアイデアや視点が生まれる
クリティカルシンキングによって、新しいアイデアや視点が生まれることがあります。人間誰しも考え方には癖があるため、自分で意識して批判的に思考を深めていかないと考え方が凝り固まり、視点やアイデアの幅が狭まってしまいます。
つねに疑問を持って多角的な視点から考えることで、凝り固まった思考を柔らかくし、さまざまな新しい気づきが生まれます。対応策がひとつしかないと思われていた場合でも、クリティカルシンキングをすることで、新しい選択肢が表れる可能性があるのです。
クリティカルシンキングの進め方
クリティカルシンキングには4つのステップがあります。
ゴールを設定する
「ゴール設定」とは、「どの程度まで」「いつまでに」というような明確な目標を決めることです。このゴールにむけて方法を考えていくので、できるだけ具体的にゴールを想定しておく必要があります。
現状の分析
目標としたゴールと現在との解離を把握するための現状分析を行います。現状がはっきりとわかることで、目標達成のための方法を絞り込んでいくことができます。
課題の抽出
上記の現状分析により、ゴールと現状の乖離を埋めるために「いつまでに何をどれだけ完了させなければいけないのか」といったような課題をみつけることができます。思考の偏りなどが出やすい部分なので、多角的な視点で課題が抽出できるように意識していきましょう。
解決方法を考える
課題を解決するためには、どのようなアクションを取らなければいけないのかなどを、重要度に応じて優先順位を振りわけていきます。
ここでも具体性が重要です。「いつ」「誰が」「何を」「どのように」「どうするのか」といった5W1Hを意識しながら解決方法を導きだし、効果的なアクションプランを作成していきましょう。
クリティカルシンキングの鍛え方
クリティカルシンキングは、鍛えれば伸びる思考法です。下記の2点を意識することで日常生活の中で鍛えることができます。
正確な情報を収集する
実際にクリティカルシンキングを進める前に正確な情報を集めておきましょう。正しい情報が収集できていないと、いくらクリティカルシンキングを行っても正確さに欠けるため意味がありません。最適な解を出すためにも、普段から確かな情報を収集する癖をつけておきましょう。
批判的に考える癖をつける
「批判的に考える癖」をつけましょう。これは「正確な情報を収集」したうえで、すべてを鵜呑みにするのではなく、「果たしてそれは正しいのか?」「なぜそうなっているのか?」など、懐疑的な見方をする癖をつけるということです。このようにして、周囲の意見に疑問を持ったうえで、自分の考えを固めることでクリティカルシンキングが身についてくるでしょう。
クリティカルシンキングを学べる本
クリティカルシンキングの進め方や鍛え方を紹介してきましたが、なかなかイメージが掴めないという人もいるでしょう。このような場合は、クリティカルシンキングについて書かれた本を読むのがおすすめです。
そこで最後に、クリティカルシンキングについて書かれた本をいくつか紹介します。
・「グロービスMBAクリティカル・シンキング」(グロービスMBAシリーズ/ダイヤモンド社)
MBA取得カリキュラムなどに定評のあるグロービス経営大学院でも教科書として使用されている一冊。事例なども豊富に紹介されており、演習問題を解きながら学んでいくことができます。
・「クリティカルシンキング 入門篇: あなたの思考をガイドする40の原則」(E.B.ゼックミスタ/北大路書房)
1996年に発行された、クリティカルシンキングに関するロングセラー。体系的にクリティカルシンキングについて学ぶことができます。
・「クリティカルシンキング 実践篇: あなたの思考をガイドするプラス50の原則」(E.B.ゼックミスタ/北大路書房)
入門篇に続く実践篇。入門篇とあわせて読むことで、クリティカルシンキングの基本を身につけることができるでしょう。
・「実践型クリティカルシンキング 21世紀スキル」(佐々木裕子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)
外資系コンサルティング会社出身の著者による、気軽に読めるわかりやすい一冊。講義の会話形式になっており、演習問題も豊富です。
・「3分でわかるクリティカル・シンキングの基本」(小川進・平井孝志/日本実業出版社)
クリティカルシンキングについて手早く学びたいという人には、この一冊がいいでしょう。ロジカルシンキングやラテラルシンキングといったほかの思考法と対比しながら、クリティカルシンキングを解説しています。
最適な結論を出すためにも重要なクリティカルシンキング
ビジネスシーンでロジカルシンキングと同様に重視されるクリティカルシンキング。「前提を疑う」ことや、思考の癖があることを十分に意識することで、多角的な視点から物事をみることができ、新しいアイデアや今まで気づいていなかった部分にも目が向けられるようになります。
結果として、矛盾や懸念事項をつぶし最適な結論を導きだすことにもつながるので、クリティカルシンキングで物事の最適解を導いていけるよう、スキルを向上させていきましょう。