「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト2021」のオンライン入学式および第1回授業が、9月19日に開催されました。
このプロジェクトでは、最新の3D技術を活用した海洋生物の研究を通じて、「将来さまざまな分野で活躍できる人材を輩出すること」を目標にした、中学生向けの講座を実施。第1回の授業では、常勤講師が「研究の基礎」を教える講座と3Dモデリングのデモを行いました。
海洋研究×3Dに研究生がチャレンジ!
海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト2021には、事前審査を通過した9名(中学校1~3年生)が「研究生」として参加。全15回の授業では、海洋のプロフェッショナルが研究をサポートし、3Dプロフェッショナルが3D技術を指導します。この講座は、次世代へ海を引き継ぐため、海を介して人と人とがつながる「日本財団『海と日本プロジェクト』」の一環として行われます。
冒頭、主催者であるNSSの野田祐介氏は「中学校では経験できないことばかりで、悩むこともあるかも知れませんが、素敵な専門家の先生がサポートしてくれるまたとないチャンスです。思いっきり研究に励んでください。皆さんが何を作るのか、いまから楽しみにしています」と挨拶。NSSはCTなどの3Dスキャン技術を提供します。
日本財団 海洋事業部長の中嶋竜生氏は「待ちに待った開催となりました。このプロジェクトは生物の起源である海と海洋生物、そして科学技術の最先端である3D技術のコラボレーションです。異業種の出会いによる創造に期待しています。海には知らないことが、まだまだたくさん眠っています。皆さんの探究心と好奇心を、先生と海にぶつけてもらえたら」と期待感を口にしました。
このプロジェクトには、デジタル3D技術を持つ関連企業の各社が協賛しています。このなかで、ペンタブレットを提供するワコムから、クリエイティブビジネスユニットの角井健一氏が登壇。「半年という限られた期間ですが、将来に向けた大きなチャンスになると思います。楽しんで、しっかり学んでいただければ」と挨拶しました。
このほか、ミマキエンジニアリングはフルカラー3Dプリンタおよび大型3Dプリンタの出力、APPLE TREEは最新の3Dプリンタ、ナノダックスは3Dプリンタのフィラメント、ボーンデジタルは3Dソフトウェアをそれぞれ提供します。
意欲に燃える生徒たち、興味はさまざま
冒頭でも触れましたが、プロジェクトに参加するのは、中学校1年生から3年生までの9名の生徒たち。自己紹介で好きな海洋生物を聞かれると、シロナガスクジラ、ミンククジラ、ジンベエザメ、ウニ、クラゲ、シャチ、ヒトデ、モンガラカワハギ、マンボウと、それぞれ個性的な回答が返ってきました。
将来の目標も多種多様。「環境問題に関心があり、クジラの生活を守っていきたい。人とクジラがより良く生きるにはどうしたら良いか、考えています」、「海洋科学者になる夢を追っています」、「海草が減ってしまっている。どうやったら改善できるか研究して、分かりやすく発表したい」、「新種のクラゲが発見されたけれど、不思議な形状をしていて外からは構造が分からない。3Dプリンタで造形して学術の研究に活かせれば」、「色んな人に海洋生物の魅力を伝えられる人になりたい」など、大人も驚くような知識と熱意を持った生徒が数多く見られました。
3Dモデリングに興味津々!
入学式のあと公開された第1回授業の中で、このプロジェクトの常勤講師として参加する吉本アートファクトリー代表の吉本大輝氏が、3Dモデリングのデモを披露。生徒たちに提供予定のマウスコンピューター「G-Tune」ブランドのノートPCとワコムのペンタブレット「One by Wacom」を用いて、ソフトウェア「ZBrush」の使い方などをレクチャーしていきました。
同席したのは、海洋生物の授業を担当する、東京海洋大学 海洋環境科学部門 助教の中村玄氏。このレクチャーの前には中村氏が、研究者の調査方法の基本として、論文の書き方・読み方を講義しました。中村氏は、3Dデータの活用メリットを以下のように説明します。
「博物館の展示物にはそこまで近寄れないけれど、3Dプリンタで出力すれば色んな角度から見ることができ、いくらでも触って確かめられます。3Dスキャンで読み取った正確なデータであれば、長さを測ることもできる。従来なら解体しなければ分からなかった動物の骨格も、スキャンすれば非破壊で生きたまま手に入りますので、私は自分の頭蓋骨の模型を持っています。マッコウクジラなどの大きな動物は、骨ひとつ持ち運ぶのも大変ですが、全身骨格のミニチュアを作れば簡単に持ち運べます」(中村氏)。
ZBrushによる3Dモデリングは、マウスの代わりにペンを使って、粘土を引っ張ったり付け加えたりするように造形していきます。生徒たちは、その様子を興味津々といった面持ちで見守りました。
かなり専門的で高度な技術のように感じられますが、吉本氏は「最初は難しいように感じますが、皆さんならすぐに慣れると思うので、一緒に頑張っていきましょう」と生徒たちに呼びかけます。ちなみに吉本氏自身も、普段からワコム製のペンタブを使っているそう。
この日は、生徒たちからリクエストのあった「コククジラ」の3Dモデルを、中村氏の助言をあおぎながら造形していきました。
ちなみに、3DCGと海洋研究どちらに軸足を置いているか、何を目的に応募したかは人によってさまざま。鈴木莉沙さん(14)は「以前から動画編集を行っていて、そこから3Dに興味を持った」そうです。3DCG作品の自主制作を行うなかでプロジェクトの存在を知り、「海洋研究という新たな視点から、他の人ともかかわれる制作ができるのは良い挑戦だと考えました」と、自らの志望動機を語っています。
また、宮澤理人さん(13歳)にとって、このプロジェクトは「夢のよう」だったとか。「僕の勉強したい生物×3D、ふたつが合わさったプロジェクトなんて聞いたことがない」と、すぐに応募を決めたといいます。宮澤さんの言う通り、異なる2つの分野を同時に学ぶ機会は貴重といえそうです。
生徒のみなさんが自分の探求心をもとに取り組むことで、どんな成果が生まれるのか。今から楽しみです。