アサーティブコミュニケーションとは、相手を尊重しながらも自己主張を行うコミュニケーション方法です。建設的な話し合いができるうえ、両者にストレスがたまらず人間関係を円滑にする方法として、いま企業で注目を集めています。
本記事ではアサーティブコミュニケーションの意味や例文を交えた実践方法を紹介。成り立ちやメリット、コミュニケーションの3タイプもまとめました。
アサーティブコミュニケーションとは
まず「assertive(アサーティブ)」の言葉の意味を見ていきます。「はっきりとものをいう、はきはきとした」などの意味があり、「assertiveness(アサーティブネス)」は「自己主張」などと訳されます。
それではアサーティブコミュニケーションとはどのようなものなのか、具体的に紹介していきます。
アサーティブコミュニケーションの意味
アサーティブコミュニケーションとは「自己主張をしつつ、相手の主張も尊重したコミュニケーションをとること」とされています。
自己主張というと自分の考えばかりを押し付けてしまう印象もありますが、アサーティブコミュニケーションでは相手の意見や感情にも配慮し、ともに問題解決にあたろうとすることが特徴です。
アメリカで提唱された
アサーティブコミュニケーションという言葉が生まれたきっかけは、1949年、アメリカの心理学者アンドリュー・ソルター氏が著書「条件反射療法」において、人間は本来持つ活動性が社会規範やしつけによって抑圧されており、もっと自己主張する必要があると提唱したことだとされています。
アメリカでは一方で、1960年代から1970年代にかけて黒人差別反対運動や、女性の権利を求める民主化運動など、権利を主張する運動も活性化。これらの要因が重なり、アサーティブコミュニケーションの研究が数多くなされるようになりました。
コミュニケーションの3つのタイプ
アサーティブコミュニケーションについて詳しく見ていく前に、まずはコミュニケーションの3つのタイプについて理解しておきましょう。
アサーティブトレーニングの発案者、アメリカの心理学者でもあるウォルピとラザルスによると、人が自己主張するときは3つのタイプに分かれるとされています。ここではその3つについて紹介します。
アグレッシブタイプ
自分の意見や気持ちばかり強く自己主張して、相手の意見や気持ちを尊重できないことから共感性に乏しいタイプ。アグレッシブタイプの特徴は下記になります。
- 自分と違う考えを受け入れられず、相手を自分に合わせようとする
- 自分の要求を押し付けて相手の気持ちに配慮しない
- 勝ちに対する執着が強く、絶対に負けたくないと考える
- 相手より優位な立場に立ちたがる
ノンアサーティブタイプ
アグレッシブタイプとは対極にあり、相手の意見や感情を尊重するあまり、自己主張をすることが苦手なタイプです。ノンアサーティブタイプの特徴は下記になります。
- 自己主張が苦手、できない
- 「難しそう」「できるかも」など曖昧な表現が多い
- 相手を優先し、自分を犠牲にする
- 頼まれたら気が進まなくても断れない
- 相手を気遣いできる反面、相手も自分に気遣いしてほしいと考える
アサーティブタイプ
アサーティブタイプは自分と相手の意見が違っても、対話を通して自己主張して、お互いが納得できる結論にたどり着こうとするもの。アサーティブタイプの特徴は下記になります。
- その場に応じた適切な表現を選べる
- 自分の気持ちや考えをしっかり示すことができる
- 相手の気持ちや考えに寄り添うことができる
アサーティブコミュニケーションを実践するDESC法と例文
「DESC法」とは、アサーティブコミュニケーションを行う時に必要な4つのポイントの頭文字を取った言葉です。ここではDESC法を用いて、アサーティブコミュニケーションを具体的に紹介します。
ここでの設定は、上司から「今日中に」と急ぎの業務を頼まれたものとします。
Describe(描写する)
まず起こった出来事や相手の行動についての意見を率直に述べます。ここでは相手への評価や、自分の気持ちは含めずに、状況をそのまま具体的かつ客観的に伝えましょう。
良い例
「15時までにやらなければならない業務があるので、それを終わらせてからでもよろしいでしょうか」避けたい例
「今やらないといけない業務がたくさんあるので、無理です」
Explain(説明する)
次に自分の気持ちを相手に伝えます。感情的になったり攻撃的になったりしないよう、相手を思いやることが大切です。
良い例
「余裕があればぜひお引き受けしたいのですが、今日は手を付けられそうにありません。申し訳ありません」避けたい例
「忙しいから今日はできません」
Specify(提案する)
自分の気持ちを伝えたら、どうすれば問題を解決できそうか具体的に相手に提案をします。
良い例
「明日になってもよろしければお引き受けできますが、いかがでしょうか」避けたい例
「今は忙しいので今度にしてください」
Choose(選択する)
上記の提案がこちらからの一方的なものになってしまわないよう、相手には「〇〇がダメだったら××ではどうか」と選択肢を与えるといいでしょう。
良い例
「どうしても今日中ということでしたら、別の担当者を探しましょうか」避けたい例
「明日になるのが無理ということでしたら、私にはできません」
アサーティブコミュニケーションのメリット
アサーティブコミュニケーションを習得すると、ビジネスシーンをはじめ生活全般におけるコミュニケーションに役立てられます。ここではアサーティブコミュニケーションのメリットを見てみましょう。
生産性の向上
アサーティブコミュニケーションは、ストレスが少なくお互いが意見を言い合えるので、ビジネスシーンでは業務効率が良くなることが期待できます。
例えば仕事を断れない、そのため能力以上の業務を抱え込んでしまう、という人もいるでしょう。負担が増えると心身のバランスを崩しかねません。
アサーティブコミュニケーションがとれるようになると、仕事を誰かと分担したり期限を延期したりすることが可能になるかもしれません。体調を崩すこともなく、その結果、仕事に穴を開けることがなくなります。組織としては生産性が向上することにつながります。
コミュニケーション活性化
単なる自己主張は一歩間違えてしまうと、自分の意見ばかりを押し付けてしまい、相手が意見を言えなくなるケースも。片方が上司や顧客だと、なおさらコミュニケーションが一方的になりがちです。
しかし、アサーティブコミュニケーションは自己主張をすると同時に相手の主張にも耳を傾けます。上司や社外という垣根を越えたコミュニケーションによって人間関係がスムーズになり、新たなアイデアが生まれやすくなります。
仕事でのストレスが軽減
自分自身の主張のことばかり考えていると、「自分の主張を聞いてもらえなかった」とストレスがたまる一方です。結果的に、ビジネスのパフォーマンス低下につながってしまいます。
アサーティブコミュニケーションを用いれば、自己主張する一方で相手の感情にも寄り添うことになります。双方にとって「分かってもらえなかった」というストレスを軽減することにつながります。
アサーティブコミュニケーションを職場で実践してみよう
アサーティブコミュニケーションについて見てきました。まず、自分自身のコミュニケーションは、3つのどのタイプに当てはまるか確かめるところから始めましょう。
アサーティブコミュニケーションが身に付けば、自分も相手もストレスを感じることなく業務を進めることができます。忙しい日常において、余計なストレスが減らせるというのはうれしいことです。
今回紹介した「DESC法」を用いて、ぜひ実践してみてください。