マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、中国恒大の破たん危機について解説していただきます。
中国の大手不動産開発コングロマリット、恒大集団(英名エバーグランデ。以下、中国恒大)の破たん危機が市場で強く意識されています。銀行や不動産業界に破たんが連鎖し、世界の金融市場にも大きな影響が出る可能性があるからです。
昨年から中国当局は不動産取引の承認厳格化や公有地売却の延期、不動産融資の抑制指導など様々な措置を講じてきました。そのため、巨額の債務を抱える中国恒大の資金繰りが悪化しています。
強大なコングロマリット
ブルームバーグによれば、中国恒大の総資産は2兆元で、中国のGDP(国内総生産)の約2%に相当します。中国国内に2,000社、国外に200社の子会社を持つとされ、中国国内で20万人を直接雇用し、380万人を間接的に雇用しているとのこと。事業内容も主軸の不動産開発のほかに、EV(電気自動車)開発、インターネット、メディア、テーマパークなど多岐にわたります。
モラルハザードの廃絶か、「大きすぎて潰せない」か
中国恒大は昨年にも資金繰りに窮した場面がありました。また、今年に入っても早い段階で経営危機の観測が浮上していました。しかし、中国政府は静観の構えでした。リスクの高い取引が裏目に出ても当局が救済してくれるというモラルハザードを廃絶し、過熱する不動産市場を鎮静化させたいとの意向があったためでしょう。ただし、巨大企業の破たんは経済に大きな打撃となり、ひいては政治の安定を損なう可能性があります。最終的には「大きすぎて潰せない(Too Big To Fail)」として、中国政府が何らかの形で介入する可能性が高そうです。
最終的には「管理された再編(整理)」となりそう
広東省の規制当局は、事業再建を専門とする法律事務所を含む会計や法律の専門家を派遣しました。中国政府が同社に対して、個人投資家への債務返済や米ドル建て社債のデフォルト(債務不履行)回避に全力を尽くすよう求めたとの報道もあります。同社を3分割して国有化するとの観測も浮上しているようです。最終的には「管理された再編(整理)」に進む可能性が高そうです。
「リーマン型」でなく「LTCM型」か
そうであれば、今回の危機は、米当局が静観してリーマン・ブラザースの破たんを容認した08年の「リーマン型」ではなく、FRBが音頭を取って金融機関による救済が実行された98年の「LTCM型」と言えるのかもしれません。
当局が介入した、大手ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の整理は、同社が関与した巨額のポジションの巻き戻しによって市場を大きく揺さぶりました。98年10月5-8日の4日間で米ドル/円は最大24円以上下落しました。もっとも、LTCMの「管理された整理」によって本格的な金融危機は回避されました。FRBも9月から11月にかけて予防的に3度の利下げを実施しましたが、翌年6月には段階的利上げを開始しました。そして、NYダウはLTCM救済からわずか3カ月後に最高値を更新しました。
目先の注目は、米ドル建て債利払いがどうなるか
中国恒大は9月20日の理財商品(金融商品)の利払いを停止しました。23日に到来した5年物米ドル建て債の利払い8,350万ドルも履行が遅れているようです。米ドル建て債発行時の特約条項として、利払いが30日間遅延すれば、デフォルト(債務不履行)と判定されるようです。
ブルームバーグによれば、同社は今年末までに6.69億ドル相当の利払いがあります(うち6.15億ドルが米ドル建て)。また、22年3月に20億ドル、4月に14.5億ドルの債券の償還が控えているようです。現状のままだと、それらの借り換えは難しくなりそうです。
それまでに事業の再編や金融機関・投資家の支援などによって、中国恒大の資金繰りが改善するのか。それとも、当局が直接的に介入するのか。今後の展開からも目が離せません。
中国恒大の株価(香港市場)は20日に一時2.06香港ドルまで低下。休場明けの23日は小幅上昇しました。年初は14.14香港ドル、過去最高は17年10月25日の32.50香港ドルでした。
中国恒大の社債(8年物、残存4年、米ドル建て)利回りは10%台半ばで推移していましたが、今年6月以降に急上昇し、20日に63.6%をつけた後は小幅低下。大手格付け会社による格付けは「C」。